文/菊地高弘
プロの強打者を詰まらせ得る球の強さ
短髪のよく似合う丸みのある顔に、愛嬌のある笑顔。マウンド上で躍動する姿は、「エース」というより「野球小僧」という言葉のほうが似合う。黒木優太(立正大)とはそんな投手だ。
2016年5月、黒木は神宮球場のマウンドに上がっていた。立正大は東都2部リーグ所属であり、本来は神宮球場のマウンドに立つことはないが、この日は1部、2部の4試合が神宮球場で行なわれる特別な日だった。試合後、黒木はこんな感想を漏らしている。
「神宮では(雰囲気に)のまれることが多くて、あまりいい思い出はないのですが(笑)、今日は試合の途中から楽しむことができました。『早く終われ』と思うこともなく、野球少年のように楽しんで投げることができました」
神宮球場のスピードガンには151キロの最高球速が表示された。身長178センチ、体重75キロの黒木は迫力を感じるような肉体も、ボールに角度があるわけでもない。だが、強烈な腕の振りから放たれるストレートには、打者のバットを押し込むような勢いがある。大学での最高球速は153キロ。三振を量産できるようなタイプのボールではないが、プロの打者相手でも詰まらせることのできる球威がある。
プロで活躍するために必須の修正能力

本人は、「ストレートより実はスライダーのほうが自信はあります」と言う。だが、この日は立ち上がりから縦・横と2種類あるスライダーの精度がいまひとつで、三振を奪えるほどのキレがなかった。すると黒木は、驚くべき対応力を見せる。
「スライダーが浮いていて、『今日は三振を狙えない』と切り替えました。1回が終わってすぐ、スライダーの変化を小さくする配球に変えました」
なかなかできる芸当ではないだろう。現役時代に、社会人野球のシダックス、セガサミーで捕手として活躍した立正大の坂田精二郎監督は「黒木は悪いなりに抑える修正能力のある投手です」と評する。プロもアマも、投手が「絶好調」と感じる試合は年に数回あるかないかと言われる。本調子ではない試合でいかに仕事ができるか、それはプロの投手として生き残るために絶対に必要な能力のはずだ。
黒木は得意のスライダーだけでなく、カーブ、チェンジアップ、カットボールと多彩な球種を投げ分けることができる。プロでも日によって「困ったときはこのボール」と自信を持って投げられる変化球があれば、1年目から即戦力になるだろう。
昨季最下位に沈んだオリックスは、昨秋のドラフト会議でのウェーバー順が1番だった。つまり、そんなチームのドラフト2位に選ばれた黒木は、もっともドラフト1位に近いドラフト2位ということだ。1位指名の山岡泰輔(東京ガス)とともに、1年目から球団の浮沈を握る存在になるだろう。
プロでの背番号は自ら希望した「54」。かつてロッテで「ジョニー」の愛称で親しまれた黒木和宏(現・日本ハムコーチ)にあやかってのことだ。魂の投球で一世を風靡した黒木と、野球小僧ぶりがにじみ出る黒木。ただ同姓というだけでなく、ピッタリはまる「54」になりそうだ。
(著者プロフィール)
菊地高弘
1982年生まれ、東京都出身。雑誌『野球小僧』『野球太郎』編集部勤務を経てフリーランスに。野球部研究家「菊地選手」としても活動し、著書に『野球部あるある』シリーズ(集英社/既刊3巻)がある。