転換期の象徴だった横浜とPL学園の一戦

 高校野球の名門、PL学園高校の休部問題が昨年から話題になっている。甲子園の名勝負の記憶についてまわるあのユニホームを見られなくなるとしたら寂しい限りだ。そうでなくても、同校は多数のプロ野球選手出身校としても知られ、過去には17年連続でドラフト指名選手を輩出したこともある(1991年~2007年)。桑田真澄、清原和博の“KKコンビ”を筆頭に、立浪和義、宮本慎也など「OBでプロ野球チームがひとつできる」なんてことが冗談にならないほどの実績である。

 しかし、低迷とともにその実績も徐々にペースが落ちる。替わってプロに多数の人材を輩出しているのが横浜高校だ。PL学園高校に負けず劣らずの名門だが、実は1982年から1991年の間、10年間で甲子園出場が春夏1度ずつと、やや低迷した時期があった。しかし、1992年のセンバツ出場以降は徐々に復活し、松坂大輔が力投した1998年の春夏連覇を境に高校球界屈指の名門の地位を名実ともに取り戻す。呼応するように2002年から11年連続でプロ野球選手を輩出。2013年に一度途切れたが2014年は3名が指名を受けるなどペースは落ちていない。

 2016年4月27日、DeNA対中日でのこと。筒香嘉智らDeNAのスタメン9人中5人が横浜高校OBだった試合が話題になったが、それも頷ける輩出実績である。そう考えると1998年の夏の甲子園、横浜高校が勝利したPL学園高校との伝説の一戦は、プロ野球選手輩出校争いという面から見ると、“時代の転換期の象徴”のようにも見える。

横浜を猛追する大阪桐蔭と東海大相模

 そこで実際はどうなのか、10年を区切りとして、2016年、2006年、1996年におけるプロ野球選手の出身高校ランキングを調べてみた。ベスト5は下記の通りである。

 やはり1位は3年ともPL学園高校と横浜高校の2校で占めた。3つ時代の変遷を見てみると、両校の高校球界の地位の変化が見えてなかなか興味深い。PL学園高校の現状を見ていると今後、数字が伸びることは考えにくいだけに、横浜高校の王座は続きそう……なのだが、ここへきて猛追しているのが大阪桐蔭高校と東海大相模高校である。

 この2校、前述した連続指名の話でいけば大阪桐蔭高校が2005年から2015年まで11年連続ドラフト指名の記録を継続中。一方の東海大相模高校も、2008年から8年連続ドラフト指名の記録を継続中である。

 2005年以降の甲子園優勝回数で比較すると、横浜高校が1回(春1回)、大阪桐蔭高校が4回(春1回夏3回)、東海大相模高校が2回(春1回夏1回)。ちなみに東海大相模高校は夏の準優勝も1度ある。やはり高校球界の盟主の変遷と、プロ野球選手輩出ペースはある程度、比例しているようである。名コンビだった元部長・小倉清一郎氏、元監督・渡辺元智氏が退き新体制となった横浜高校の今後は、プロ野球選手輩出という面でも注目である。(図1、2、3参照)

「プロでは通用しない」と言われる高校も……

 ちなみに、この4校のほか、集計対象の時期に甲子園で黄金期を築いた高校といえば、1990年代の帝京高校と、2000年前後の智弁和歌山高校である。帝京高校は1996年が9位(6人)、2006年が7位(8人)、2016年が7位(7人)と爆発力(?)はないがコンスタントにプロ野球選手を輩出している。しかし、一方の智弁和歌山高校は1996年がゼロ、2006年もゼロだが2016年は19位(4人)。たびたび「智弁和歌山の選手はプロでは通用しない」とささやかれることもあるが、最近は西川遙輝(日本ハム)、岡田俊哉(中日)ら、一軍戦力も台頭してきている。しかし、逆に甲子園ではかつてほど勝てなくなってきているのが不思議だ。同校の指導方針や環境に何か変化があったりするのだろうか。

公立校の苦戦はドラフト会議でも同様か?

 その他にもランキングからは興味をひかれる点がある。

 ひとつは公立校の苦戦。1996年には熊本工高校(2位・10人)、箕島高校(7位・7人)と公立校も上位にランクインしていたが、2006年は熊本工高校の10位(7人)、2016年は広島工高校の19位(4人)が最高位と徐々に順位を下げている。甲子園で最後の公立校同士の決勝戦は奇しくも1996年の松山商高校対熊本工高校。高校球界における私立優勢の流れはプロ野球選手輩出の面からも止まっていないことがわかる。

 もうひとつは1996年の4位の東北高校と2016年の4位・九州国際大付高校。2校はいずれも現在、埼玉栄高校監督を務め、ダルビッシュ有(レンジャーズ)の恩師としても知られる若生正廣氏が指導していたチームである。東北高校では1990年から2004年までコーチ、監督。九州国際大付高校では2006年から20014年まで監督。プロへとつながるスカウティングや指導法に興味が沸き、また、今後の埼玉栄高校にも期待したくなる結果である。

 ここまでランキングを元に複数の高校を検証してきたが、ここのランキングに掲載されていない高校も含めて、甲子園で勝ってプロ野球選を多く輩出する高校もあれば、甲子園で勝つもののそれほどプロ野球選手を輩出しない高校と特色はいろいろである。ただ、全国的な名門高校は強さと勢いが続く期間が長く、その期間に多くのプロ野球選手を生んでいることだけは確かだ。

 また、高校野球には時代の変化とともにその流れが大きく変わっていく面白さもある。プロの狭き門をくぐる逸材選手の有無だけが高校野球の魅力ではないが、ウォッチングのひとつの楽しみになることは間違いないだろう。


田澤健一郎
1975年生まれ、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。


田澤健一郎

1975年、山形県生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て編集・ライターに。主な共著に『永遠の一球』『夢の続き』など。『野球太郎』等、スポーツ、野球関係の雑誌、ムックを多く手がける元・高校球児。