高校生たちはどんなeスポーツで戦っているのか

 2023年の全国高校eスポーツ選手権は『フォートナイト』『リーグ・オブ・レジェンド』『ロケットリーグ』の3部門で開催されました。まずは簡単にこれらのゲームについて説明します。

 『フォートナイト』は建物の組み立てと銃撃戦を同時に行うゲームです。建物を組み立てるためにはマップ上にある資材を集める必要があり、武器や弾薬も拾い集めなければ丸腰状態といえます。説明を聞いているだけでも難しそうに感じますが、実際やってみても難しいゲームです。

 『リーグ・オブ・レジェンド』は、5vs5で戦うロールプレイングゲームのようなものといえます。大会では選手たちが、数々の専門用語で円滑にコミュニケーションを取り、素晴らしい連携が行われますが、いざ自分でプレイすると、特殊な操作方法とアイテム数&キャラクター数の多さに戸惑います。

 『ロケットリーグ』は、車に乗ってサッカーをするゲームです。「車でサッカー?」と思うかもしれませんが、そうなのです。大会では、選手の操作する車が空中を飛び回り、ボールをバレーボールのようにトスしながらゴールに叩き込みますが、実際にプレイしてみると、(車なので当たり前ですが)車で地上を走り回りながら、ころころとボールを転がしてゴールまで運ぶことになります。

 つまりこれらのゲームは、初心者と上級者では全く別のプレイ体験になります。こういったやり込み要素が、eスポーツとして扱われるゲームには必要な要素といえます。

親目線では「何が起きているか分からない」

 ここで注目したいのが、これら3タイトルの知名度でしょう。実は一般的なゲーム好きな人たちにとっても、これらのゲームは決して馴染みのあるものではないのです。コンシューマーゲームとソーシャルゲームが人気とされている日本において、PCゲームが中心のeスポーツタイトルはそこまで知名度が高くありません。

 ゲーム好きでも理解が追いつかないeスポーツのことを、高校生の親御さんが理解するのは難しいでしょう。最近はゲームに馴染みのある親世代が少しずつ増えてきましたが、それでも大会中は何が起きているかを理解するのは一苦労です。とにかく、我が子が頑張っているのを見守ることしかできないでしょう。

 特に今回、筆者が注目したいのは、大会中ではなく、日常生活における親の「置いてきぼり感」です。野球やサッカーの練習と異なり、eスポーツの練習は親の目の外で行われます。10時間以上自室にこもり、モニターを見つめ、ボイスチャットで誰かと何かを喋っている声が聞こえる。親目線では自分の子どもが「何を頑張っているのかわからない」「上達しているのかがわからない」「本当に真剣なのかわからない」状況になります。

 eスポーツプレイヤーの高校生を持つ親は、一般的なフィジカルスポーツよりも「子どもの意志を尊重して信じること」が求められるでしょう。親である自分が全く理解できないものに熱中する我が子のことを、最後まで信じてサポートできるかが重要になります。

 親と子どもの信頼関係が、いまの高校生eスポーツには必要不可欠といえます。

明らかな優遇、強豪校としての重圧

 『リーグ・オブ・レジェンド』部門と『ロケットリーグ』部門で優勝したN高等学校(以下、N校)は、高校生eスポーツにおける強豪校の1つであり、毎年の優勝候補です。ここで問題提起としたいのは、本大会の出場資格です。

・日本国内に在住する高校生・定時制高校生・高等専門学校生(3年生まで)・通信制高等学校生であること

※参考:全国高校eスポーツ選手権公式サイトへ

 現状、全国高校eスポーツ選手権では、全日制の高校だけでなく、通信制の高校にも出場資格が与えられています。高校名は伏せますが、惜しくも優勝を逃したチームの囲み取材で下記の発言をした高校生がいました。

「N校とはどうしても練習量の差を感じます。僕らは全日制ですがあちらは違うので時間に余裕があります。あとN校にはeスポーツのコーチがいますが僕らの高校にはいません」

 厳しい勝負の世界において、この発言を言い訳と受け取る人もいるかもしれません。ただ、私はこれが当事者たちの本音であり、仕組み上の問題だとも感じました。全日制の高校は週5日の登校が必須ですが、通信制高校は登校頻度を選択できるので、練習時間にも差がでます。事実、N校と並ぶ強豪校のクラーク記念国際高等学校やルネサンス大阪高等学校も通信制・単位制の高校です。

 また多くの全日制高校が、パソコン部の延長線上として、顧問の先生の指導で練習をしていることを加味すると、eスポーツ科として元プロeスポーツプレイヤーをコーチとして雇っている通信制高校とは、明らかな差が出てしまうでしょう。実際に戦っている選手たちも、力量差を感じているに違いありません。

 今後、毎日新聞社が全国高校eスポーツ選手権を、選抜高等学校野球大会のような歴史ある大会として位置づけていきたいのであれば、現状の出場資格を見直すことも検討すべきかもしれません。全日制高校の部、通信制高校の部など、部門を設けることも選択肢の1つでしょう。

 ここまでは仕組みに関するお話を続けてきましたが、最後に感情の話をさせてください。強豪校側の視点を忘れてはなりません。

 優遇された環境による練習は、強豪校の高校生たちにも、重圧として重くのしかかっています。「3年で卒業」という高校生特有のタイムリミットもあり、チームメンバーは定期的に入れ替わるのですが、メンバーチェンジを経ても、在校生たちは優勝候補としての期待を背負って戦うことになるのです。

 その期待は、想像以上に高校生たちにプレッシャーを与えていることが、取材で明らかになりました。今大会の優勝者インタビューにおいて、優勝チームであるN校のキャプテンが、優勝の嬉しさとともに、昨年の敗北について言及して悔しさを表しました。昨年大会で一緒に戦ったチームメンバーへの謝罪の言葉もありました。彼が流した涙の半分は優勝した嬉し涙ですが、もう半分は昨年の決勝での敗北の悔し涙だったのでしょう。


小川翔太

1987年生まれ。会社経営者。システムエンジニア→人材コンサルタントを経て(趣味のカードゲームで世界大会に出場したことをきっかけに脱サラ)2017年にメディア業界に飛び込む。5年に渡りeスポーツの取材を続け、これまで総勢100名以上のプロゲーマー&ゲーム関係者にインタビューしている。