快速球とマウンドさばきが光る寺島成輝(履正社高)
昨年の野球シーズンが終わった時点では、「来年の高校生は不作だな」と見られていた。だが、結果的に春から夏にかけて評価を高めた逸材が相次いだため、そのムードは霧散したのだが、昨秋時点から「ドラフト1位候補」と言われていた唯一の高校生が寺島だ。まさにこの1年、高校球界のドラフト戦線の最前線を走り続けてきたと言っていいだろう。
寺島は、183センチ85キロという立派な体つきをしたサウスポー。この投手の長所は、わかっていてもミートできないストレートのキレと、冷静で大人びたマウンドさばきにある。ストレートの最高球速は150キロだが、普段は7~8割程度の腕の振りに抑えて左右両コーナーに投げ分ける。腕の振りが強くなくてもほどよく脱力できているからか、今夏の甲子園では打者が差し込まれるシーンが目立った。左投手の本格派はえてして制球に苦しむことが多いが、寺島はストレートのコントロールが良く、高校生相手ならほとんどストレートの配球でも抑えることができる。
今夏の甲子園では2回戦で横浜高との優勝候補対決で1失点完投勝利。続く3回戦の常総学院高戦では、同じくドラフト候補の左腕・山口裕次郎に先発を譲り、ロングリリーフで好投。大会後はU-18日本代表に選出され、12イニングを無安打、25奪三振をマークするという、恐るべき記録を残している。
投球のほとんどがストレートのため、変化球の精度など課題はあるものの、現時点でドラフト1位指名は間違いない。高校生ながら“即戦力”と見るスカウトもおり、会議前の状況によっては重複1位指名も十分に可能性があるだろう。地元・オリックスや、ソフトバンクなど、次代を担う左の先発投手が欲しい球団は多い。また、今年のドラフトの目玉である田中正義(創価大)に人気が集中した場合、「クジが当たる確率の高い寺島に」と方針転換するチームが現れる可能性もある。
潜在能力の高さはピカイチの藤平尚真(横浜高)
潜在能力の高さは今年のドラフト候補のなかでもナンバーワンと言っても過言ではないだろう。小学生では12球団ジュニアトーナメントのロッテジュニアに選出され、中学ではU-15日本代表、高校でもU-18日本代表とエリートコースを歩んできている。また、中学時代は千葉市リトルシニアに所属しながら陸上界でも活躍。走り高跳びで全中2位、続くジュニアオリンピックでは優勝を飾っている。
そんな運動能力の高さはプレーからもにじみ出ており、現在最速152キロのストレートはこれからまだまだ速くなりそう。スライダー、フォークの変化球も現時点でプロ級のキレがある。あとは1試合を通してゲームメークできるかどうか。藤平の投球を見ていると、相手が手も足も出ないような完璧なイニングがあったかと思えば、突然ホームランを浴びる回があるなど、調子のムラが激しい。そのため、ダブルエースの左腕・石川達也の救援を仰ぐことが多かったこともあり、このあたりがスカウト陣の評価が高まってこない要因。
プロで本当に“勝てる投手”になれるか疑問があるものの、まだ大きな伸びしろを残していることは間違いない。地元・ロッテには、同じ横浜高出身で投球フォームもだぶる涌井秀章がいる。偉大な先輩から“勝てる技術”を学ぶことができれば、夢もふくらむが、果たしてドラフトではどう判断されるだろうか。
評価がうなぎのぼりのパワー型左腕・高橋昂也(花咲徳栄高)
今年、評価の乱高下があった本格派左腕だ。昨秋時点で「ひと冬を越えたら楽しみ」と言われていた好素材だが、今春のセンバツでは初戦敗退。ストレートも130キロを越すのがやっとで、大会後には背筋痛を発症し、一時はドラフト戦線から消えたと思われていた。しかし、今夏の埼玉大会で見違えるような大変身を遂げ、通算37回を投げて52奪三振無失点の快投を見せた。
最速152キロをマークしたストレートはズドンと重みがある球質で、スライダー、フォークと落ちる球種で三振が奪えるのも大きな特徴。春からの急成長について、花咲徳栄の指導者もチームメートも「精神面の成長」を要因に挙げ、いままでよりも視野が広がったことで投球に好影響が出ているという。スカウト陣からの評価もうなぎのぼりで、甲子園大会前には寺島、藤平と並んで「BIG3」と称された。
甲子園では埼玉大会ほどの力は発揮できなかったものの、2勝をマークしてアピール。大会後にはU-18日本代表に選出され、韓国戦で先発して好投した。
現時点での状況からすると単独1位指名はないかもしれないが、有力な外れ1位候補になる。能力を高く評価している巨人や地元・西武など、各球団の駆け引きのなかで運命が大きく揺れ動くことになりそうだ。
ドラフト戦線に現れたシンデレラボーイ・今井達也(作新学院高)
今夏の甲子園優勝投手であり、今夏突然現れたシンデレラボーイでもある。今春の栃木県大会では、他投手に経験を積ませるチーム方針もあり登板なし。この時点では、「ドラフト候補」として認知されていなかった。しかし、夏の栃木大会をエースとして優勝に導くと、甲子園では圧巻の投球を披露した。
180センチ72キロと細身の体ながら、ストレートは最速152キロ。しかもボールがホップして見えるような球筋で、いかにもプロのスカウト好みな球質。さらに、左打者のインコースを130キロ台中盤のカット系のスライダーで何度も突く度胸とコントロールもある。甲子園大会の終盤ではさすがに疲れの色が見えたが、それでも決勝戦では1失点完投と試合をまとめきるなど、粘り強さも光るものがあった。大会後はBIG3の3投手とともにU-18日本代表入りを果たし、エース級の働きを見せている。
すでに「BIG3より上」と評するスカウトもおり、ドラフト会議では単独1位指名の可能性もあるだろう。今井を高く買うスカウトがおり、高卒新人をじっくりと鍛える土壌がある広島など、指名したら面白い球団だ。
2016年9月16日現在、寺島と藤平は高校生のプロ志望者に提出が義務付けられている「プロ志望届」を提出していないものの、近日中の提出が確実視されている。なお、プロ志望届を提出した高校生の一覧は日本高等学校野球連盟のホームページから見ることができる。このなかから、日本プロ野球の未来を担う逸材が輩出されることは間違いない。10月20日のドラフト会議本番を前に、ドラフト候補の顔ぶれをチェックしてはどうだろうか。
(著者プロフィール)
菊地高弘
1982年生まれ、東京都出身。雑誌『野球小僧』『野球太郎』編集部勤務を経てフリーランスに。野球部研究家「菊地選手」としても活動し、著書に『野球部あるある』シリーズ(集英社/既刊3巻)がある。