取材・文/田澤健一郎 写真/マーヴェリック

いい選手を探すのがスカウトの仕事。チームに必要かを見極めるのがGMの仕事

―一言で「GM(ゼネラルマネジャー)」といっても、日米、あるいは球団によって業務内容は異なる印象があります。ファイターズにおけるGMの業務内容を教えていただけますか?

木田 たしかに、日本でもアメリカでもGMの役割はさまざまです。基本は“チームをつくる、編成する”ことですが、たとえば、お金の面まで見る人もいれば、お金はノータッチという人もいる。ファイターズは、GMの吉村(浩)がチーム統括本部長も兼ねているので、まさに“チームの現場すべて”を担当していると言えます。ですから、どこまでがGMの領域で、どこからが本部長の領域か明確に分けられないというのが現状かもしれませんね。

―そのなかで、GM補佐である木田さんの担当はどのようなものでしょう。

木田 メインとなる仕事は、ドラフトに向けてアマチュア選手を見にいくこと。また、現場にGMがいないときは、チームをフォローする役目もあります。

―具体的には?

木田 ホームゲームは約8割、ビジターゲームは約2割チームに帯同し、現場の状況を監督や選手にヒアリングします。もちろん、なにか問題があればGMに相談する。それらの役目を、遠藤(良平氏・GM補佐兼ベースボール・オペレーション部長)と分担しています。その合間に、アマチュアを視察する感じですね。

―アマの視察ということですが、スカウトとの違いはどういった部分でしょう。

木田 ファイターズの方針として、スカウトはチームの補強ポイントや弱点など関係なく“いい選手を探すこと”を仕事にしています。一方、我々はスカウトが推薦する選手を、補強ポイントなどを加味して獲得を検討するのが役目。最終的には、我々に大渕(隆*前スカウトディレクター・2017年よりスカウト部長)や山田(正雄*前GM・現スカウト顧問)なども加わり、ドラフトで指名する選手を決めることになります。

メジャーに環境面ではまだ及ばない

―木田さんはファイターズのGM補佐に就く前年、ルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズでも選手兼任でゼネラルマネジャーを務めていました。もとからGMという職種に興味があったのでしょうか。

木田 そうですね。引退後は、連盟か球団で働きたいと思っていました。

―連盟ですか。

木田 はい。メジャーリーグでプレーしたとき、日本の野球界を考えると、選手はメジャーでも通用するレベルになってきたけど、環境など他の面ではまだまだ届いていない部分がたくさんあると感じていて、それを変えたくなったんです。ならば指導者などよりも連盟や球団ではないかと。

―連盟も視野に入れていたということは、“球界への貢献”という意識もあったのですね。

木田 カッコつけて言えば、問題点を改善し未来のプロ野球選手たちが「楽しい」と感じてくれれば、プロ野球はますます栄えるだろうし、日本で「プロ野球選手になりたい」という子どもも増えると思っていました。

球団が選手を大事にする

―木田さんは日米のたくさんの球団を見てきたわけですが、印象に残るGMはいますか?

木田 現在、ブルージェイズの環太平洋スカウト部長を務めているダン・エバンスです。僕がドジャースにいたときのGMですね。

―どんな点が印象に残ったのでしょうか。

木田 彼がマイナーの選手を集めて話をした場面があったんです。「君たちが真剣に野球に取り組み、結果を出していい選手になったら、わたしがちゃんとメジャーに引き上げる。ただ、メジャーの選手枠は25人しかない。数に限りがあるんだ。もし枠がいっぱいのときは、他の球団でプレーできる働き場を探すから心配するな」と。日本ではあまりないシーンでしたね。

—球団が選手をとても大事にしている印象です。

木田 ドジャースの3A時代、リリーフだったのにチーム事情で先発をしていたときがあったのですが、若手の先発投手を2Aから上げるので、再びリリーフに配置変更になったことがありました。僕自身は問題なかったのですが、コーチが「木田には100%納得してもらって気持ち良くプレーしてほしいから」と球団事務所の日本語ができるスタッフに電話かけはじめたんです。「いまから言うことを、すべて訳して木田に伝えてくれ」って。

—選手としてはうれしいし、モチベーションも下がらずに済みそうです。

木田 日本にもこういった意識を持った球団関係者はいますけど、アメリカの方が割合は多かった気がします。

「自分で考えろ」選手の人間教育に力を注ぐ

―日本の場合はどのようなイメージだったのでしょう。

木田 昔からの流れで、「他の選手を蹴落としてでも一軍に上がらなければならない」みたいな空気がありますよね。「それって、違うのかもな……」と野球観が変わった気がしました。

―厳しい表現ですが、日本には“飼い殺し”という嫌な言葉もあります。

木田 そうですね。逆の意味でのエピソードですが、僕がオリックスにいたときフレーザーという外国人投手がいました。彼が日本で3年目のシーズンに、ウインという外国人投手が入団してきたんです。僕はフレーザーに向かって、「ライバルがきたな」と話したんですよ。そしたら彼は、外国人枠争いがあるにも関わらず「ライバルではない。彼はチームメイトだ」と言ったんです。本音はわからないですが、少なくともその場面ではきっぱりとそう言った。「かっこいいなあ」と感じたのですが、それを思い出しました。

―そういった価値観がメジャーにはある。

木田 吉井(理人)一軍投手コーチも「メジャーの方が浪花節だ」と話していますよ。

—「チームの優勝が一番」という意識が強くなれば勝利にも近づきそうです。

木田 もちろん、強くなりますよね。

―ファイターズは現在、本村幸雄氏が務めている選手教育ディレクター(選手寮である勇翔館教官)というポストを設けるなど、選手の人間教育にも力を入れている印象があります。

木田 はい。球団としてもいろいろな取り組みをしています。また、最初に選手に教えているのは、「自分で考えろ」ということ。自分で考えて行動できる選手を理想として目指しています。こうした球団の方針は、選手の成長スピードにも影響しているかもしれません。

(プロフィール)
木田優夫
1968年、東京都生まれ。1988年、日大明誠高からドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。3年目に12勝をマークし、以降、先発・リリーフと多彩な活躍を見せる。オリックス移籍を経てメジャーリーグでもプレー。日本復帰後は、ヤクルト、日本ハム、独立リーグ・石川ミリオンスターズにも所属した。日米通算581試合に登板して74勝83敗51セーブ。2014年に引退した後、現職。

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田澤健一郎

1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。