首位に立っていたのはわずか14日間

6月24日時点で首位ソフトバンクに11.5ゲーム差をつけられていた日本ハム。そこから50勝22敗2分と驚異的なペースで勝ち星を重ね、大逆転優勝を飾った。2桁以上のゲーム差をひっくり返しての優勝は2011年の中日以来7度目。11.5ゲーム差は、1996年の巨人に並び、史上3番目の大差逆転優勝となった。

 日本ハムが今季初めて首位に立ったのは、115試合目の8月25日のことである。リーグ優勝チームでは2008年巨人の131試合目、1998年西武の116試合目に次いで3番目に遅い初首位だった。また、首位に立っていた期間はソフトバンクの合計149日に対し、日本ハムはわずか14日。優勝決定までの首位日数は、2008年巨人の11日に次いで少なく、パ・リーグでは史上最少だった。

 首位に経っていた日数こそ極端に少ないが、一方で強さを示す数字もある。2012年に日本ハムが優勝したときは、パ・リーグの3球団に負け越したが、今季は全球団から勝ち越している。全球団に勝ち越しての優勝は、球団史上初のことだった。

二刀流のメリットを最大限に生かした大谷翔平

大逆転優勝の立役者を挙げるとすれば、まずは“野手”としての大谷翔平だ。規定打席にこそ達しなかったが、打率.322、22本塁打、67打点はすべてプロ入り最高の成績。本塁打はブランドン・レアード、中田翔に次いでチーム3位。打点も中田とレアードに次いでチーム3位と打線の中心として大きく貢献した。

 大谷が打席に立った試合は、昨季の49試合から90試合とほぼ倍増している。内訳は、スタメンDHが80試合、先発投手として打席に立ったのが7試合、代打で3試合。この90試合でチームは57勝31敗2分。先発投手として打席にも立った試合は7戦全勝だった。全貯金33のうち、26は大谷が打席に立った試合でのものである。

 大谷は7月24日のオリックス戦で登板した後、指にできたマメの影響で9月7日のロッテ戦まで投げることができなかった。その間、野手としてほぼフル出場し134打数42安打9本塁打25打点、打率.313と大活躍。二刀流のメリットを最大限に生かした。

 約1カ月半の間にわたり離脱したものの、投手としての大谷も圧巻の一言だった。21試合に登板し10勝4敗1ホールド、防御率1.86。1イニングあたりに許した走者の数を表すWHIPは0.96、奪三振率は11.19である。規定投球回にわずか3イニング届かなかったが、防御率、WHIP、奪三振率はいずれも規定投球回に達していたらトップの成績だ。

 来年のオフにもポスティングによるメジャー移籍という噂があるが、もしそうなれば来季がNPBでプレーする最後のシーズンとなる可能性が高い。二刀流の集大成にもなるかもしれないシーズンで、大谷はどんなプレーを見せるのだろうか。

ほぼ固定したメンバーで戦えた強み

大谷の影に隠れているが、中田翔は3年連続100打点以上を記録し、自身2度目の打点王に輝いた。また、来日2年目のレアードは、39本塁打で本塁打王のタイトルを獲得。レアードがクリーンアップを任されたのは10試合しかなく、クリーンアップでの本塁打は1本もなかった。つまり、史上初めて6番以下ですべての本塁打を放った本塁打王である。打率こそ.263だったが、下位打線に本塁打王がいるというだけで、相手バッテリーにかかるプレッシャーは確実にちがってくる。栗山英樹監督の絶妙な采配だった。

 ほかにも、41盗塁も記録しながら成功率も89.1%と高かった西川遥輝。ショートでも堅実な守りとファウルで粘って、相手投手に球数を投げさせる中島卓也。ベテランの田中賢介に、攻守両面で貢献した陽岱鋼など、野手陣はほとんどのポジションでレギュラーを固定。結果、12球団最多となる6人の選手が同じポジションで100試合以上スタメン出場した。打順は目まぐるしく変わったが、ほぼ固定したメンバーでシーズンを戦えたことも野球観を共有する意味で大きかった。

昨季0勝だった投手で今季は合計37勝

投手陣は、昨季勝利を挙げた17人のうち、勝利数を増やしたのは有原航平と白村明弘のふたりだけ。昨季勝利を挙げた投手の合計勝利数は79勝から49勝に減った。それでも優勝できたのは、新戦力と昨季0勝だった投手で今季は37勝とカバーしたからだ。

 ルーキーの加藤貴之が7勝、新外国人のアンソニー・バースが8勝、クリス・マーティンが2勝。加藤とバースは先発、リリーフの両方で活躍し、マーティンは増井浩俊が先発に転向してからクローザーとして21セーブを記録するなど存在感を示した。

 昨季0勝だった投手では、増井、高梨裕稔、榎下陽大が合計20勝。増井は、シーズン途中にクローザーから先発に転向という難しい調整を強いられたなかで、プロ初完封を記録するなど、先発として6勝1敗、防御率1.10と抜群の成績を残した。チームとして助かったのは、大谷が投手として離脱した穴をしっかりと埋めたことだろう。シーズン途中にクローザーから先発に転向してここまで成功した例は記憶になく、今季の栗山采配で最大にヒットに値すると言っていい。

 高梨はシーズン途中にリリーフから先発に回り、6月上旬から8連勝。シーズントータルでは10勝2敗、防御率2.38と飛躍を遂げた。高梨は昨季、一軍で2試合しか登板がなかった。だが、二軍ではチーム最多の11勝を挙げ、イースタン・リーグで2番目に多い114回2/3を投げていた。昨季は二軍で経験を積み、満を持して今季の活躍となった。

 日本ハムは12球団で唯一育成枠を使わず、65人前後の支配下登録の選手だけでチームを運用している。それがなにを意味するかとなれば、選手が少ない分、若手選手が二軍で実戦経験を積む機会が増えるということである。他球団では、若手選手が一軍と二軍を行ったり来たりすることも多いが、日本ハムは「この選手は今季二軍でしっかりと経験を積ませる」と決めたら、そのシーズンはまず一軍にあげることはない。2014年に8勝を挙げた上沢直之も、2013年に二軍でチーム最多の107回1/3を投げたが一軍戦力としたのは2014年だ。目先の勝利にとらわれず、先を見据えた育成を日本ハムは徹底しているのである。そういった背景が、世代交代のスムーズさを生んでいる。

 今季、二軍で300打席以上に立った日本ハムの野手は8人。90イニング以上投げた選手は4人もいる。武田勝のように今季限りで引退した選手もいるが、若手選手が二軍で経験を積んだ回数は12球団で最も多かったと見ていい。来季、そのなかから一軍の主力となる選手が出てくる可能性も十分ある。

二刀流・大谷の強みを生かし、ほとんど生え抜きの選手で戦いながら、外国人選手4人すべてが〝助っ人〟の役割を果たしての日本一。世代交代の進め方も理想的で、これぞまさに他球団のお手本になるようなチームだ。球団史上初の日本一連覇に挑む来季、大谷翔平の更なる進化とともに、どんな若手選手が出てくるかにも大いに注目が集まる。

(著者プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。


京都純典(みやこすみのり)