大会初日に首位と1打差の4アンダー3位と好発進を果たすと、2日目に7アンダー65のビッグスコアをマークし、通算11アンダー単独首位に浮上。3日目は2オーバー74とスコアを落としたものの、通算9アンダーで単独首位をキープ。そして最終日は2アンダー70と後続を突き放し、通算11アンダーでLPGAツアー(米国女子プロゴルフツアー)初優勝をメジャーの大舞台で成し遂げた。
山下選手のメジャー制覇で、今季のLPGAツアーで勝利を手にした日本人選手は4人目となった。開幕5戦目の「ブルーベイLPGA」(3月6~9日、中国/ジャンレイク・ブルーベイゴルフクラブ)で、参戦1年目の竹田麗央選手が通算17アンダーで後続に6打差をつけて圧勝。
開幕9戦目でメジャー初戦の「シェブロン選手権」(4月24~27日、米国/ザ・クラブ at カールトン・ウッズ)では、参戦2年目の西郷真央選手が通算7アンダーで5人が並ぶ激戦のプレーオフを1ホール目のバーディーで制し、待望のLPGAツアー勝利とメジャー勝利を同時に手にした。
開幕12戦目の「リビエラマヤオープン」(5月22~25日、メキシコ/エル・カマレオンゴルフクラブ)では、こちらも参戦1年目の岩井千怜選手が通算12アンダーでLPGAツアー初優勝をつかみ取った。
山下選手の勝利を含めると、日本人選手が今季20戦のうち4勝、メジャー5戦のうち2勝を挙げており、年間女王を争うCMEグローブポイントランキングも竹田選手が3位、山下選手が4位、西郷選手が7位、古江彩佳選手が16位、岩井千怜選手が19位と上位にひしめいている(8月7日時点)。
ところが近年は、日本人選手が海外メジャーで優勝しても、それほど大きな話題にならなくなってきた。2019年8月に渋野日向子選手が「AIG女子オープン」で日本人史上2人目の海外メジャー制覇を達成したときは、日本中が大騒ぎになる大フィーバーが巻き起こったのに、3人目の笹生優花選手(2021年「全米女子オープン」)、4人目の古江彩佳選手(2024年「アムンディ エビアン選手権」)、5人目の西郷選手(2025年「シェブロン選手権」)、6人目の山下選手(2025年「AIG女子オープン」)は、素晴らしい偉業として褒めたたえられているものの、国民の誰もが知るニュースにはなっていない。
渋野選手のときは1977年の樋口久子さん以来42年ぶりの快挙だったから盛り上がったが、その後は2年おきくらいにメジャー優勝者が誕生しているので、みんなの目が慣れてしまったのだろうか。この疑問に対して筆者の周りのメディア関係者はそろって同じ答えを口にする。それは「渋野選手ほど数字が取れない」である。
数字というのはテレビであれば視聴率、新聞や雑誌であれば販売部数、ウェブサイトであればPV(ページビュー)数のことである。渋野選手が2019年にメジャーで勝ったときは、これらの数字が飛躍的に伸びたのに対し、それ以外の選手のときはメディアが期待しているほど数字が取れないという。あるメディア関係者は次のような実情を語ってくれた。
「これはメジャーに限った話ではありませんが、渋野選手以外の日本人選手が優勝したり、上位に入ったりしたニュースよりも、渋野選手が予選ギリギリで決勝ラウンドに進出したり、予選落ちしたニュースのほうが、数字が取れます」
「ゴルフファンの中には『優勝争いしていない渋野選手のニュースよりも、優勝争いしている日本人選手のニュースをもっと出せ』という意見を持っている人もいます。でも、ニュースを配信する立場からすると、渋野選手が上位だろうが下位だろうが関係なく、見出しに『渋野』という名前がついているだけで、他のニュースよりも圧倒的に読まれるのです」
その話を聞いて思い浮かんだのが、MLB(メジャーリーグベースボール)のニュースが大谷翔平選手の話題ばかりということ。大谷選手はもちろん、それに見合った活躍をしているのだが、鈴木誠也選手も今季は27本塁打、84打点(8月7日時点)とキャリアハイの成績を挙げているし、山本由伸選手も今永昇太選手も菅野智之選手も十分な活躍を見せている。でも、前述のメディア関係者の言葉を借りると「大谷選手ほど数字が取れない」から、あまり大きく取り上げないのである。ライトユーザーは大谷選手のことしか興味がないし、渋野選手のことしか興味がないのだ。
したがって、2026年に日本人史上7人目のメジャー優勝者が誕生しても、すでにLPGAツアーに参戦している選手では、大して話題にはならない。話題になるとしたら、渋野選手に匹敵するほど応援したくなる新しい選手が彗星のごとく現れた場合のみだ。そういう選手が出てこない限り、今後も渋野選手に注目が集まり続けることになる。
それは別に悪いことではないが、気がかりなのは渋野選手がこのところ注目度に見合った活躍ができていない点だ。渋野選手は今季、LPGAツアー17試合、日本ツアー1試合に出場し、トップテンフィニッシュは2試合のみ。CMEグローブポイントランキングは88位に低迷している(8月7日時点)。そのことが本人にとって精神的な負担になっていなければいいのだが……。
筆者の希望としては、2026年のメジャーで渋野選手が劇的な復活優勝を果たし、“しぶこフィーバー”を超えるフィーバーを巻き起こした後、渋野選手と肩を並べるほど数字が取れるニュースターが現れてほしい。
2024年は笹生選手が「全米女子オープン」でメジャー2勝目を挙げた後、古江選手が「アムンディ エビアン選手権」でメジャー初優勝を手にした。2025年は西郷選手と山下選手がビックタイトルを獲得し、2年連続で2人の日本人選手がメジャー覇者になっている。日本人選手がLPGAツアーを席巻している現状を見ると、この勢いが3年続いても何ら不思議ではない。
日本人選手が次々とメジャーに勝っても渋野日向子のときのようなフィーバーが起こらないワケ
山下美夢有選手が「AIG女子オープン(全英女子オープン)」(7月31日~8月3日、ウェールズ/ロイヤル・ポースコール・ゴルフ・クラブ)で日本人史上6人目の海外メジャー制覇の快挙を達成した。

AIG全英女子オープンを制し、記者会見する山下美夢有 (C)共同通信