“限られた打者”に集中的に生まれている本塁打

山田哲人は、一昨年29本、昨年は38本と、本塁打の数を伸ばしてきた。今年で24歳という年齢を考えれば、今シーズンさらに上乗せしてもおかしくはない。とはいえ、現在の31試合で11本は年間51本ペースを意味しており、かなりのハイペースだ。打っているのは山田だけではなく、エルドレッドやビシエドなども年間50本に迫るペース。このラインでの本塁打王争いとなれば、なかなかレアなケースである。なにしろ、過去に50本塁打以上を記録したのはたった9選手だけ、回数でも14回しかいない。
しかし、ホームランとは、こんなにも簡単に生まれるものだっただろうか? そこでどうしても思い出してしまうのが、数年前の不完全な統一球(違反球)が引き起こした騒動である。「またボールの飛び方に変化が出ているのではないか」そんな疑問を覚える癖がついてしまったファンも少なくないだろう。(図1参照)

しかし、この10年のセ・リーグの1試合あたりの本塁打数を見てみると今年の数字は7番目に過ぎない。リーグ全体として、今年の本塁打の出方は特別なものではないようだ。むしろ統一球の問題が解決してからだと、少ないほうに入るくらいである。つまり、主軸打者に偏って本塁打が出ているだけであって、リーグ全体としてはおかしなバランスになってはいないのである。
今年のセ・リーグはかなり平均的なシーズン
本塁打以外の数字はどうだろう。1試合あたりの平均得点、1試合あたりの安打数は、どちらもこの10年で4番目の数字。OPS(On-base Plus Slugging:出塁率+長打率)は5番目。やはり今年が打者にとって有利な環境というわけではなさそうだ。(図2参照)

エルドレッドの.378を筆頭に、規定到達の3割打者が14人いる状況は、わずか3人に終わった昨年のことを考えると「バブル」にも見える。しかしこれも本塁打と同じで、限られた選手たちが好調を保っていると見られ、全体的にヒットが多く生まれているわけではない。これらを総合的に考えると、今回はボールに関する問題はないといってよさそうだ。
異常だったのはむしろ昨年の春先
そこで、むしろ気になってくるのは昨年の数字だ。本塁打でも、得点でも、安打でも、OPSでも、統一球が使われたシーズンに次いで低い数字が出ていた。今年になって打者が打ちはじめたのではなく、「昨年極めて打者が振るわず、今年はそれが回復した」というのが正しい見解なのだ。それは3月、4月の序盤に絞って状況を比較するとよりはっきりする。(図3参照)
「優れた主軸打者」が「良い状態でプレーできている」のが理由
また、昨年の春先にセ・リーグで本塁打が出なかったり、得点が入らなかったりしていたのは、力のある主軸選手が、総じて故障などで出遅れたからということも大きい。各チームの主軸の昨年の春先の成績をまとめた。(図4参照)

エルドレッドやバレンティンは、3月、4月はまともに出場することすらできなかった。阿部慎之助も4月の半ばに離脱。山田はまさかこの年トリプルスリーを達成するとは思えない成績で序盤を過ごしていた。
上記12人が打った本塁打の数を比較すると、昨年が20本、今年が67本と47本ほど上積みされている。昨年は他チームの主軸が低迷するなか、筒香とロペスが好調だったDeNAが序盤首位に立てた様子も見て取れる。一転して序盤から各チームの主軸が軒並み好調な今年は、昨年は作り出せた強みが打ち消され、苦しい戦いを招いているようだ。
全体的には特別打者が有利な状況はないのに、今年揃いも揃って主軸打者が成績を上げているのはなぜなのだろうか。彼らが本塁打を打っている投手を見ると、田口麗斗(巨人)や石田健大(DeNA)、小熊凌祐(中日)といったローテーション定着を目指す若手投手が複数本の本塁打を打たれていたり、フライボール投手として知られる高木勇人(巨人)が山田哲人に2本塁打されていたりするが、大きな偏りは見られず、主軸打者たちはベテランから若手まで、さまざまな投手から、まんべんなく本塁打を打っている。そうした結果を見る限り、優れた選手がセ・リーグに存在し、その上でうまく相手投手に適応し、力を示していると考えるのが自然な流れだろう。
今年のセ・リーグの打者は、序盤から戦力をフルに近いものを示すことができている。昨年は交流戦で44勝61敗3分と大きく負け越したが、今年は久々にリベンジを果たすチャンスかもしれない。
※数字はすべて2016年5月3日終了時点
山中潤