取材・文/Baseball Crix編集部 写真/小林学
危機感を持って臨んだ2016年、その象徴が新井だった

――日本シリーズこそ敗れましたが、2016年は広島の街が大いに盛り上がりました。改めてリーグ優勝できた要因とはどこにあったと思いますか?
小早川 チームに危機感があった。2015年は土壇場でクライマックスシリーズ(CS)進出を逃し、チーム、選手個々の成績もよくなかった。そのなかでもファンの盛り上がりはすごかった。選手たちはそれに応えないといけないと思っていたはず。危機感から生み出される、選手たちの野球に対する取り組み方の変化。それが優勝の原点だと思う。
――投手陣では野村祐輔が16勝、ジョンソンは15勝。先発の2枚看板がけん引しました。
小早川 野村はシーズンを通してゲームの組み立て方がよかった。1試合ずつ丁寧に投げていた。その意識が、これまでのシーズンとは明らかに違ったように見えた。ジョンソンは1年目のような完璧な内容は少なかったが、それでもローテーションの軸として試合を作ってくれた。改めて「計算できる投手だな」と思った。
――黒田博樹も2桁10勝を挙げ、優勝を決めた試合では勝ち投手にもなりました。
小早川 いま思えば、2016年限りで幕を引くつもりで取り組んでいたと思う。シーズンがはじまる前から「無理しているな」と感じることが多々あった。ただ、そのなかでもキッチリと優勝に貢献するあたりはさすがだ。
――ベテラン捕手の石原慶幸は、投手陣をよくまとめました。
小早川 ベストナインとゴールデングラブ賞に輝き、改めて存在感を示したシーズンだった。キャリア晩年にも関わらず、出場試合数も3年ぶりの100試合超え。25年ぶり優勝の影の立役者と言っていいと思う。
――野手では新井貴浩がMVP獲得。2000安打も達成しました。
小早川 前述した危機感。その象徴が新井だった。そういった雰囲気を周囲にも醸し出していた。それが若手にも伝わったと思う。もともとチームのムードを大事にする選手。そういった選手がいる組織はまとまるし、若手もプレーしやすかったと思う。
――同級生トリオでもある田中広輔、菊池涼介、丸佳浩の活躍。そして鈴木誠也の大ブレークと、野手はベテラン、中堅、若手がガッチリと噛み合っていました。
小早川 同級生トリオはお互いを理解し合って、攻守ともにしっかり引っ張ってくれていた。自分のパフォーマンスだけでなく、打席では前後のつながり、守備では連携をより意識しながらチームプレーに徹していた。独走態勢に入った後半戦は特に、考えながらプレーしていると感じることが多々あった。そのなかで、鈴木の大ブレークはうれしい誤算。“神ってる打撃”でチームを勢いづけた。
期待したいドラ1・加藤、新人が好スタートならチームも乗る!

――連覇を目指す2017年は、他球団から追われる立場となります。2016年には前田健太が抜け、今年は黒田もいません。2年連続で2桁勝利投手が抜け、相当な痛手だと思いますが。
小早川 正直厳しい……。野村とジョンソンに2016年同様の活躍を望むのは酷だし、黒田の穴も大きい。黒田の場合は、投手としての戦力だけでなく精神的支柱としての存在感も大きかった。ドラフト、外国人以外では大きな補強もしていないし、現時点では全員でカバーするしかない。
――若手で期待する投手は。
小早川 まずは2015年のドラフト1位、2位である岡田(明丈)と横山(弘樹)。あとは福井(優也)や大瀬良(大地)。彼らを中心に、ハイレベルなローテーション枠争いを展開してほしい。新たにドラフト1位で加入した加藤(拓也/慶大)も、六大学で実績を残しているし楽しみな存在。新人がいいスタートを切ってくれると、チームもその勢いに乗ることがある。投手陣の起爆剤としても期待したい。
――ルナが抜けた正三塁争いも注目です。
小早川 安部(友裕)、堂林(翔太)、西川(龍馬)らの争いになりそうだが、三塁は誰がレギュラーというよりも、全員で埋めてくれれば御の字ではないか。チームとしてはひとつくらいレギュラーが固定されていないポジションがあっていい。本来なら全ポジションを固定できればいいが、広島は伝統的にもそういったチームじゃない。鈴木がブレークした2016年のように、シーズン中も競争意識を煽ることでチームも活気づく。
大ブレークした鈴木は悪い方へコケないでほしい……

――その他、野手で期待したい選手は?
小早川 やはり鈴木でしょう。首脳陣も明言しているが、将来的には4番を打ってほしい選手だから。ただ、最近の言動を見ているとちょっと浮かれすぎかな(苦笑)。注目度も年棒も上がり、コケる要素が山ほどある。ぜひ、悪い方向にだけはコケないよう頑張ってほしい。
――巨人が大型補強に乗り出すなど、2017年はより厳しい戦いが予想されます。
小早川 2016年は投打の歯車がガッチリ噛み合った広島だが、黒田の引退もあるし、連覇へ過度な期待は禁物だ。2015年優勝のヤクルトは昨年5位と低迷したし、セ・リーグはまた横一線からのスタートになる。巨人は大型補強に乗り出しているが、個人的にはビッグネームは少ないし、そこまで劇的な変化は望めないと見ている。どのチームも春季キャンプからしっかり準備して、シーズンに良い形で入れるか。そこが重要だと思う。
(プロフィール)
小早川毅彦
1961年、広島県生まれ。PL学園高-法政大を経て、ドラフト2位で1984年に広島へ入団。1年目から新人王を獲得するなど「赤ヘルの若大将」として3度のリーグ優勝、1度の日本一を経験。1997年にヤクルトに移籍し、開幕戦の巨人戦で史上3人目となる開幕戦における3打席連続本塁打を記録するなど、優勝に大きく貢献した。現在は、NHK解説者の他、多方面で活躍中。