日本ボクシング連盟の助成金不正流用や、レスリングの日本協会強化本部長による選手へのパワーハラスメントなどの不祥事などを受けて、スポーツ庁によって策定された「ガバナンスコード」案。その内容は、「理事は原則として10年を超えて在任することがないよう、再任回数の上限を設ける」、「外部理事25%以上、女性理事40%以上」、「コンプライアンス委員会の設置」、「通報制度の構築」など。

「この内容うんぬん以前に、本来は理事を誰がどのように決めていくかということから議論すべきだと思いますが、そこまでは踏み込めないのでしょうね。いくら外部理事が招聘されても、コンプライアンス委員会が設置されても、それがトップと親密な関係にあるようなら、蛸壺化は何も変わりません」

各競技団体が反発しているのも、これまで内部でまわしてきた人事などの既得権益に、突然スポーツ庁からメスが入ったように感じたからなのかもしれない。さまざまな競技団体に関わってきた池田氏は、そういった現場を目の当たりにしてきた。

「競技のOB、OGがその功績、実績だけで団体のトップや理事になるような人事でスポーツ界がよくなるわけではありません。もちろんそういった方々の中にもすばらしい人材もいますが、改革しようとするとどうしても体制側につぶされたり、過去のしがらみの中で、忖度や配慮をして、組織内の協調性を重視せざるをえなくなる。そういった現状に本来は課題があるのではないでしょうか」

業界は異なるが、アイドルグループ「NGT48」のメンバー暴行問題では、被害を訴えた側が謝罪を強要されたり、第三者委員会が有名無実化したりするなど、“体制側”の事情ばかりが優先され、大きな批判を浴びている。このガバナンスコードに従って、単にコンプライアンス委員会や通報制度を設置するだけでは、同じような問題が起きかねない。

「本来、競技団体というのは競技を発展させるための存在ですから、選手やファンのためにあるべき。それが日本では一部の“偉い人たち”を起点に蛸壺化している。開かれた人事ではない。結果、社会通念や社会の声と離れて運営がなされてしまっているような側面が問題の根幹。権力や既得権益を握っている側は、それを揺るがすような存在や変化を当然排除します。2020年まではスポーツ界が盛り上がることは間違いありませんが、むしろそれ以降、五輪の熱を維持し、さらに盛り上げることが大切です。未来を見越して、健全なスポーツの発展を願うなら、軋轢を恐れず改革できるリーダーを選ぶべき。でも現状では無理なのかもしれません」

スポーツ庁も改革をうながすような動きをすべきなのだが、やはり既存の団体や広くスポーツ界の人間たちとの協調性を保ちながら運営している。予算を握っているわけでもないスポーツ庁は、残念ながら力不足の感が否めない。ガバナンスコードの細かい規定はまさに枝葉末節。“幹”の部分に本気でメスを入れなければ、せっかく育った樹木も立ち枯れてしまうかもしれない。



[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部