スポーツが運動としてしか捉えられないのであれば、鈴木大地長官の意見はまったく当然の見解であり、eスポーツ界隈の人たちも無理にスポーツの枠組みに入れて貰おうとも思っていないだろう。スポーツと言う言葉が入っている為に、スポーツとして扱うかどうかという問題になっているのであれば、そこはスポーツ扱いしなくても良いのではないだろうか。
eスポーツはスポーツと言う単語が組み込まれているので、どうしても既存のリアルスポーツと比較しがちだが、競技性があると言うことだけで、特にスポーツの分類に組み込む必要はないと考える。言葉的な問題で言えば自動車の分類のひとつであるスポーツカーは、いわゆる一般的な自動車を実用車とするのであれば、レースなどの競技に使う自動車、走ること自体を目的とした娯楽車としての位置づけになり、スポーツと言う括りに入れる必要はまったくないわけだ。なので、スポーツ庁の長官がeスポーツに対してどんな見解を持とうが大して問題にはならないと思うと言うのが正直なところだ。
ただ、ここでひとつ気になるのが、スポーツ庁がeスポーツを管轄にしたいかどうかと言う話だ。eスポーツがスポーツであるかどうかの論争とは関係なく、各スポーツイベントではeスポーツの取り込みはすでに始まっている。例えば、昨年ジャカルタのパレンバンで開催されたアジア競技大会ではデモンストレーション競技ながらeスポーツが採用されており、次回の中国の杭州で開催されるアジア競技大会2022では正式種目として採用が決まっている。日本でもいきいき茨城ゆめ国体の文化プログラムとして、eスポーツが採用されており、目下全国各地で予選が開催されている。このように国が関わっていく状況において、どの省庁がeスポーツを扱うかどうかという話はもはや「時期尚早」と言える状態ではないだろう。
スポーツ庁がeスポーツを取り扱わないと言うのであれば、それはそれで他の省庁に任せるしかないわけで、鈴木大地長官にはそのあたりも考慮していただきたいところだ。
昨年から今年にかけて、eスポーツの注目度は高まり、多くのスポンサーがeスポーツイベントに協賛しはじめている。これまでのeスポーツは大会で扱われるタイトルのプロモーション的な意味合いが強かったが、一部とは言え、収益化の道筋ができはじめている。オリンピックなど、国際スポーツ大会に参加しているアマチュアスポーツと比較しても、独自で大会を開ける体力と集客力を持ち始めている。それを考えると、スポーツ庁による公認が出なくてもなんら困ることはないわけだ。他にもファンやコミュニティから発生したeスポーツイベントにしても、スポーツ庁に公認されようがされまいが、以前と変わらず大会を続けて行くことだろう。eスポーツイベントはいまや世界各地で開催されており、日本人選手の中には世界を舞台に活躍している選手は少なくない。自費で渡航したり、開催側から招待されたり、スポンサーから資金援助が行われたりと、海外で活躍する為の手段も多種多様にある。リアルスポーツもプロの場合は、世界で活躍する選手は同じような状況にて支援されており、スポーツ庁や国などからの支援は必要としていないのと同様だ。今後、eスポーツのアマチュア化が進み、メーカーからの支援がなく、国からの支援が必要となったときに考えれば良いと言う話でもあるわけだ。ただ、メーカー不在のアマチュア化がeスポーツで浸透するかは未知数としかいえないので、それも折を見てと言う考えで良いのかも知れない。
現時点では、IOCの会長であるトーマス・バッハ氏は、eスポーツに関しては鈴木大地長官と同様に現時点ではまだ対話が必要としており、オリンピック競技となるにはしばらく時間がかかりそうな気配だ。またeスポーツがオリンピック競技となるにしても、様々な問題点は残っている。例えば、権利問題。オリンピック競技として全世界に放送、配信される時に、ゲームメーカーは著作権を放棄し、IOCに移譲する必要がある。それが一時的なのか恒久的なのかはわからないが、それをできるメーカーがいるかどうかと言うのはかなり微妙なところだろう。そして利権問題。オリンピックのeスポーツにタイトルが選ばれるとなると、採用されなかったタイトルよりも売れる可能性がある。そうなったときにひとつの企業を優遇すると言う印象を与えかねなくなる。
総じて考えてみると、スポーツ庁としてもeスポーツ界隈としても、お互いに手を組むことはそこまで望んでいないのではないだろうか。ただ、国際的な大会やイベントに関わる時に、何かしらの省庁の働きかけが必要な場合も出てくる可能性はある。その時に、スポーツ庁がeスポーツの扱いを先送りにしていたり、飼い殺しのような状態であるのは望むところではないだろう。スポーツ庁がeスポーツに積極的に取り組み気がないのであれば、早々に他の省庁に譲って欲しいところだ。eスポーツを管轄に置きたい省庁は他にもあるのではないだろうか。