球団史上2度目の2桁勝利投手なし
694失点――。チーム防御率4.73。1イニングあたりに許した走者の数を表すWHIPは1.43。先発投手が6イニング以上を投げ自責点3以内に抑えた割合を表すQS%は41.3%。投手に関するあらゆる数値が12球団ワーストだったことからも、連覇を逃した要因は投手陣にあることは明確である。
先発陣は昨季の防御率3.68から4.96と大幅にダウン。チーム最多勝利は小川泰弘と石川雅規の8勝で、2桁勝利を挙げた投手はひとりもいなかった。チームとして伝統的に投手力を全面に打ち出したチーム構成だったときは少なかったが、それでも毎シーズン2桁勝利の投手はいた。ヤクルトが2桁勝利投手0に終わったのは、球団史上最低勝率.264に終わった1970年だけで、今季は2度目となる。ちなみに、防御率も球団ワーストの4.76(1984年)をあと少しで塗り替えてしまうところだった。
今季、先発で起用した投手は15人。中日と並んで12球団最多である。昨季の先発登板上位5人のうち、今季もそのなかに入ったのは小川と石川だけだった。新たに先発陣に加わったドラフト1位ルーキー原樹理は即戦力の期待が高かったものの、13試合の登板で2勝8敗、防御率5.91。5回未満で降板した試合が5試合、最長イニングは7回と先発として期待に応えられなかった。
原に限らず、ヤクルトが近年のドラフトで指名した投手はあまり結果を残せていない。
2013年以降、ヤクルトがドラフトで指名した投手は13人。育成ドラフトを除けば12人で、広島、DeNAと並びリーグ最多と積極的に投手を指名してきた。しかし、この3年で入団した投手の今季までの通算登板数は296試合でリーグ3位。通算投球回451回、通算勝利21勝はいずれもリーグ最少。通算勝利が2桁に届いているのは2013年ドラフト3位の秋吉亮だけ(12勝)だ。通算投球回が100回を超えているのも秋吉と2013年ドラフト1位の杉浦稔大のふたりしかいない。即戦力の期待があった投手が、ことごとく結果を残せていない状況では投手陣に苦労するのも当然だ。
リリーフ陣も崩れ……頼りになったのは秋吉亮だけだった

先発陣以上に成績を落としたのがリリーフ陣だ。昨季はリーグトップだったリリーフ陣の防御率2.67が、今季はリーグワーストの4.34まで下がった。昨季、リリーフ登板の多かった上位5人のうち今季もそのなかに入ったのは秋吉だけ。
昨季、先発とリリーフで貢献したオーランド・ロマンとクローザーとして41セーブを挙げたトニー・バーネットが退団。今季、新たにクローザーを任されたローガン・オンドルセクは首脳陣に反抗的な態度を見せるなどして謹慎処分を下され、シーズン途中で退団。昨季のリリーフ陣を支えた外国人投手3人が退団したうえに、新たな選手の台頭もなかったために厳しい戦いとなってしまった。
今季のヤクルトが月間成績で唯一勝ち越したのが8月。そのときの月間防御率は3.63と4点を切っていて、8月は15勝9敗と大きく勝ち越した。24試合中15試合でQSを記録するなど、先発陣も試合を作っていた。打線の破壊力は12球団でも屈指なだけに、投手陣さえ整備されれば、昨季のような成績を残せることは疑いようがない。

ケガ人が相次いだ頼みの野手陣

野手陣は、ケガ人が相次いだ。主力では川端慎吾と雄平はかろうじて100試合以上に出場したが、昨季の打点王の畠山和洋は45試合の出場に終わり打点は18に激減。ショートで安定した守備を見せる大引啓次もケガが多く、シーズン終盤は西浦直亨の出場機会が増えた。
結果的に大偉業を達成した山田哲人でさえも死球の影響で10試合欠場し、昨季は主力野手の中でウラディミール・バレンティンがシーズンのほとんどを棒に振ったが、今季はバレンティン以外の主力野手の名前がラインアップから消えた試合もあった。
それでもセ・リーグ2位の打率.256、594得点を記録。昨季の574得点から20得点増やし、リーグ屈指の攻撃力を保った点からはチームの底力を感じる。また、正捕手だった中村悠平が精彩を欠いていると見るや西田明央をスタメンに抜擢し、捕手の底上げをできたことは来季以降に向けて明るい話題だ。
投手陣の底上げがV奪還の絶対条件
近年のドラフトで投手重視の指名が多かったことや、主力に若い選手が比較的多いため、最近5年で指名した野手の出場機会は少ない。合計の出場試合数229、142安打はセ・リーグ最少で、12本塁打も巨人に次いで少ない数字だ。
そのなかで高卒ルーキーながら目覚ましい結果を残したのが廣岡大志だった。イースタン・リーグで113試合に出場し、12球団の高卒ルーキーでは最多の444打席に立った。打率.218、141三振とプロの壁にぶつかった面もあるが、20二塁打、10本塁打と長打力は非凡なところを見せた。
各チームの主力となっている選手の高卒ルーキー時の二軍成績と比べると、長打率は中田翔(日本ハム)や筒香嘉智(DeNA)に劣るが、今季大ブレークした鈴木誠也(広島)に匹敵する成績を廣岡は残している。
打撃フォームが山田哲人に似てきたことから山田二世とも言われるが、巧打よりも強打が持ち味の廣岡は、かつての主砲・池山隆寛にタイプとしては近い。一軍でのプロ初打席で三浦大輔(DeNA)からプロ初本塁打を放つなど、スター性もある。今季の経験を生かし、来季どれだけ成長を見せるか楽しみだ。

野手陣は、多少のケガ人が出ても得点力が大きく落ちることがないほど充実しており、若手の台頭もある。一方で、投手陣は課題が山積みだ。主力の奮起と若手の台頭を促しながら、どうにか整備していきたい。外国人投手を補強するのも一案だが、長期的に安定させるためには生え抜きの投手を少しでも多く一軍戦力にすること。圧倒的な攻撃力をバックに、多少のミスには目をつぶりながら投手を育てていってほしい。
(プロフィール)
京都純典
1977年、愛知県出身。出版社を経て独立。主に野球のデータに関する取材・執筆を進めている。『アマチュア野球』(日刊スポーツ出版社)、『野球太郎』(廣済堂)などに寄稿。