【田中将大の24連勝からもうすぐ5年…】

 「じぇじぇじぇ」「倍返し」「今でしょ」「お・も・て・な・し」

 いきなりだが古い。今、合コンでいきなり「お・も・て・な・し」なんて口にしたら、ひと回りしてもはや高度なギャグとして成立すると思う。これらはすべて2013年の流行語だ。あと数日で2018年なので、約5年前の出来事ということになる。忘年会で盛り上がる繁華街では『恋するフォーチュンクッキー』がやたらと聴こえてきた平成25年。プロ野球界ではバレンティンが日本球界初の60本塁打を放ち、長嶋茂雄と松井秀喜が国民栄誉賞を受賞。そして楽天の田中将大が恐らく今後半永久的に破られることのない「24勝0敗」の金字塔を打ち立てたシーズンでもある。

 当時25歳の田中は前半戦13勝0敗。後半戦も11勝0敗と勢いは衰えず、前人未到の5カ月連続の月間MVP受賞。リーグ優勝決定試合、CSファイナルステージ第4戦、日本シリーズ第7戦のすべてでリリーフ登板して胴上げ投手に。日本球界にやり残しは何もないという圧巻の活躍で、オフにはポスティング制度でのメジャー移籍を表明。ニューヨーク・ヤンキースと総額1億5500万ドルの7年契約を交わした…と書くと、懐かしさすら感じる。

 この年、楽天と巨人が戦った日本シリーズは東京ドーム開催試合はもちろん、仙台へ新幹線で通い1・6・7戦と観戦した。今思えば、もうすぐ終了するスポナビ『プロ野球死亡遊戯ブログ』のピークはこの頃だった気がする。毎日書いて書いて書きまくっている内に気が付けば1日10万PV突破。一種のランナーズハイみたいな状況だ。第6戦で先発のルーキー菅野智之がスーパーエース田中に投げ勝った試合後、どこにも飲みに行ったりせず宿泊先に急いで戻り、しみったれたホテルの一室でキーボードを叩いたのを今でも鮮明に覚えている。

【2013年は歴史的なルーキー当たり年】

 最終的に星野楽天が4勝3敗で制した日本シリーズは巨人の菅野だけでなく、楽天にも同じく新人で15勝を記録した則本昂大がいた。シーズンでは、ヤクルトの小川泰弘がその菅野を抑え新人王を獲得。阪神の藤浪晋太郎が甲子園を沸かせ、もちろん日本ハムでは大谷翔平の二刀流への挑戦が幕を開けた1年でもある。そう、この2013年は近年稀に見るルーキーの当たり年と騒がれたシーズンだった。

選手名ドラフト試合成績防御率
則本昂大楽天3位27試15勝8敗率3.34
菅野智之巨人1位27試13勝6敗率3.12
藤浪晋太郎阪神1位24試10勝6敗率2.75
小川泰弘ヤクルト2位26試16勝4敗率2.93
松永昴大ロッテ1位58試4勝1敗1S30HP率2.11
三嶋一輝DeNA2位34試6勝9敗1HP率3.94
東浜 巨SB1位5試3勝1敗率2.83
大谷翔平日本ハム1位13試3勝0敗率4.23
大谷翔平※打者成績77試率.238 3本 20点

 4人の二桁勝利投手に歴史的な二刀流。超豊作だ。ちなみに広島のドラ2鈴木誠也も高卒野手ながら11試合に出場してプロ初安打を放っている。この年、春先のWBCに楽天エース田中が派遣され、プロ野球29年ぶり、パ・リーグ55年ぶりの新人開幕投手を務めたのが則本だった。背番号14は日本シリーズ第1戦でも先発マウンドへ。第5戦ではリリーフとして延長10回までの5イニングを投げ抜き、第7戦でも2番手でマウンドに上がり最終回の田中へと繋ぐ活躍。菅野は内海哲也と並ぶチーム最多の13勝を挙げ、CSの広島戦では前田健太に投げ勝ち完封勝利、日本シリーズではマー君に31試合ぶりの黒星をつけてみせた。

 この優勝の原動力とも言える二人を上回る16勝を記録したのがヤクルトの小川だ。最下位のチームでひとり気を吐き、リーグ最多勝を獲得。新人で16勝到達はあの99年の上原浩治と松坂大輔以来、16年ぶりの快挙である。高卒ルーキーの藤浪も規定投球回にはわずかに届かなかったが菅野や小川を上回る防御率2.75、セ・リーグでは江夏豊以来46年ぶりの高卒新人2桁勝利を挙げてみせた。当時の評価では、そのスケール感から未来の日本のエースは藤浪で決まりといった雰囲気すらあったほどだ。さらに新人では菅野に次ぐ145奪三振を記録したハマの三嶋、中継ぎだけでなくチーム事情で時に先発もこなしたロッテの松永らがそれぞれ1軍で結果を残した。二刀流の大谷はその後の規格外の活躍を考えると控え目な成績だが、5月23日の投手デビュー戦でヤクルトのバレンティンに対して当時の球団最速となる157キロを計時。怪物の片鱗を見せつけてくれた。

【あの頃のルーキーたちの現在地、残酷なほどの明と暗】

 さて、あれから時が流れ、13年のゴールデンルーキーもすでにプロ生活5年を終えた。その後の4シーズンで評価を上げた者もいれば、プロの壁に苦しんでいる選手もいる。いまや完全にチームのエースにしてセ・パ両リーグを代表する投手と言っても過言ではないのが、あの日本シリーズで投げあった2人だ。今季17勝を挙げ、最多勝と最優秀防御率のタイトルに加え自身初の沢村賞にも輝いた菅野。特筆すべきは5年間、ローテの柱で投げ続け通算防御率2.18という抜群の安定度だろう。ちなみに田中将大のNPB通算が2.30、前田健太が2.39ということからもその凄さが分かる。則本は5年間で菅野を上回る通算65勝を挙げ、2年目の14年から4年連続最多奪三振を獲得。今季はWBCの影響で新人からの5年連続開幕投手は回避したものの、8試合連続二ケタ奪三振の日本新記録を樹立してみせた。なお4年連続200Kはあの野茂英雄以来24年ぶりの快挙である。

 そんな彼らにスタートでは遅れをとったもののソフトバンクの東浜巨はゆっくりと着実に階段を上り、ついに5年目の今季16勝で最多勝に輝いた。西武1位の増田達至はすでに通算268試合登板とブルペンを支え、3位金子侑司もミタパン…じゃなくて16年盗塁王を獲得している。高卒野手では恐ろしいスピードで成長を遂げ広島の4番を打つ鈴木誠也、ロッテの正捕手・田村龍弘らが主力として定着。たかが4年、されど4年である。4年あれば人生は変わる。

 対照的に苦しんでいるのが藤浪だ。2年目は11勝、3年目は14勝と順風満帆に見えたが、16年は7勝、17年は制球難による死球に悩まされわずか3勝に終わった。数年前の快進撃からは信じられないが、週刊誌ではトレード要員で度々名前が挙がっている。とは言っても、まだ23歳。野球人生の先は長い。同じく4年前は12年ドラフト組のトップランナーだったライアン小川も1年目から徐々に成績が下降気味だ。今季は最下位に沈むチーム事情から代役クローザーを務めたこともあったが、2年連続8勝に終わり右肘を疲労骨折して離脱。来季は手術明けからの復帰となる。4年前はエース候補とまで言われたDeNAの三嶋にいたっては後輩投手たちに次々とローテの座を奪われ今季未勝利。同期に大きく差をつけられてしまった。

 そして、大谷翔平の濃密な5年間は多くの野球ファンが知るところだ。2年目の14年には早くも2桁勝利&2桁本塁打を達成。3年目は15勝、防御率2.24でタイトル獲得。4年目には投打でチームを牽引しMVPに輝き日本最速の165キロを記録。ベストナインでは史上初の投手と指名打者のダブル受賞をした。足首の故障に苦しんだ今季だが「4番投手」で完封勝利を飾り日本のファンにサヨウナラ。オフにはポスティングでメジャー各チームの争奪戦の末にエンゼルス移籍が決定。わずか5年で日本球界を駆け抜けてみせた。
 
 ついにアメリカへ渡る二刀流の大谷。驚異の安定度を誇る菅野。21世紀を代表する奪三振男の則本。遅れてきたエース東浜。神ってる4番鈴木。もちろん藤浪もこのまま終わるようなタマじゃないだろう。

 それぞれの明と暗。今から次の5年が楽しみだ。

 果たして、2022年の彼らの運命はいかに?

 

(参考資料)
『2013プロ野球総決算号』(ベースボール・マガジン社)


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