今年に入って、飲食店、コンビニエンスストアなどで不適切動画の投稿が相次いだ。大戸屋では店舗内で配膳用のトレイを使って悪ふざけする従業員の動画が投稿され、関わった従業員3人を退職処分とした。さらに、1日間の店舗の一斉休業を発表。池田氏は、この一連の流れに「このような対応をした組織がスポーツ界にあっただろうか」という思いが湧いてきたと明かす。

昨年、スポーツ界でも日大アメリカンフットボール部の悪質タックル問題を皮切りに、ボクシング、バスケットボール、大相撲、体操と次々に不祥事・事件が起こった。アスリートの立場の弱さ、スポーツ界の閉鎖性が浮き彫りとなる中で見せられたのは「それぞれの立場にしがみついて、『インテグリティ(高潔、誠実)』などという言葉をお題目のように唱えているだけで何も変わらない組織」の姿だったと池田氏は振り返る。

最近ではスポーツ業界、スポーツエンターテインメントビジネスの世界での活躍が注目される池田氏だが、ベイスターズでの仕事の以前には大手製菓会社・東ハトなど企業再生・再建で実績を積み上げてきた経営のプロだ。大戸屋には2016年から社外取締役として関わっており、ブランド価値の向上などに尽力してきた。あくまで「社外取締役として関わっている企業を例に出すのはふさわしいことか分かりませんが」と断った上で、社長以下大戸屋が発した「食べ物屋にとって、あり得ないことをしてしまった」という言葉に「感銘を受けた。食べ物屋のプロとして、どう変わるんだという『気概』が伝わってきた」と打ち明ける。

関係者によると、今回の一斉休業で同社は1億円ほどの売上を失うことになるもようだ。しかし「たとえ大きな赤字が出ても教育をするし、アルバイトといえども、そこの責任を自分たちが負う。あり得ないことをしたということをまず認め、ピンチを成長の機会にする。その姿勢は、あらゆる組織に通じる危機管理の形ではないでしょうか」と池田氏は指摘する。確かに今回の施策はマスコミを通じて大々的に報じられ、同社の改革へのスピード感、意識が世の中に少なからず伝わる結果となった。飲食店としては「あり得ない不祥事」に直面しながら、『気概』を持って真摯に、正面から受け止め「1億円の損失」を「1億円の投資」に変える。「不祥事は大きな変革へのチャンス」を体現した一つの例といえるだろう。

さらに池田氏は最近、新聞各紙で報じられたニュースに大きな疑問を感じたという。スポーツ庁は今春に向けて競技団体が守るべき運営方針「スポーツ団体ガバナンスコード」の策定を進めており、3月7日に東京都内で鈴木大地長官の諮問機関「スポーツ審議会」の部会で「理事の任期制限」を盛り込む素案が提示され、英国の9年、オーストラリアの10年など海外の規定が例示された。

「任期に縛りを設けることが、問題の根幹なのでしょうか。それが、果たしてガバナンスの強化につながるでしょうか。任期ではなく、問題は人事。『あり得ないこと』を正すには、トップの人選をどうするかが重要なはずです。いくら任期に制限を設けたところで、誰が次にやるのか感知しません…では、前任者の忖度が働く人事となり、何の意味もありません。選挙で決めるなど、正々堂々とした形にならなければタコツボ化は進むばかりです」

大学スポーツの統括組織、大学スポーツ協会(UNIVAS)の代表就任オファーを池田氏が辞退したのも「大学スポーツ関係者」に忖度したスポーツ庁の突然の方針変更がきっかけだった。“物言う人物”は、まだまだ日本のスポーツ界で排除される傾向にある。だからこそ「任期」ではなく「人事」に切り込む必要性を池田氏は実感を込めて強く訴える。

不祥事や問題を隠そうとするばかりでは、何も解決しないどころか問題は深刻度を増すばかり。真摯に受け止め、問題を成長、変革のきっかけに変える。そんな経営、組織運営に対する『気概』こそが、今の日本のスポーツ界に欠けているものといえるかもしれない。



[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部