MDCはオン・ジャパン共同代表の福原裕一氏が「ずっと注目していた大会」であり、Onのプロダクトは横田真人氏が「以前から好きだった」という。もともと〝相思相愛〟だった両者が去年12月に出会うと、ストーリーが急展開していく。2010年に誕生したOnは、「世界で最も成長スピードの速いスポーツブランド」と呼ばれているが、その〝機動力〟を今回もフルに発揮したかたちだ。

 「MDCを出場選手だけでなく、応援に来られた方々を含めたすべての参加者に、『今日は楽しかった』『参加して良かったな』という手触りを持って帰れるような大会にしていきたい」と福原氏が言えば、横田氏も、「MDCへのパートナーシップを締結していただいたことで、以前から私たちが考えていた『日本の陸上競技場の景色を変える』というチャレンジができるのではないかと思っています。陸上競技場を誰でも使えて、より親近感を抱いてもらう場所にしたいんです」と熱く語った。

 Onはグローバルの取り組みとして、『On Track Nights』という陸上競技場を舞台にしたレースをウィーン、パリ、ロンドン、ロサンゼルス、メルボルンの5カ所で開催中。福原氏は、「ぜひ日本でも同じフォーマット、同じ熱狂でやりたい。僕の思いですけど、MDCを来年以降、On Track Nightsのひとつに入れていきたいと考えています」と具体的な構想を明かした。

 横田氏は世界各国のレースを転戦しただけでなく、米国の大学院で学ぶなど、豊富な国際経験を持つ。そして、MDCをこれまでの日本にはないレースにしたい、日本の中長距離をもっと強くしていきたいという熱い思いを抱いている。

 「陸上競技場の景色を変えるチャレンジにOnが加わったのは本当に心強いです。今までの陸上競技は良いパフォーマンスを見てもらって、良い記録が出ると盛り上がるというロジックだったと思うんですけど、その場でまずは楽しんでもらえる空間を作るのが大事です。僕らのリソースだけではできなかったことも、Onが持っているノウハウなどを生かしながらスタジアムに熱狂を作っていきたい」(横田氏)

 陸上競技は日本選手権でも観客は2万人ほどで、良くも悪くも淡々とスケジュールが流れていく。しかもトラック種目とフィールド種目が同時進行するため、スタジアムが一体感に包まれる瞬間はなかなかめぐってこない。

 その点、MDCは中距離に特化した大会。4月2日に駒沢陸上競技場で行われた「THE MIDDLE 2023」では、グラウンドレベルまで観衆を入れるなど、選手との距離感がかなり近い。

 同大会の女子1000mには昨夏のオレゴン世界選手権で3種目(800m・1500m・5000m)に参戦した田中希実が出場。カウベルが鳴り響き、グラウンドレベルからファンが声援を送るなかを2分44秒54で独走した。レースを終えた田中は、「アップのときから観客の方が近くにいて、日本でも海外でもあまりないような雰囲気がありましたし、すごくたくさん来てくれていると感じました」と一般の大会とは異なるムードを楽しんだ様子だった。

 「MDCではOn Track Nightsで再現可能なものをどんどんやりたいと思っています。音楽フェスのようなかたちも考えていますし、競技間にショーを行うなど、陸上競技の大会をひとつのエンターテイメントとして楽しめるものにしていきたいですね。加えて、記録に対して真摯である面も残して、楽しいだけじゃなくて、世界選手権や日本選手権の参加標準記録を目指せるような提案もしていきたい」(福原氏)

 MDCは日本各地でレースを行い、10月20~21日には日本グランプリシリーズ グレード3となる「TWOLAPS MIDDLE DISTANCE CIRCUIT in TOKYO 2023」を駒沢陸上競技場で開催予定。今季は音楽フェスのような中距離大会が次々と展開されていくことになるだろう。陸上ファンとしては楽しみで仕方ない。

 Onのアスリートストラテジー アドバイザーとして活動していく横田氏は、福原氏が米国から持参したばかりだという国内では未発売のスパイクを着用してレースに出場。「めちゃいいっす。ハマります」と好感触を口にした。横田氏は普段のトレーニングでもOnのシューズを愛用しており、その履き心地に魅了されているようだ。

男子800m元日本記録保持者・横田真人氏がオン・ジャパンのアスリートストラテジー アドバイザーに就任

「最初はクラウドストラトスにハマりました。硬さもあるので、速いジョグとか、良いリズムで走るときにピッタリなんです。最近はクラウドモンスターも好きですね。しっかりしたクッション性と反発力があるので、ウォーミングアップ時に使用することが多いです。クラウドサーファーはクッション性だけでなく、スムーズなライド感があるので、ロングジョグのときに着用しています。好みな部分は異なりますが、TWOLAPSの選手たちも最近はOnのシューズを履いていて、好評ですよ」

 いま最も勢いのあるスポーツブランドのOnと、日本中長距離界を変える戦いをしている横田氏が率いるTWOLAPS。両者のタッグが日本の陸上競技大会に〝革命〟のベルを鳴らす。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。