大山は強打者の魅力たっぷり
日本シリーズは連日いい試合が続きました。印象に残っているのは、「ここぞ」という場面で打った千両役者たちの働きです。
「3連敗からの逆転日本一もあるぞ」と思わせたのは、DeNA自慢のクリーンナップ、打点王ロペス、ジャパンの筒香、首位打者宮崎でした。
そして、そうはさせじと立ちはだかったのもソフトバンクの中軸、デスパイネ、内川、中村晃、柳田、松田という面々でした。
もちろんシリーズMVPに輝いたソフトバンクの守護神サファテや、DeNAの若き主戦級今永、濱口ら、両チームの投手たちも素晴らしいパフォーマンスを演じました。また、勝負を分けた守備や走塁での状況判断、ミスといったものもクローズアップされましたね。
でもやっぱり「ここぞ」の一打を放った勝負強い打撃があったからこそ、ここまで感銘を受けるシリーズになったのだと思うのです。
話変わって……そんな日本シリーズと並行して、我が阪神タイガースは秋の安芸キャンプをスタートさせました。今回も、野手陣は振って振って振りまくり、守備はノックをみっちり受けて、腰を落とした姿勢をキープさせるキツい強化トレーニングあり、仕上げにウェイトトレーニングありの「鉄人流」です。今季は長尺のバットも導入し、理にかなったバットスイングを体に叩き込むべく、猛烈に努力しています。
そんな第1クールで、もっとも輝いて見えたのは大山悠輔でしょう。
スイングに力をつけ、遠くへ飛ばせるようにする練習「ロングティー」では、1人別格の飛距離を見せました。数多く振ってもヘタれない体の強さ、ボールを遠くへ飛ばせるスイングを十分アピールしていましたね。
5日(日)に行われた紅白戦では、キレのある速球で好投していた才木から、先制2点タイムリーを放ちました。厳しいコースのボールをファウル、ファウルでカットし、甘くなったところを仕留める、一軍選手の貫禄を感じさせる打撃でした。
チャンスでの勝負強さはマグレじゃない
思えば、今シーズンの公式戦でもそうでした。まずは構えがいいんですよね。まだまだ発展途上のルーキーですから、隙はあるのでしょうが、クセのないスタンスでスッと立つと、まるで「不動の構え」という落ち着き。隙がないように感じられます。
見逃し方がまたいいんですよ。早めの始動でしっかりトップの形をつくり、タイミングを合わせて振り出し。打つべきでない球ならキチッとした形のまま止まります。
かと思うと、チャンスではアグレッシブにカウント球を狙っていきます。もし追い込まれてしまっても簡単にはアウトにならず、ファウルで逃げながらカウントを整え、ジリジリと相手投手を追い込んでいきます。
結果、打ち損じる場面も多かったのですが、1球1球集中して対峙することで、どんどんプロの球に慣れて、どんどん対応できるようになっていきました。シーズン終盤からクライマックスシリーズでの活躍は、その成果にほかなりません。
打率.237、出塁率.309、長打率.414、OPS.723、ホームラン7本、打点38。
ルーキーで4番を務めるなど話題性も豊かでしたが、昨年の高山や原口と比べれば、それほど派手な数字は残せませんでした。
ただし、特筆すべきは勝負強さです。得点圏打率.313は、200打席以上ではチーム最高。
1打席当たりの打点は以下のように福留ら主要な打者を上回っています。
大山 0.172(38打点/221打席)
福留 0.150(79打点/526打席)
中谷 0.134(61打点/455打席)
糸井 0.126(62打点/493打席)
上本 0.078(38打点/488打席)
鳥谷 0.072(41打点/570打席)
もちろん打順の違いもあり、全員一律に比較できませんが、打率や出塁率という数字以上に、チームの得点に貢献していたのは間違いありません。
その素質を伸ばして、「ここぞ」の場面で打ってくれる千両役者に成長してくれることを願うばかりです。
「4番サード」で千両役者に育てたい
大山は、この安芸キャンプで二塁守備に挑戦しています。足腰を鍛え、戦術オプションを拡げるという意味ではそれもいいでしょう。でも、来季の基本的な布陣として「セカンド大山」とすることには反対です。
主な理由は、「セカンドに最強守備選手を入れるべし」というのが私の考えだからです。左打者が非常に多くなっていること、右打者も変化球への対応として右方向に打つ打者が多くなっていることにより、二塁手の守備機会は増加傾向にあります。昔、内野ゴロはショートゴロ、サードゴロ、セカンドゴロの順で多かったと思いますが、最近ではサードゴロが減り、ショートゴロとセカンドゴロがほぼ同じくらい。年やチームによっては、逆転することも珍しくありません。
広島の菊池、阪神の大和(残ってくださいお願いします)を想像すればわかるとおり、より広い守備範囲やポジショニングによってアウトを稼ぐことが重要になっているのです。
当然、ライト線、右中間の打球も増えており、中継に入るセカンドの能力(判断力やスローイング)によって、相手の進塁を防止・抑止することができます。
「打てるセカンド」というのも時にはアリですが、打撃オーダーはバランス、メリハリが大事。スピードのあるイヤらしい選手を入れることによって、相手バッテリーはいろいろと考えなきゃいけないことが増えます。「打てるから」という理由で、守備と小技で活躍する選手のポジションを奪ってしまうのは、トータルではマイナスになると思うのです。
もちろん大山が練習によって最強二塁手になる可能性はあります。それを否定はしません。守備のセンス、足も非凡なものがありますからね。
でも、大山にはあくまでも日本を代表する4番を目指してほしいのです。それは簡単なことではありませんので、得意なポジションを守らせて、守備の負担を軽減してやるのがまっとうな考え方だと思います。日本人の強打者が守るべきポジションでもあり、アマ時代からずっとやってきたというサードに専念させるのがベストだと思います。
ところが、そこにはやはり「守備の負担を軽減させたい」という思いやり措置を受けている鳥谷がいます。それは打撃に専念させたいというよりも、体力的に消耗しないからという理由のほうが強いように思います。
それはチームを強くするという本質的な目的からは少し外れています。そもそも鳥谷自身もそんな思いやりはノーサンキューじゃないでしょうか。多少守備範囲は狭くなったかもしれませんが、本命不在ならショートで勝負させてほしいと思っているでしょう。それによって打撃成績が落ちるのなら、それはもうそこまで。
サードは本来4番を打つような打者が守るべきポジションなのです。
大山は、打撃で多少結果が出なくても、我慢して使っていかなきゃいけない、育てていかなきゃいけないのです。その上、守備でも我慢しなきゃいけないとなると、たぶん耐えられないでしょう。ここは「4番サード」でいくべきです。