「1日10回も体重計に」厳しすぎる体重管理と減量

―岩出選手ご自身も中高生時代、部活動などで苦しまれた経験があるとのことですが、その中で一つ辛かった経験について教えて下さい。

岩出:怪我で中々走れなかった、っていうのが一番大きいですかね。凄く体重を管理されて、1日に10回も体重計にのることもあったのですが、体重を過度に落としたことで、生理が来なくなり、怪我をしてしまうことが多かったですね。あと、怪我をしてもなかなかコーチに言えなくて。数日休めば良くなるような怪我も、隠しながら練習を続けることで悪化してしまい。中学高校と強豪校にいたので、周りの選手もレベルが高くて。気に入らない選手がいれば、少しレベルを下げればいくらでも替えがきくような状態だったんですよね。なので、なかなか少しの怪我で「休ませてほしい」とかっていうのは、言えませんでしたね。

―体重管理という部分でいうと、どのようにして体重を減らされていたんですか?

岩出:とにかく食べないように。それだけでしたね。1日何も食べないとかはザラでした。社会人になれば3,40キロと走るので、それでガッツリ体重を落とすこともできるんですよ。ただ、中高生はたかだか10キロとかなので、走るだけではなかなか体重は落とせなくて。

―体重の徹底的な管理っていうのは、日本独自のものなんですかね?

岩出:海外の選手は、そこまで体重を気にしていないと思います。色んな体格の選手がいますし。そもそも皆プロなので、自分でお金を払ってコーチをつけていて、自分で自分のことを管理するっていうことが出来ていますね。日本だとトップが実業団中心の環境なので、どうしても自分でっていうよりは、誰かに管理されるような形になってしまっています。

―岩出選手ご自身はウェイトトレーニングなどもされているとお伺いしたのですが。

岩出:一度、ウェイトトレーニングをやってみたら、その後の走りに明らかにいい影響が出て。実際、ベストタイムも出たので、それ以降継続してウェイトトレーニングに取り組んでいます。

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「管理=成長」という認識が蔓延ってしまっている

―中高生の長距離界の現状っていうのは、岩出選手が中高生だった当時と変わっているように思われますか?

岩出:インスタのDMとかで、中高生からお悩み相談みたいなのが届くんですけど、みんな数字について聞いてくるんですよね。「身長〇〇センチだと何キロが適正体重ですか?」みたいな。中高生がみんな数字にこだわっているところが、当時と変わっていないなって感じます。体格も人それぞれだから、体重が何キロであるべき、とかっていうのはないはずなんですけどね。あと、数字を気にしているっていうのは、それだけ指導者の方に管理されてしまっているんだろうなっていう風にも感じます。自分で考えるのではなくて、指導者の言うことにただ従ってしまっている状況は、私が中高生のときから変わっていませんね。

―なかなか状況が変わっていかない理由を、岩出選手はどのように考えられていますか?

岩出:一番は指導者に原因があると思っています。他には、先程も言いましたけど、トップが実業団中心の環境っていうのも理由の一つだと思います。実業団っていう場所は、勿論守ってもらえるっていう意味ではありがたいことなんですが、どうしても選手が管理されるような立場になってしまうんですよね。なので、そこで成功した選手がいても、「徹底的に管理することが成長に必要だ」っていう風になってしまう。私自身も実業団にいるときは、コーチの言うことに対して、「多分間違っていると思うんだけどなぁ」と思うことがあっても従っていましたね。一応「間違っていると思う」っていうことは伝えていましたけど。

「親しみやすいトップランナー」になりたい

―そういう背景もあって、プロに転向されたと思うんですが、プロになったからこそできることっていうのは、どういう風に捉えられていますか?

岩出:実業団にいると、チームに守ってもらえるんですよね。だからこそ、中々SNSで発信もできないですし。男子は大迫選手や設楽選手のようにSNSで発信をしている選手もいるんですが、女子はいなくて。自分で考えて練習をするっていうのは勿論ですけど、それをSNSで発信することで皆に伝える事ができると思いますし。発信も最初は抵抗感があったんですよね。特に「今日は練習メニューをこなせなかった」っていうのは、なかなか発信できなくて。でも、そういう発信を見ることで、練習メニューをこなせなくて悩んでいる人が「プロでもそういう日があるんだ」っていう風に思えて、悩みが解消されるんなら、発信しようっていう風になっていきました。

―最近は市民ランナーの方と一緒に走るっていうイベントも積極的に開催されていますよね。

岩出:マラソン選手って、すごく距離を感じてしまう存在だなっていう風に思って。じゃあ、親しみやすいトップランナーに私がなろうっていうことで、はじめました。一緒に走れたりとか、気さくに話しかけられたりとか。そういう存在になることができれば、市民ランナーの方だったり、沿道から応援してくださっている方だったり、今厳しい練習とかに悩んでいる中高生だったりに「マラソンっていいな」って思ってもらえるんじゃないかなって。そうすれば、マラソンを始めてみようと思う方も増えると思いますし、今実際に走っている方に、より頑張ろうっていうモチベーションになれるのかなっていう風に思っています。

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「チームレイア」の輪を全国へ

―そういう考えに至るまでに、何かきっかけなどはありましたか?

岩出:元々はすごく勝ち気な性格で、試合前とかは「話しかけんな」っていう感じだったので、あまりそういう考えは持っていなかったですね(笑)。変わったきっかけの1つ目はプロになったことですね。当時所属していたドームに、いきなりケニアにいけっていわれて(笑)。世界一を知らずしてどうやって強くなるんだって言われましたね(笑)。ドームに長距離の部門がそれまでなかったから、っていうのはあると思うんですが、初めて長距離界っていう狭い世界から出ていったことで、色々な経験をして、考え方が変わっていきました。もう1つはつい最近ですけど、東京五輪に出られないことが決まった後ですね。元々、東京五輪で引退しようと思っていたんですよ。4年に1回っていう舞台を目指して頑張り続けるのが、あまりにきつくて、もう引退しようと。でも、走ること自体は好きだったので、それは続けたい。で、色々考えたんですけど、もう自分のために頑張るのは疲れたので、他の誰かのために頑張りたいなって。さっきいったような活動も、まだ東京でしかできていないんですけど、全国に広げていきたいですね。参加してくれている方は「チームレイア」っていう風に言ってくれていたりして。実際、参加してくれた方から直接反応を頂けるのは、すごく力になりますね。後は、公務員ランナーの川内選手のように、各地の大会に参加して、いろんな市民ランナーの方と走ってみたいなって思っています。

―岩出選手が思う、マラソンの一番の魅力を教えて下さい。

岩出:誰でも、大勢の方から声援を受けられることですかね。他のスポーツだと、いわゆる市民大会で、そんなに大きな声援を受けることってないじゃないですか。でも、マラソンなら、市民ランナーの方でも、大勢の方から声援を受けることができます。走っている最中も沿道の方から声援を頂けますし、ゴールした後は他のスポーツでは考えられないくらいの声援を頂けますよね。そこが大きな魅力だなって思っています。

―最後に、今後の意気込みを教えて下さい。

岩出:SNSの発信だとか、市民ランナーの方と一緒に走ったりだとか、色んな大会に出たりだとか。いまは色んな活動にチャレンジしてみたいなって思っています。そういう活動を通じて、少しでも勇気づけられる方がいればいいなって思いますし、その中でマラソンを始めてみようって思う方がいればすごく嬉しいです。

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VictorySportsNews編集部