今大会の特徴としては、接戦が多かったという点が挙げられる。延長10回から適用されるタイブレークが史上最多の8試合を数えた(過去最多は2024年と2023年の6試合)逆転勝ちは全49試合中22試合と、ほぼ半数。また、約三分の一に当たる15試合が1点差ゲームでの決着となった(筆者独自調べ)。出場校間に大きな戦力差がなく拮抗したパワーバランスがもたらした稀に見るタフな大会。そんな中で、優勝した沖縄尚学の末吉良丞投手、新垣有紘投手を始め、ベスト8まで勝ち進んだチームで主力を張る2年生の活躍が際立つ大会でもあった。

2年生が躍動の夏 沖縄尚学が誇る二枚看板

 優勝した沖縄尚学には末吉良丞投手(沖縄県)、新垣有紘投手(沖縄県)のWエースの存在があった。末吉投手は春センバツでも活躍した左腕、MAX150km/hの速球に130km/h台の高速スライダーで三振の山を築く。持ち球は他にカーブ、スプリットがある。1回戦の金足農業(秋田)戦では9回 115球 3安打完封、14奪三振とドクターKの本領を発揮。その名を全国に轟かせた。決勝戦では先発した新垣有紘投手を8回途中からリリーフ。強打の日大三高打線を封じて胴上げ投手となった。

●末吉良丞投手(沖縄尚学) 第107回全国高等学校野球選手権
6試合(先3)2勝0敗3S:34回 526球 被安打24(被本塁打0)失点7 自責4
防御率:1.06 奪三振39(率10.32)与四球7(率1.85) WHIP:0.91 K/BB:5.6
また、9月5日から地元沖縄で開催された第32回WBSC U-18野球ワールドカップに2年生で唯一選出され甲子園そのままの投球を披露。詰めかけたファンを喜ばせた。

●末吉良丞投手 第32回WBSC U-18野球ワールドカップ
3試合(先3)1勝1敗:11回2/3 204球 被安打9(被本塁打0)失点3 自責3
防御率2.31 奪三振11(率 8.49)与四球5(率3.86) WHIP:1.20 K/BB:2.2

 新垣投手は最速146km/hのストレートと120km/h台の縦に落ちるスライダーが軸。時折鋭く落ちるフォークボールを有効に使ってこちらも奪三振ショーの主演を務めた。春センバツでは、先発した横浜高校戦で1回 2安打1死球 3失点。思うようなピッチングが出来ず悔しい思いをしただけに夏に懸ける気持ちが強かった、と比嘉公也監督は心中を推し量る。“甲子園での借りは甲子園でしか返せない”そんな思いが新垣投手を大きく成長させたのかもしれない。投げるたびに進化する2年生。この先、どんな成長曲緯線を描いていくのだろうか?

●新垣有紘投手(沖縄尚学) 第107回全国高等学校野球選手権
4試合(先3):4勝0敗 22回 317球 被安打14(被本塁打1)失点2 自責2
防御率:0.82 奪三振24(率9.82)与四球8(率3.27)WHIP:1.00 K/BB:3
新垣投手は沖縄高校選抜チームの一員として、U-18W杯開催に先んじて行われた侍ジャパンとの壮行試合に先発登板。盟友・末吉投手との投げ合いが実現した。

●沖縄高校選抜vsU-18日本代表
1試合(先発):0勝1敗 2回1/3 55球 被安打5(被本塁打0)失点 2自責2
奪三振0 与四球2

大会2発5打点の大暴れ! 4番に座る右の大砲!

 準優勝チームの日大三高で4番を張るのは2年生の田中諒選手(東京都)。180cm、92kgのサイズを活かしたパワフルなバッティングでチームの決勝進出に貢献。坂本勇人選手(巨人)のような、ゆったりとした始動、足はあまり上げずすり足に近い。スイングは速く、バットが鞭のようにしなり打球が加速度的に伸びていく。インコースの捌きが上手く、肘を畳んで体の回転で打ち返す。甲子園で2本塁打。2024年の低反発バット導入後、初めて1大会で複数本塁打を記録した。その前の西東京大会でも2本のホームランをかっ飛ばしている。また打率も高く確実性を兼ね備える。守備では打球に対しての一歩目が早い。決勝の沖縄尚学戦で見せたカメラマン席の際で掴んだファウルボールキャッチのようなフェンスを怖がらない強いメンタルでチームのムードを盛り上げる。小学生の時は捕手(ジャイアンツJr.)。当時からキャッチングの評価は高く一塁転向の現在もそれは変わらない。

●田中諒選手(一塁手)(日大三高) 第107回全国高等学校野球選手権
5試合:22打数8安打(二塁打1 本塁打2)打点5 打率.364 三振1 四球0 死球0
出塁率.364 長打率.682 OPS:1.045 守備での失策1

甲斐の怪童

 山梨学院大学附属高校のベスト4進出に大きな力となったのが菰田陽生選手(投打二刀流・千葉県)。身長194cm、体重100kg はMLBでMVP3度獲得の二刀流・大谷翔平選手のイメージと重なる。投げては角度のあるMAX152km/hの重いストレートを武器にスライダー、カーブ、フォーク、ツーシームを駆使し相手打者に真っ向勝負を挑む。打っては高校通算25本塁打を誇る長距離砲。正に令和の二刀流、“NEXT大谷翔平”の出現である。

●菰田陽生投手(一塁手) 第107回全国高等学校野球選手権
投手:4試合(先4):1勝0敗 16回2/3 222球 被安打9(被本塁打0)失3 自3防御率1.62 奪三振6(率3.24)与四球3(率1.62)WHIP:0.72 K/BB:2
打者:4試合:15打数7安打(二塁打1 三塁打2)打点6 打率.467 三振2 四球2 死球0 出塁率:.529 長打率:.800 OPS:1.329 守備での失策0

古豪を支える2年生投手カルテット

 ベスト4で惜しくも涙をのんだ県立岐阜商業。創部100年、春3回、夏1回の優勝を誇る名門だが、近年は夏の初戦を突破できず。準決勝進出を果たした2009年(第91回大会)まで遡らなければならなかった。その古豪に16年ぶりの夏の甲子園勝利がもたらされた。ここから始まった“県岐阜商旋風“は4人の2年生投手の活躍にも支えられた。その投手陣を牽引したのがエースナンバー1を背負った柴田蒼亮投手(岐阜県土岐市)。173cm、73kg。右投げ右打ち。MAX145km/hのストレート、120km/h台後半の縦スラ、カットボール、チェンジアップを駆使する本格派右腕。1回戦の日大山形戦で見事完投勝利。地方大会チーム打率.360を誇る強力打線に真っ向勝負。被安打7 失点3(自責2)135球の熱投で2回戦への扉をこじ開けた。東海大熊本星翔戦も完投。粘りの投球で勝利を呼び込み3回戦へ。大分・明豊戦で先発のマウンドに上がったのは背番号10の豊吉勝斗投手(岐阜県各務原市/181cm、84kg。左投げ左打ち)。1回1/3を1失点、四球2と制球に苦しむ中、ベンチが動く。背番号20を背負った渡邉大雅投手(岐阜県郡上市/173cm、74kg。左投げ左打ち)にスイッチ。この采配が奏功し6回途中まで無失点に抑え相手に行きかけた流れを止めた。最後は柴田投手に繋いで3-1で逃げ切る。ベスト8の横浜戦でも先発し5回を1安打無失点と好投。先発・リリーフに活躍の渡邉投手は、春は救援で好結果を残すも今夏の岐阜大会はケガの影響もありベンチ外。だが藤井潤作監督はポテンシャルの高さに期待をかけ背番号20を授けた。横浜戦も継投勝負となったが、柴田投手、そして背番号11の和田聖也投手(岐阜県垂井町/174cm、77kg。左投げ右打ち)に繋いで延長11回8x-7、タイブレークの死闘にサヨナラで決着をつけた。チームはベスト4で日大三高に敗れ敗退。しかし柴田投手を筆頭に形成された2年生投手カルテットが今夏の経験を糧に、この先どんな成長曲線を描いてくれるのか?楽しみは尽きない。

●柴田蒼亮投手(県立岐阜商業) 第107回全国高等学校野球選手権
5試合(先4):2勝1敗 36回1/3 542球 被安打33(被本塁打0) 失点17 自責8 
防御率:1.98 奪三振22(奪三振率5.45)与四球9(与四球率2.23) WHIP:1.16 K/BB:2.4

運命に導かれた九州男児

 横浜高校は春センバツで4度目の優勝を飾り、同校2回目の春夏連覇に挑んだ。背番号10を背負った織田翔希投手(福岡県)もエース左腕の奥村頼斗投手(滋賀県)とともに激戦の神奈川大会を投げ抜き甲子園帰還を果たす。185cm、75kg。右投げ右打ち。長身から投げ下ろすMAX152km/hの速球にカーブ、スライダー、チェンジアップを駆使する右の本格派。もう改めて説明がいらないほどプロも注目している剛腕投である。残念ながら準々決勝で県立岐阜商業にタイブレークの末延長11回で敗れ27年ぶり2度目の春夏連覇はならなかった。その一戦に先発し初回に1点を失うまで今夏の甲子園では23回2/3連続無失点を続けていた。驚きのエピソードも。3回戦の津田学園戦前日、食あたりの症状を訴えていた織田投手。しかし志願の登板で見事、完封をやってのけた。身体能力だけではない鋼のメンタルもエースの大事な資質。2年前の夏、神奈川県大会決勝で慶應義塾に敗れ甲子園出場を逃した時、村田浩明監督が気持ちのリセットのため家族旅行で訪れた九州。福岡で中学教師を務める大学の先輩から織投手田を紹介された。もし慶應に勝利して甲子園に出ていたら巡り合えなかった逸材。「何かの縁」と述懐する村田監督。赤い?かどうかは分からないが、運命の糸に引き寄せられ横浜のWエースの一角を担うまでに成長を遂げた。この秋の新チームから背番号1を背負うであろう織田投手。名実ともにエースとして、センバツ連覇、そしてその先の大偉業に挑む。

●織田翔希投手(横浜) 第107回全国高等学校野球選手権
4試合(先3):3勝0敗 27回1/3 365球 被安打21(被本塁打0)失点2 自責2
防御率:0.66 奪三振16(奪三振率5.27)与四球6(与四球率1.98)WHIP:0.99 K/BB:2.7

 今大会は序盤に広陵高校(広島)の史上初となる大会途中棄権(コロナ以外で初)があり、重苦しい空気を引きずりかねない状況にあった。しかし、ベスト4に躍進した県立岐阜商業の頑張り、その象徴だった横山温大選手。ハンディキャップを感じさせない素晴らしい活躍に勇気と感動を与えられたファンは多かったと思う。そして、次世代ともいうべき2年生プレイヤーの躍動。彼らの野球に対する真っ直ぐな想いがギリギリの攻防を生み、接戦のドラマを演出した。だからこそ、記憶に強く刻まれた大会になったのではないかと筆者は思うのである。

※数字はバーチャル高校野球のスタッツを元に筆者が算出


渡邉直樹

著者プロフィール 渡邉直樹

1967年4月8日生まれ 東京都出身  1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV) /1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当 /琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中 /スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA) /他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり /MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)