日本のプロ野球がセ・パ2リーグ、12球団になったのは1958年。以来、チームの変遷はあるものの、この体制は60年以上続いてきた。プロ野球人気の低迷が叫ばれた2004年には1リーグ10チーム制に再編する動きもあったが、選手会などの反発もあって頓挫。人気回復基調にある現在、今度はチーム数を16に増やそうという声も上がるようになってきた。プロ野球が低迷していた時代に横浜DeNAベイスターズの初代球団社長となった池田氏は、この16球団構想には正直まだ課題が多いのではないかという。
「16球団に増えることがプロ野球界の発展、野球人気の復活につながるかどうかはマーケットの観点から直視すると疑問があるでしょう。90年代以降、ジャイアンツ一辺倒の時代が終焉を迎えつつあるなかで、ホークスが九州、ファイターズが北海道、イーグルスが東北を地元として人気を獲得してきました。それぞれの球団は地域密着のための地道な努力をしてきたと思うのですが、同じようなカタチであと4球団の経営が成り立つかと言われたら、マーケティングの観点からは困難と言わざるをえないと思います」
16球団になれば、プロ野球を身近に感じる人は確実に増えるだろう。ポストシーズンのクライマックスシリーズの意義も明確になり、さらに盛り上がるのは間違いない。だが現実は厳しい。16球団構想のフランチャイズ候補として名前が上がるのは、四国や沖縄など。現在四国には独立リーグの四国アイランドリーグがあり、沖縄には昨年、地元密着型の琉球ブルーオーシャンズが誕生している。
「四国ではタイガースが長年高知でキャンプをしていたこともあり人気が高いのですが、そのタイガースでも満員になるのは年数試合程度だと思います。シーズン144試合のホームゲーム72興行を満員にするのはタイガースですら難しいのではないでしょうか。アイランドリーグはNPBに選手を送り込むことを目指す独立リーグですが、観客動員数はプロ野球の2軍戦以下というのが現実です。沖縄の場合、2月に多数の球団がキャンプをするので、身近にプロ野球選手を見るチャンスが多く、かつ練習試合やオープン戦を格安で観戦することもできる。そうなると公式戦だからといって多くの観客が集まるかどうか。天気も変わりやすく前売り券が売れない。沖縄で興行すると“当日券文化”に悩まされるんです。これを変えられるかどうか。新チームができたとしてもビジネス面でかなり苦労することになると思います」
池田氏が課題と呈するのは、ビジネス面だけではない。
「プロ野球関係者に話を聞くと、最近はドラフトにかかる選手の層が過去よりも狭くなってきているという話をよく耳にするし、球団社長時代も耳にしてきました。野球をエンタメとして楽しむ層(観る層)は増えていますが、一方人口減、子供の野球離れなどにより野球人口(競る層)それ自体は減っているというのはそこかしこで報道されている通りだと思いますので、そういうこともあるのかなと思うのですが、現在12球団でもその状況なのに16球団になると、さらに実力がプロレベルにないと思われる選手でも獲得しなければならなくなる可能性もでてきてしまう。
確かに“プロ野球選手になる”という夢を叶える選手が多くなるでしょうが、そのぶん日本のプロ野球のレベルが下がってしまっては元も子もない。日本は長年プロ12球団でやってきて、国民的スポーツとしての人気を獲得し、毎年MLBに数人の選手を送り込むだけの実力も培ってきました。少子化や野球人口の減少を考えると、球団を増やすことよりも今の人気、12球団という限られた野球の三角形の頂点の限定された世界とレベルを維持することを優先的に考えるのも一つのプロ野球の経営と人気の担保の戦略かもしれません。今は満員で溢れているから人が一層集まりプレミアムチケットになっていますが、一旦空席が出てチケットが簡単に取れ出すと人も人気も一気にひいてしまうでしょう」
選手が増えればそのぶんセカンドキャリアの問題なども発生する。18歳でプロ野球選手になっても実力不足で2〜3年で戦力外となる選手も増えるだろう。さまざまな懸念点が残る16球団構想。実現のためには超えなければならないハードルがたくさんありそうだ。
取材協力:文化放送
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日本版エクスパンション「16球団構想」はプロ野球の発展につながるのか?
以前よりたびたび話題となっている日本プロ野球の「16球団構想」。メジャーリーグには球団数を増やすことでファン層を拡大してきた歴史があるが、果たして日本でも同様のことが起こるのか?横浜DeNAベイスターズ初代球団社長であり、スポーツビジネス改革実践家の池田純氏に自らの16球団構想への考えを訊いた。
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