はじめまして。今回からこの「野球がうまくなる運動 教えます」を書かせていただく、中野崇と申します。私は小学校教員と理学療法士の資格を持つスポーツトレーナーとして、プロ野球選手など約20種目のプロ選手や日本代表選手のトレーニング指導をしています。

競技専門のトレーナーが競技専門のトレーニングを指導するのが一般的なのですが、物理学を根底とした本質的な「身体の動かし方」にフォーカスすることで、多様な競技のアスリートたちからトレーニングの依頼をいただいています。

本質的な身体の動かし方は、ピッチングなどあらゆる技術の土台となる能力なので、子どもからプロ選手までが取り組む価値のあるものです。

この「野球がうまくなる運動教えます」では、「上から叩け」など野球界に伝統的に使われる「指導方法」の正体を解明しつつ、身体の動かし方が上達する運動をご紹介していきたいと思います。
すべて野球の動きにつながる土台となるものばかりですので、良いと思ったものは取り入れていただければ嬉しいです。


第1回は、バッティングにおいて頻繁に使われている「脇を締めろ」という動きを解明し、本当の意味で脇を締められるようになる運動を紹介します。

なぜ脇を締めなければならない?

ひとことで言うと、体幹から腕・バットへと力を効率よく伝えるためです。
ボールを遠くへ飛ばす、または速い打球を打つためにはバットを高速で振る必要がありますが、そのためには腕だけではなく、大きな筋肉がたくさん付いている下半身や体幹の力を使う必要があります。そのため、バッティングでは下半身や腰が重視されています。
この時、脇を締めることができないと、せっかく下半身や体幹で作った力が逃げてしまいます。
脇は、肩甲骨や腕の骨で構成されており、かなり大きく動いてしまいます。そういう構造上の理由から力が逃げやすい特徴を持っています。

©︎中野崇

脇を締める動きには2種類ある

では、下半身・体幹の力を腕に伝えるために必要な脇の締め方とはどういったものでしょうか。
脇の締め方には大きく分けて2種類あり、締め方を間違えると、「締めているのに力がうまく伝わらない・打ちにくい」ということが起こってしまいます。

締め方①

©︎中野崇

肘を体幹にくっつけるような、直線的な締め方。
これは、バッティングでは使えない締め方です。締めている感覚はありますが、身体の構造上、下半身・体幹の力はうまく腕に伝わりません。
時折見かける、脇にタオルを挟んで行う練習は、直線締めを覚えてしまいやすいので避けた方が賢明でしょう。

締め方②

©︎中野崇

バッティングでいう「脇を締めろ」はこちらです。
腕と肩甲骨を捻りながら脇が締まる動かし方です。
写真のように、肩甲骨が下に下がりながら腕が捻られます。
こうすることで、脇の周りの筋肉が締め上げられ、下半身・体幹からの力が非常に伝わりやすい形になります。
この形が持つ機能はバッティングに限らず、あらゆる競技の動きでトップ選手が活用している動きです。

前脇と後ろ脇は締めるタイミングが異なる

バッティングでは、前脇(投手側)と後ろ脇(捕手側)の両側とも締めることが重要です。
ただし、それぞれ締めるタイミングが異なります。
もっとも効率の良いのが後ろ脇→前脇の順番。
後ろ脇を締める反動によって前脇が反射的に締まる作用を利用します。
そのためには、まず後ろ脇を勢いよく締めることができる必要があります。
ポイントはこの「勢いよく」というところ。
構えの時に、すでに脇に力を入れて締め付けてしまっていては、勢いをつけることができません。

©︎中野崇

構えの時は、脇を締めず、スイングを開始する時に勢いよく締めるのが「脇が締まる」ためのコツです。

©︎共同通信©︎中野崇

前脇は、上にも書いたように、意図的に締めるのではなく、後ろ脇を締めた反動で逆回転の動きが起こって「勝手に」締まります。
前脇が締まらないのは、この反動が足りないためです。

「脇を締めろ」は、実は外見ではない

この内角打ちの写真、脇が締まっていますか?開いていますか?

©︎共同通信

開いている、と思われた方もいるかもしれません。一般的に、外見上で脇が開いているか締まっているかを判断されがちです。
思い出していただきたいのですが、脇を締めるそもそもの目的は、「下半身・体幹の力を腕に伝えること」です。
つまり本質的には外見よりも、どのような力が作用しているかが重要です。
具体的には脇を締めるための筋肉が働いているかどうか。
脇を締めるためにもっとも重要な筋肉は前鋸筋(ぜんきょきん)という筋肉で、肩甲骨から脇腹にノコギリのような形で広い範囲で付着しています。
外見上、脇が開いていても、この筋肉が強く働いていれば脇は締まり、下半身・体幹からの力を逃がすことなく腕に伝えることができます。
プロ野球などで見かける、内角ボールを前脇を開いて肘を折り曲げてホームランにするようなスイングは、このような作用が土台になっています。

捻り締めトレーニング

最後に、バッティングに使える脇を締めるための運動、捻り締めトレーニングをご紹介します。 バッティング練習を行う前にやると効果的ですので、ぜひ試してみて下さい。

©︎中野崇

手の形は、小指と薬指はしっかりと握り、人差し指と親指は握らずに写真のように外します。
バットを握る際も、人差し指や親指を握りしめすぎると肩の動きを邪魔します。

©︎中野崇

写真のように、両腕を組み合わせたまま大きく捻ります。
この時、背中からみた肩甲骨が車のハンドルのように動いていることが重要です。
手の部分を大きく倒すと、脇が締まります。
初めはゆっくり、慣れてきたらどんどん反動をつけて行います。
肩は大きく動きますが、頭は倒れないようにします。

©︎中野崇

速い動きが安定してきたら、下半身や体幹の回旋と組み合わせていきます。
この時はバットを持って行っても良いと思います。

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