取材・文/石塚隆 写真/櫻井健司

大きな課題は、ポスト・筒香嘉智の育成

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DeNA体制がスタートとして今シーズンで6年目。高田GMはチーム編成のトップとしてスタート以来着実な成果を挙げてきているわけだが、ここにきて仕事のアプローチは以前と変わったのかと尋ねると「そんなことはありません。基本的には一緒ですよ」と言う。

 しかしながら、チーム補強の優先事項であるドラフト会議において、昨年ある変化が見られた。それは親会社がDeNAになって5回目のドラフト会議で、初めて3位で高校生の選手(松尾大河)を指名したのだ。過去4回のドラフトでは4位まで大卒、あるいは社会人の即戦力を指名し、いわば育成型と言える高卒の選手は5位からの指名が通例だった。

この方針の変化について高田GMは次のように語る。
「これまでは選手不足から即戦力が中心でしたが、ようやく上位指名で高卒の良い野手を獲れるという流れになりました。3位で獲得した松尾は層が厚くない内野手で、なおかつ右バッターということで指名したわけですが、即戦力を獲得するだけではなく将来を見越した補強というのもできる段階になったのです」
 なにがなんでもピッチャーと即戦力を獲るという時代は終わり、チーム編成は次のフェーズへと進みつつある。
 現在のレギュラーは若い選手が多いが、数年経てば当然のように衰えるか、もしくはFAなどを使いチームから出て行く可能性がある。高田GMが最も懸念しているのは、チームの顔である筒香嘉智の後継者育成だ。
「やはり、3年後5年後を見越してチームを作っていかなければいけない。そういったなかで筒香の後を継ぐような選手の育成は重要課題になりますね。ですから今回のドラフトでは5位で細川(成也)を獲ったんです。キャンプを見る限り長打力があり期待できますが、こればかりはどのように成長していくかはわかりません。
 不確定な要素も含みますが、はっきり言ってこれが我々の仕事なんです。やはり監督とはビジョンが違う。わたしも監督の経験がありますが、現場の指揮官からしてみれば、いくら将来を見越すといっても、そのシーズンをきちんと勝たなければいけない。成績が悪かったらクビになるわけですからね。そこでバランスを取るのがわたしたちの役目です」

 即戦力と育成の兼ね合いこそ、GMとしての腕が試されるところだ。
「そうですね。もちろん今年も勝たなければいけないけれど、将来のチームことも考えなければいけない。本当に悩みは尽きませんよ」

FAによる選手流出に備える次の一手が大切

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チーム編成においてこのオフに注目されたのが、チームのエース格だった山口俊がFA制度を利用して巨人へと移籍したことだろう。
DeNAは当然のように残留交渉をしたが受け入れられず、結局、山口を流出させてしまう。交渉をした高田GMは、最善の交渉は尽くしたという。
「わたしたちとしては当然残ってもらいたかったし、誠意をもってできる限りの条件は出しました。かなり譲歩させてもらいましたが、マネーゲームになってしまうと我々としては厳しいものがある。残念ではありますが、FAは選手の権利ですから仕方ありません」
DeNAとしてマネーゲームをしないというのは、かねてから明言していることだ。かつてDeNAは松坂大輔(現・ソフトバンク)の獲得を模索したことがあったが、結局のところマネーゲームに発展し、これを断念している。あくまでも筆者の考えではあるが、単なる人気やマネーゲームに翻弄され身の丈に合わない投資をすることはチームバランスを崩しかねない。
 山口に関しての最終決断は高田GMがしたわけだが、この件に関しては想定内のことであり、次の手をしっかりと打ち準備してきたという。その証拠に、DeNAはオフになるとフィル・クライン、ジョー・ウィーランド、スペンサー・パットンというメジャー経験のあるピッチャーを獲得している。
「常に次を考えてチーム編成を考えていれば慌てる必要はありません。今回の3人の外国人投手は早い地点からアプローチしていたし、いままでにはないレベルのピッチャーだと認識しています。確かにお金もかかりますが、成功する可能性の高い選手を選んだつもりです」

 そして、山口が移籍した巨人から人的補償で獲得したのが平良拳太郎である。プロ4年目の21歳。巨人ではファームで先発を任され、昨年秋にはプエルトリコのウィンターリーグにも派遣され将来を嘱望された存在だ。高田GMは、巨人から人的補償のプロテクトリストを見て平良獲得を即決したという。
「わたしたちとしてはチームの将来を考え、ここは若手で可能性がある選手を求めようということになった。平良は高校生のときからチェックしていた選手でしたし、巨人が手塩をかけてじっくりと育てていたのは知っていたので、そこに価値を見出したというわけです。言葉は悪いですが、“美味しい選手”ですし、かなり期待しています」

日本式GM業の醍醐味とは?

現在と未来を見据える能力がGMには必要なわけだが、DeNA体制も6年目を迎え、チーム作りは軌道に乗っているように見える。昨年は11年ぶりにAクラス入りし、いよいよ優勝も見えてきたのではないだろうか。
「ようやく優勝を目指す足掛かりはできたかな、という感じですよね。うちもチーム力は当然上がってはきているけど、昨年優勝の広島は黒田(博樹)が抜けたけど大きく戦力ダウンしているとは思えませんし、巨人だって大型補強をしている。勝つのは簡単ではないですが、普通にやればAクラスには入れる実力はあると思います」

 あらゆる希望に満ちあふれている春――高田GMにとってキャンプの時期というのは、1年のなかで一番心が休まるのだという。
「補強が終わり、チームスタッフが固まったこの時期は、自分にとって楽しい期間でもあるんです。獲得した選手が果たして予想通りの活躍をしてくれるのかという期待感もある。公式戦があるわけでないから、勝った負けたがないのもいまのうち。選手を毎日見ているだけで楽しいんですよ」

 正しいチーム強化や優勝するためのマニュアルなどあるはずはないが、データや経験を駆使し、中長期にわたり勝てるチームを作るのがGMの役目である。すべてにおいて仮説を立て実行し、真の答えを追い求める。果たして高田GMが思う、この仕事の醍醐味とはなにか?
「やはり結果を出すことに尽きます。そして、ドラフトで獲った選手が、例えば昨年であれば今永(昇太)のように働いてくれて優勝できたら、これに勝る喜びはないでしょうね。一歩一歩とはいえ、時間をかけて作ってきたチームに手応えは感じているので、そういう意味では今シーズンは非常に楽しみです」

開幕までもう間もなく。高田GMのきめの細かいチーム構築により、果たして最高の結果を残すことはできるのか。ラミレス監督と選手たちの奮闘に期待したい。

(プロフィール)
高田繁
1945年、大阪府生まれ。明治大学を経て、1967年ドラフト1位で読売ジャイアンツに入団。1年目からレギュラーに定着し、新人王を獲得。走攻守揃った選手としてV9時代のジャイアンツを支えた。引退後は、1985年~1988年まで日本ハムファイターズの監督の他、古巣ジャイアンツではヘッドコーチや一軍守備・走塁コーチ、二軍監督を歴任。2005年~2007年にかけて、北海道日本ハムファイターズでGM。2008年~2010年途中まで東京ヤクルトスワローズ監督。2011年から、横浜DeNAベイスターズのGMに就任し、今年で6年目を迎える。

石塚隆
1972年、神奈川県生まれ。スポーツを中心に幅広い分野で活動するフリーランスライター。『週刊プレイボーイ』『Spoltiva』『Number』『ベースボールサミット』などに寄稿している。


VictorySportsNews編集部