世界大会の参加標準記録は上昇

 世界選手権は旧方式の代表選考だった2019年ドーハ大会と今夏のブダペスト大会を比べると、参加標準記録が大幅に上がっている。男子100mは10秒10→10秒00、同400mは45秒30→45秒00、同5000mは13分22秒50→13分07秒00という具合だ。さらにターゲットナンバー(出場人数枠)が決められており、ブダペスト世界選手権は100mが48人、800mは56人、10000mは27人と種目によって異なっている。

 そして五輪や世界選手権などの国際大会は、基本的に「参加標準記録突破者」+「ワールドランキング上位者」に参加資格が与えられる。

 そもそも「ワールドランキング」とは何なのか。風の影響などを考慮した「記録スコア」と大会カテゴリーなどを反映した「順位スコア」の合計である「パフォーマンススコア」の平均値(基本は5つ。種目によっては2つまたは3つ)によるランキングだ。

 世界大会を狙う選手は「参加標準記録」の突破を目指しつつ、「ワールドランキング」の順位を上げることも考えながら年間スケジュールを組んでいくことになる。この新スタイルが大学生のレース選びにも大きく影響している。

関東インカレは目玉選手が続々欠場

 例年5月に行われる関東インカレは今年で第102回を数えるほどの伝統を誇る。「トラック&フィールドの箱根駅伝」ともいえる大会だ。大学陸上部にとっては地区インカレと日本インカレが最重要大会となるわけだが、今年の関東インカレは異変が見られた。

 200mの鵜澤飛羽(筑波大)、400mの中島佑気ジョセフ(東洋大)、400mハードルの黒川和樹(法大)。前年、男子1部の各種目を制した目玉選手が個人種目を欠場したのだ(※3人ともリレー種目には出場した)。数年前には考えられないことが起きている。

 その理由は明快で、関東インカレよりも「順位スコア」が高く、記録を狙いやすい大会を選択しているのだ。

 なお大会カテゴリーは全10段階あり、五輪・世界選手権の「OW」が最高位。国内の大会ではセイコーゴールデングランプリ横浜が上から5番目の「A」で、日本選手権が同6番目の「B」。織田記念や静岡国際は「C」、TOKYO Spring Challengeや兵庫リレーカーニバルは「D」、出雲陸上や水戸招待は「E」、関東インカレはというと10番目の「F」になる(※国内の多くの競技会がFに該当する)。

 各大会で「順位スコア」がどれくらい違うかというと、トラック&フィールド種目(5000m、10000m、3000mSCは除く)は1位の場合、「OW」が375(8位は200)、「A」が140(8位が60)、「B」が100(8位が40)、「F」が15(3位が5)になる。

 世界を目指す学生アスリートは大学のレースではなく、ポイントの高い大会を選んで出場。「パフォーマンススコア」を上げる戦略を取りながら、6月上旬の日本選手権に合わせてきた。そして鵜澤と中島は日本選手権で初優勝。ふたりともブダペスト世界選手権代表の〝圏内〟につけている。

ブダペスト世界選手権代表に近い選手は?

 日本選手権終了時点でブダペスト世界選手権の日本代表内定選手はマラソン・競歩を除くと4人(泉谷駿介、高山峻野、三浦龍司、北口榛花)。あとはどのように決まるのか。

 世界選手権の各国代表枠は最大3(前回大会優勝者によるワイルドカードの参加資格者は除く)。日本陸連が定めた「選考条件」は細かいが、大きな枠でいうと、「日本選手権3位以内」で「参加標準記録突破者」もしくは8月2日に公表予定の「基準ワールドランキング」(ターゲットナンバー内に入った競技者)を満たした者が該当する。※ただし、有資格者が3人に満たない場合、日本選手権で3位以内に入れなかった「参加標準記録突破者」(男子110mハードルの村竹ラシッド、男子走幅跳の吉田弘道、女子10000mの廣中璃梨佳、女子100mハードルの福部真子)や「基準ワールドランキング」を満たした者が内定することになる。

 日本選手権で「3位以内」に入り、最新(6月13日発表)のワールドランキングで〝圏内〟につけている選手は以下の通りだ。彼らはランキングを落とさなければ、日本代表が内定することになる(※ただし男子100mは昨年のオレゴン世界選手権入賞のサニブラウン・アブデル・ハキームが参加標準記録を突破するか、基準ワールドランキングを満たせば優先される)。

※ ★付きは内定済み。

■男子
【100m】坂井隆一郎(大阪ガス)、栁田大輝(東洋大)、小池祐貴(住友電工)
【200m】鵜澤飛羽(筑波大)、水久保漱至(第一酒造) 
【400m】中島佑気ジョセフ(東洋大)、佐藤拳太郎(富士通)、佐藤風雅(ミズノ)
【1500m】河村一輝(トーエネック)
【5000m】塩尻和也(富士通)、遠藤日向(住友電工)
【110mH】★泉谷駿介(住友電工)、★高山峻野(ゼンリン)、横地大雅(Team SSP)
【400mH】児玉悠作(ノジマ)、小川大輝(東洋大)、山内大夢(東邦銀行)
【3000m障害】★三浦龍司(順大)、砂田晟弥(プレス工業)
【走高跳】赤松諒一(アワーズ)、真野友博(九電工)
【走幅跳】城山正太郎(ゼンリン)
【やり投】ディーン元気(ミズノ)、新井涼平(スズキ)、﨑山雄太(愛媛陸協)

■女子
【800m】塩見綾乃(岩谷産業)
【1500m】田中希実(New Balance)、後藤夢(ユニクロ)
【5000m】田中希実(New Balance)
【100mH】田中佑美(富士通)、青木益未(七十七銀行)、寺田明日香(ジャパンクリエイト)
【400mH】山本亜美(立命大)
【走幅跳】秦澄美鈴(シバタ工業)
【三段跳】森本麻里子(内田建設AC)、高島真織子(九電工)
【やり投】★北口榛花(JAL)、斉藤真理菜(スズキ)、上田百寧(ゼンリン)


 他にも日本選手権で3位以内に入り、ワールドランキングで狙える位置につけている選手は少なくない。参加標準記録の期限は7月30日で、ワールドランキングの対象も同日まで。ブダペスト世界選手権は8月19~27日に開催されるが、選手たちはギリギリまで〝出場の道〟を探っていくことになる。ワールドランキングは毎週更新されるため、当落線上の選手たちは不安な日々を過ごすことになるだろう。本番へのピーキングを考えるなら、早めに参加標準記録を突破してブダペストに乗り込みたい。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。