パラアーチェリーの“顔”として。「自分の存在が観戦のきっかけになれば」

――上山選手は大阪在住ですが、東京にも合宿などでよく来ています。お忙しいですよね?

「3週間で東京に3回来ました。新幹線の中には障がい者用の個室が予約制で1室あって、それを利用しています。リクライニングにもできるので、そこで眠りについたらあっという間に2時間半。4月から6月は海外遠征も続くので、めちゃくちゃ忙しいですね」

――リオの時に比べて、取材も増えていますか?

「リオでは出場しただけでなく入賞もできたので、ありがたいことに“アーチェリーといえば上山を取材しよう”と言っていただけています。僕、実はテレビのバラエティー番組にも出たいんですよ。かっこいい競技シーンを撮ってもらいますけど、僕は普段はそんなキャラじゃないので(笑)。“なんだか面白いことを言っている選手がいるな。あいつの試合を見に行ってみよう”となったら、観客も増えるじゃないですか」

――出たい番組は?

「『さんま御殿』です。僕、さんまさん大好きなんで。中学のころから大好きな井上真央さんとたまたま一緒にゲストとして出る、というのが夢なんです」

――(笑)。観客を増やせば、パラアーチェリーの認知度にもつながりますよね。

「まだまだマイナー競技なので、講演会に行っても弓の重さや引く力、矢の速度、的までの距離など、一から説明しています。でも究極をいうと、“オリンピックよりも観客が多いね”と言われるくらい会場を満員にしたい。自分はリオも経験しているからこそ、先頭に立って引っ張っていかないといけないなと思っています」

(C)浦正弘

試合に必要なのは、「弱さを人に見せられる強さ」

――東京では満員の会場で戦いたいとおっしゃいましたが、リオの雰囲気はいかがでしたか?

「ブラジルの選手が予選では点数が低かったのに、決勝トーナメントで最終的に4位まで勝ち上がったのを目の当たりにしました。どうしてだろうと考えてみたら、やっぱり地元の観客の声援がすごかったんです。的の真ん中に当てた時なんか、ドーン!となって、すごいなって。それで相手が飲まれて、というのが繰り返されて、勝ち上がった。4年後は日本が地元になるわけだから、絶対満員にしたいとその時に思いました。自分は声援を浴びた方が絶対力が出るタイプなので」

――初出場のパラリンピックで、緊張はなかったのですか?

「試合には勝ちましたけど、1回戦の前だけは、めちゃくちゃ緊張しました。勝つ自信はあったし、しっかり分析もしたし、よく眠れたのに、当日の朝、吐き気がしたんです。それでも日本から持ってきたカレーを朝食に食べたんですけど、もう喉が通らないくらいで」

――その状態で朝カレーを?

「前の会社の先輩が30食分送ってくれたので、毎朝食べるのをルーティーンにしていたんです。辛口から甘口までバラエティー豊富だったので飽きなかったですよ(笑)。でも会場についてからも収まらなかったので、メンタルトレーナーの人に“吐いてきます”って言って、トイレに行きました。自分の場合はそうすることで緊張が抜けると分かっていたので、そのあとはスッと試合に入っていけたんです」

――緊張は誰にでもあることですが、その中でどう対応するべきかを自己分析できているんですね?

「緊張すると吐きそうになる、というのは小さいころからありました。当時は自分だけかなと思っていましたが、メンタルトレーナーの人に“スポーツ選手の人には結構いるんだよ”って教えられたんです。それで“吐いてきます”って堂々と言えるようになった。隠れて吐くよりも、言える方がいい。自分の弱みを知って、それを外に出せる方が強いと思います」

(C)浦正弘

目標達成のためには「イメージを言葉に」

――そのリオでは8位以内を目標にして、7位入賞。メダルを目標にしてもよかったのでは?

「僕はいつも“有言実行”っていわれるんですけど、クリアできない目標は絶対言わないんです。“空を飛びたい”とか、実現不可能なレベルの話は絶対に言わない。自分が頑張って頑張って、可能性が10%でも20%でもあるなと思ったときは目標を口にします。だから当時は、現実的に自分の実力を考えてベスト16かなと思っていたんですけど、頑張ったら8位以内に入れるかなって。運も絡んでくるスポーツなので調子がよかったら8位以内に入れるかもしれないと思って目標を口にしました。でも結局、最終的に僕に勝った選手が金を取ったので、もし流れが自分に傾いていて、その試合で勝っていたら、金メダルの可能性もあったんじゃないかとは思いました。もったいなかったですけど、でも自分の実力は出し切っているので」

――クリアできる自分をしっかりイメージして、言葉にしているのですね。

「頭にイメージしたことを言わないと、いつのまにか“無理だ”って自分の中でかき消しちゃうんですよ。言ったからにはやらないとダメだという状況をつくれるし、そんな自分に対して応援してくれる人もすごく増えてくる。それも力になっています」

――世の中の人々に置き換えても、何か目標を立てても“達成できなったら恥ずかしい”と思って人に言うことができない、という場面もあるかと思います。

「ダメだったときに自分を非難する人はいるかもしれませんよ。でもその逆パターンもあって、応援してきてよかったって言ってくれる人も絶対いるはず。非難する人のことなんて考えていたらマイナスにしかならないので、プラスを考えた方がいいと思います。僕自身も今年、会社の方から送られてきた年賀状に、“一緒に夢を見させてください”って書いてあったんです。もし東京パラリンピックに出られなかったり、出場しても成績が悪かったら、もしかしたら何か言う人がいるかもしれません。でも僕は、そんなふうに応援してくださる人のためにもやらなければって感じさせられました」

(C)浦正弘

2020年に頂点へ。今の自分に必要なもの

――2020年まであと1年半を切りました。金メダルを取るためには、今の自分にあと何が必要だと思いますか?

「実力的には、今やっても絶対世界一にはなれないと思うので、ここから休みなしに上げていかなければいけないと思っています。7月にはプレ大会があるので、そこでも頑張ろうと思います」

――ここから本番までの間にどう世界との差を詰めるかということですね。

「確実にメダルマッチまで進めるというレベルにはまだなっていないし、海外でメダルを取った経験は本当にまだ少ないんです。そのメダルマッチの経験を増やして慣れておかないと、パラリンピック本番で緊張する要素になってしまいます。あと何回海外で試合できるか分かりませんが、海外の選手に勝てるという自信をしっかりつけていきたいと考えています」

――本番のイメージはできていますか?

「会場の夢の島公園アーチェリー場の収容人数が5600人なんですけど、僕は入場した瞬間に、満員の観客席を見て“みんな来てくれたんや”ってちょっと涙ぐむ。友達とか親戚が陣取って、目の前が僕の応援で埋め尽くされている。そんな感じです」

――そこもやはりクリアできるイメージ、ということでよろしいですね?

「リアルな想像だと思っています。井上真央さんが来てくれたら理想ですけど、そこまで想像して実際にいなかったらショックですので!(笑)」

<了>

(C)浦正弘

VictorySportsNews編集部