もつれる広島ともつれない日本ハム
広島が出場した過去6度の日本シリーズを振り返ると、もつれる展開がほとんどだ。リーグ初優勝を果たした1975年は日本シリーズで阪急と対戦し、2分4敗。1勝もできずに涙を飲んだ。しかし、1979年、1980年と2年連続で近鉄と対戦し、いずれも第7戦までもつれて連続日本一に輝いた。阪急と対戦した1984年の日本シリーズも第7戦までいって日本一。西武と対戦した1986年の日本シリーズは史上唯一となる第8戦まで戦ったが敗退。1991年、西武との日本シリーズは第7戦で敗れた。1979年以降、広島が出場した5回の日本シリーズはすべて第7戦以降までもつれているということになる。
一方、日本ハムは日本シリーズで第7戦まで戦ったのは一度だけだ。東映時代、パ・リーグ初優勝を果たした1962年に阪神と日本シリーズで戦い、2連敗のあとから1分をはさみ4連勝で日本一となったときだけである。巨人と対戦した1981年、2009年、2012年の日本シリーズはいずれも2勝4敗で敗退。中日と対戦した2006年は4勝1敗で2度目の日本一となったが、同じ対戦となった翌年の日本シリーズは1勝4敗で敗れた。
過去の日本シリーズ成績を見る限り、もつれる広島、もつれない日本ハムという傾向があるようだ。第1戦から第8戦まで、両チームの通算成績を見ると、ともに第1戦、第2戦で負け越している。第3戦、第4戦は勝ち越しており、両チームとも日本シリーズではスロースターターと言えそうだ。


交流戦での対戦成績は日本ハムが大きく勝ち越し
次にセ・パ交流戦での両チームの対戦成績を見てみよう。今季は、札幌ドームで2試合、旭川で1試合戦い、広島が2勝1敗と勝ち越した。しかし、通算では日本ハムが31勝18敗1分と大きく勝ち越している。広島が勝ち越したのは今季と2010年、2006年の3回しかない。
広島の本拠地では広島が10勝、日本ハム15勝。日本ハムの本拠地では広島が8勝、日本ハムが16勝(1分)といずれも日本ハムが勝ち越している。広島が札幌ドームでの3連戦で勝ち越したのは2006年しかない。
その年によってメンバーも変わるために一概には比べられないが、交流戦での対戦成績では日本ハムのほうに分がある。
日本ハムの主力野手と広島投手陣の最近5年の対戦成績では、近藤健介が17打数6安打、打率.353とよく打っている。今季こそ対戦がないが、相性がいいようだ。田中賢介は38打数13安打、打率.342。中田翔は69打数21安打4本塁打、打率.304とよく打っているが、今季は12打数2安打に抑えられている。
西川遥輝は41打数14安打、打率.341。レアードは昨季8打数ノーヒットだったが、今季は10打数6安打で打率6割。逆に陽岱鋼は49打数10安打、打率.204。大野奨太も22打数1安打、打率.045と広島投手陣を苦手にしている。

大谷翔平の二刀流デビューはマツダスタジアム
投手として10勝、防御率1.86。野手としても打率3割、100安打以上、22本塁打と歴史的な活躍を見せた大谷翔平。日本シリーズでも二刀流としてどのようなプレーを見せるかに注目が集まるが、大谷がプロ入り後初めて先発投手として打順にも入ったのは2013年6月18日にマツダスタジアムで行われた広島戦だった。
指名打者制が使えないこともあり、大谷は5番・投手で先発出場。先発投手が3~5番を打ったのは1963年の梶本隆夫(阪急)以来50年ぶりのことだった。投手としては4回3失点だったが、降板後にライトの守備につき、打者としては1安打1打点を記録した。あれから3年経ち、二刀流デビューを飾ったマツダスタジアムでますます進化した姿を見せてくれるに違いない。
打者・大谷と広島投手陣の対戦成績は、今季こそ10打数2安打と抑えられたが、通算では31打数11安打、打率.355と好成績だ。なかでも、リリーフでの登板が予想される大瀬良大地に対し4打数3安打と相性がいい。今季限りでの引退を表明した黒田博樹との対戦はまだなく、日本シリーズという大舞台で初対戦を迎えることになる。この対決は、今シリーズでプロ野球ファンを釘付けにしそうだ。
投手・大谷と広島打線の対戦は2013年と2014年に1度ずつあるが、ここ2年は交流戦の広島戦で大谷は登板していない。通算では1勝、防御率4.00と大谷にとってはあまりいい成績を残せておらず、今季所属している広島の打者では松山竜平とブラッド・エルドレッドに本塁打を打たれている。

黒田博樹の登板時によく打っている広島の選手は?

日本シリーズの直前に、今季限りでの現役引退を発表した黒田博樹。通算200勝以上の投手では1969年の金田正一(巨人)、1988年の東尾修(西武)が引退した年に日本シリーズで登板し、チームも日本一となっているが、黒田も花道を飾ることができるだろうか。
会見で黒田は、新井貴浩にだけ引退を事前に伝えていたそうだが、同じ時期に広島を離れ、同じ時期に戻ってきたふたりの絆は深い。リーグ優勝時にふたりが抱き合った光景に涙したファンも多いだろう。
では、黒田が先発した試合で盟友である新井はどれぐらい打っているのだろうか。今季、黒田が先発した24試合中、新井は18試合でスタメン出場した。8月27日の中日戦で満塁本塁打を打っているが、黒田が降板したあとの延長10回のことだった。黒田先発時の新井の成績は72打数15安打、打率.208と黒田をあまり援護できていないのが現実である。
広島の主力野手で黒田登板時の成績が最もいいのは菊池涼介で100打数35安打、打率.350。鈴木誠也も、打率こそ高くないが1試合2本塁打を2回記録し、計5本塁打を放って援護している。黒田を盛大に送り出すためにも、打線の奮起に期待したい。

黒田の日本シリーズでの登板は、第2戦か第3戦が予想される。第7戦までいけばもう一度先発の機会が回ってくるかもしれないが、ここで思い出したいのが広島は過去の日本シリーズで6回中5回が第7戦以降まで戦っていることである。
3勝3敗で迎えた第7戦、日本一をかけた最終決戦で現役最終登板の黒田が先発としてマウンドにあがる可能性もある。果たして、そんなドラマチックな展開が待っているのだろうか――。黒田の最終登板という、あまりに大きなイベントも含まれた2016年の日本シリーズ。圧倒的な強さでセ・リーグを制した広島と、大逆転で王者ソフトバンクを引きずりおろした日本ハムの激戦に期待したい。
(プロフィール)
京都純典(みやこ・すみのり)
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。