堅い守りが優勝に不可欠

「戦力的に見て、ソフトバンクに対抗できるのは西武くらいだ」

 今季開幕前に多くの評論家からそんな声が聞こえてきたものの、蓋を開けてみれば、優勝した日本ハム、2位のソフトバンクに20ゲーム差以上離されての4位。35年ぶりとなる、3年連続Bクラスの屈辱を味わった。

 10月3日に就任会見を開いた辻発彦新監督は、古巣の苦境が気になっていたと明かしている。

「常勝チームである西武ライオンズがここ数年低迷しているというところで、なんでこういう状態にあるのか、自分なりに考えたこともあります。それだけのスタッフを持って、勝てないところになにかの原因があると思います。野球はピッチャーを中心とした、まずは守りから入っていかないと、143試合戦って優勝することはできないと思います。その1点をいかにしてとるか、いかにして守るかというところからはじめたいと思っています」

 低迷の大きな原因は、守りにある。2016年は12球団最多の101失策を記録。とりわけ中島宏之(オリックス)が退団した2013年以来、レギュラー不在のショートではシーズン序盤、金子侑司、外崎修太がイージーミスを連発した。天然芝のコボスタ宮城、土の県営大宮で守備に不安のあるふたりを起用し、ミスが生まれたのは使った側にも問題がある。実際、金子侑は夏場から外野のレギュラーに定着し、外崎がシーズン終盤に出場したのはサードだった。ショートより守備の負担の少ないポジションに移されたことで、ふたりは打力を発揮した。裏を返せば、打撃重視の配置が守備に支障をきたしていたわけだ。

なぜ犠打失敗が多かったか

新指揮官の指摘する「いかにして1点をとるか」という意味では、小技も効果的に使えなかった。犠打数は12球団最少の80(最多は日本ハムで178、ソフトバンクは同3位の148)。バント成功率はリーグ1位の日本ハムが91%で、以下オリックスとロッテが86%、ソフトバンクが85%、楽天が83%に対し、西武は大きく劣って73%。バントはアウトを献上してまで走者を進めようという作戦なので、失敗するとチャンスを拡大できないだけでなく、試合の流れまで相手にいきかねない。

 そうした点について、田邊徳雄前監督が辞任会見で興味深いことを話していた。

「いろんな作戦を考えたり、悩んだりするなかで、いまのライオンズのチームのかたちは、8、9月の戦い方がベストだったのかなという感じはしました」

 夏場以降、バントではなく打っていく作戦を強く打ち出した。結果、優勝争いのプレッシャーと無縁だったとはいえ、チームは勝ち星を増やした。振り返ればシーズン序盤から中盤、バントのサイン自体に疑問が残る場面も少なくなかった。たとえば6月24日に行われたロッテ戦の7回、5対7から3連打で1点差に迫った無死1、2塁で浅村栄斗にバントのサインを出し、併殺に倒れている。あくまで結果論だが、それまでの勢いと浅村の持ち味を考えれば、強攻で良かった。

 同日は1番から秋山翔吾、金子侑、森友哉、エルネスト・メヒア、浅村、栗山巧と並べたように、西武打線の特徴は打力にある。そうした選手たちにバントをさせるより、打たせたほうが力を引き出せるのは明らかだ。事実、夏場からそうした戦いに切り替えたことで、チームは持ち味を発揮したと前監督は振り返っている。つまり守備やバントのミスは、単に技術が足りなかっただけではなく、選手配置や起用法のミスマッチから生まれたところも大きい。

攻撃の森か、守備の炭谷か

来季、辻新監督に求められるのは、強い統率力とブレない戦い方の徹底、適材適所の起用だ。現在の西武には守備より打力に持ち味のある選手が多いなか、どうやって守備の立て直しを図っていくのか。2016年のレギュラークラスに守備力を上げさせるのか、あるいは守備重視のメンバーに切り替える手もある。就任会見で聞かれると、辻監督はこう答えた。

「見ている限り、(レギュラーが)確立されていますよね。その技術が上がってくれば、もっとこっちも安心して見られるんじゃないかと思います。それでも投手の守備しかり、内野手の守備しかり、全部守備のミスが勝敗に左右するので、『(守備が)どうかな?』というときには、そこそこ打っている選手より、ちょっと打てないけれども守りがしっかりしている選手、という気持ちになるかもわからないです」

 ショートでいえば、呉念庭が2016年くらいの打撃成績(打率.194)に終わった場合、守備力のある永江恭平や新人の源田壮亮が重用されるかもしれない。そうした起用を各ポジションでしていけば、エラーの数を減らせる可能性が高い。もちろん試合状況やチーム状態で起用法は変わってくるので、指揮官には的確な使い分けが求められる。

 注目される捕手は、守備の炭谷銀仁朗か攻撃の森友哉のどちらを軸にするのか。就任会見で、辻監督は森についてこう話した。
「実際キャッチャーができれば、あの打力は脅威じゃないですか。彼がそこに入れば、ますます破壊力が出るというか、打線に切れ目がなくなるんじゃないかという可能性はあります」

 一方、炭谷への評価だ。

「(中日のコーチ時代に)交流戦で戦ってみたりしながらも、肩の強さであったり、キャッチャーとしては申し分ないと思っていました。打つほうは(中継の)解説でも冗談で、『身長分も打率がないようでは』という話をしていました。やっぱりキャッチャーは喉から手が出るほど、どこもほしいんですよ。中日もそこが決まらないから低迷していました。(西武には)炭谷君がいますから。十分に経験を積んでいますしね。どうなるか、まだわかりませんけど」

 森の起用法は、西武にとって大きな問題だ。捕手で育てるのか、打力を生かすために指名打者や外野に回すのか、はっきりしないまま入団から3年間が過ぎている。昨季はシーズン途中に打撃不振で二軍落ちした際、捕手ではなく、代打や指名打者で起用された。一転、優勝の可能性がなくなったシーズン終盤になると、捕手で使われている。つまり、チームで森をどういう選手に育てていくのか、ビジョンが明確ではないのだ。

強いチームに共通する姿勢

森だけでなく、育成力が落ちていることは近年の西武にとって心配な材料だ。たとえば、高卒で現在戦力になっている投手は菊池雄星、武隈祥太しかいない。エルネスト・メヒアを除き、外国人の補強も数年うまくいっておらず、長いペナントレースを戦ううえで痛手となっている。

 これらは監督の力で解決できる問題ではない。本気で再び常勝西武を取り戻そうとするなら、スカウティングやチームビルディングから見直す必要がある。

 そのうえで辻新監督に期待がかかるのは、黄金時代を生きた経験があるからだ。1994年にダイエーから加わった佐々木誠(現ソフトバンク三軍打撃コーチ)が西武の強さについて、「一人ひとりがチームのためになにをすべきかと考えて動いていた」と話していたことがある。つまり、勝利を目指すうえでどういう戦い方をすべきか、全員が把握していたのだ。

 今季でいえば、優勝した日本ハムや広島にそうした姿勢がうかがえた。また11年ぶりのAクラスに入ったDeNAでは、アレックス・ラミレス監督が春季キャンプ中から個々に明確な役割を伝えたという。躍進するチームは、指揮官の下でひとつにまとまっているものだ。

 逆に近年の西武は、監督が選手に明確な役割を伝えられず、チーム一丸となれていない。今季のチームでは橋上秀樹作戦コーチ(来季から野手総合コーチ)が攻撃、潮崎哲也ヘッド兼投手コーチ(来季から二軍監督)が投手の采配を決めており、戦い方や選手への役割分担が曖昧だった。

 辻監督に求められるのは、まずはどういう方針で戦っていくべきかを見極めて、ビジョンを明確に伝えることだ。そのうえで、選手個々に役割を与える。そうしてひとつになった戦うことが、チーム再建には不可欠である。

 戦力的にはソフトバンクに対抗できるように見えながら、20ゲーム以上離されたチームの闇は深い。本気で常勝復活を目指すなら、指揮官の理想を編成や二軍も共有し、育成やドラフト、外国人の補強で生かしていくことが求められる。再建を期すチームに必要なのは、強いリーダーと明確なビジョンだ。

(著者プロフィール)
中島大輔
1979年、埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材し『日経産業新聞』『週刊プレイボーイ』『スポーツナビ』『ベースボールチャンネル』などに寄稿。著書に『人を育てる名監督の教え すべての組織は野球に通ず』(双葉新書)がある。


中島大輔