文/京都純典
恐さがを感じられなくなったかつての強力打線
2年連続で2位とはいえ、71勝69敗3分で貯金は2。優勝した広島に17.5ゲーム差もつけられての惨敗だった。519得点543失点で得失点差もマイナスと、強さよりも弱さが明らかに目立ったように感じる。
昨季、巨人のチーム打率はリーグワーストの.243。本塁打はリーグ4位の98本。打率と本塁打の両方がリーグ4位以下だったのは1993年以来のことで、シーズン20本塁打以上を記録した選手がいなかったのは1960年以来だった。球団史上に最悪と言ってもいいほどの貧打線を、どこまで立て直せるかが今季のポイントだったわけである。
今季は、ともにリーグ3位の打率.251、128本塁打と復調したように見える。新外国人選手のギャレット・ジョーンズは、打率こそ.258と高くなかったが、チーム2位の24本塁打を放ち長打力でチームに貢献。巨人の外国人選手で来日1年目に100試合以上出場したのは球団史上12人目だ。
坂本勇人は打率.344で自身初の首位打者に輝き、村田修一も打率.302にチーム最多の25本塁打。ケガで出遅れた阿部慎之助は打率.310、長野久義も打率.283とチームを支えてきた選手たちが、昨季の不振から脱した感はある。
だが、それでも以前のような強力打線というイメージとは程遠かった。巨人の四球数は、リーグ5位の389。昨季より50個近く減った。リーグ最多だった2012年からは70個近くも減っている。死球も昨季はリーグ最多の52だったが、今季は最少の35。
この数字が物語るのは、巨人の主力打者に浅いカウントで打ちにいく選手が多いこともあるということ。そして、相手バッテリーが巨人の打者に対してストライクを取りにいくことを恐れず、内角を厳しく突くことも少なくなったと考えられる。

25歳以下の野手の成績がリーグ最低

主力打者が昨季の不振から脱したことは、今季の数少ない明るい話題だ。しかし一方で、若手打者の伸び悩みはかなり深刻である。
今季、巨人の25歳以下の野手で一軍の試合に出場したのは5人。吉川大幾は中日から移籍した選手だから、生え抜きは4人ということになる。5人の合計出場試合数は120試合で、打率は.202。25歳以下の選手が放った本塁打は1本もなかった。出場試合数、打率とともにリーグ最低の数字だ。
今季、広島のリーグ優勝に大きく貢献した鈴木誠也や、史上初の2年連続トリプルスリーを達成したヤクルトの山田哲人、本塁打と打点の二冠に輝いたDeNAの筒香嘉智。巨人と同じく若手の伸び悩みが課題に挙げられていた阪神では“超変革”の象徴とも言われた原口文仁や北條史也。中日には正捕手を奪おうとしている杉山翔大と、他球団で最低ひとりは25歳以下で活躍した選手が浮かぶなか、巨人の若手選手の伸び悩みが目立っている。
巨人の高卒選手で、規定打席に達した最近の選手は2006年高校生ドラフト1位の坂本まで遡る。統一ドラフトでは、1992年1位の松井秀喜が最後だ。20年以上も生え抜きの高卒選手が規定打席に達していないともいえ、そのツケが近年の打線の不振を招いているのかもしれない。

田口麗斗の台頭が数少ない明るい話題
投手陣は、リーグ3位のチーム防御率3.45。昨季、リーグトップを記録した2.78から大きく下がった。ビジターの試合では昨季の3.15から3.60に下がり、本拠地東京ドームでは2.52から3.34にまで下がっている。
そんななか、先発陣で目覚ましい活躍を見せたのが高卒3年目の田口麗斗だった。チームで唯一2桁勝利の10勝を挙げ、防御率2.72はリーグ4位。ただ、田口も東京ドームでは防御率4.09で、3勝4敗と負け越した。打者の左右別成績を見ても、対右打者は被打率.225と抑えているのに対し、左打者には被打率.294とよく打たれた。得意不得意がはっきりしているところが来季に向けての課題だろう。
エース菅野智之は勝ち星こそ9勝止まりだったが、防御率は2.01で最優秀防御率のタイトルを獲得。マイルズ・マイコラスとアーロン・ポレダの両外国人や内海哲也がケガで長期に渡り離脱したなか、先発陣は最低限の仕事はした。
一方、リリーフ陣には高橋監督も頭を悩ませたのではないか。スコット・マシソンは70試合に登板し、防御率2.36、奪三振率も11.03と昨季の不振から脱したが、クローザーの澤村拓一はリーグ最多セーブを挙げたものの、防御率や奪三振率の成績は下がった。シーズン終盤の勝負どころで痛打を浴びる場面も多くあったのは痛かった。
山口鉄也はこのまま終わってしまうか……
そして、最も計算を狂わせたのが山口鉄也の不振だろう。自己記録を更新する9年連続60試合登板を達成したが、防御率は4.88でプロ入りワーストの成績だった。投球回も60試合以上に登板したシーズンでは最少の48回。シーズン終盤は左のワンポイントでの起用が主になり、不動のセットアッパーとしての姿はなかった。
左右打者別の成績では、対左打者を被打率.187と抑えているが、右打者には被打率.364。この数字を見ても、首脳陣がシーズン終盤に左のワンポイントとして起用するしかなかったのがわかる。
最近5年の成績を見ていくと、1イニングあたりに許した走者の数を表すWHIPと防御率、与四球率は2014年が最低だったが、奪三振率は年々下がっている。それだけの球の力が落ちているということだろう。
9年連続で60試合以上に投げ、通算登板も624になった。勤続疲労という言葉では足りないほど、体に疲れが溜まっているはずだ。若手の左腕、戸根千明は42試合に登板したが、防御率4.50とセットアッパーを任せるには物足りなく、8試合に登板した公文克彦はトレードで日本ハムに移籍。現状では来季もリリーフ左腕は山口を中心に計算せざるを得なく、復調に期待するしかない。

投打ともに課題多き、球界の盟主。もちろん課題は選手だけではない。突然の現役引退からの監督就任と、あまりにも急に立場が変わった高橋監督はどのように采配を振るえばいいのか迷っているようにも見えた。若手の台頭に期待しつつ、2年目を迎える高橋監督がどういった采配を見せるのか――。巨人の逆襲に期待したい。
(プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。