初代チャンピオンの4番は“チャンスメーカー”

 まずは、2006年に行われた第1回大会から振り返っていきたい。全8試合で4番を任されたのは松中信彦(元福岡ソフトバンクホークス)だった。松中は2004年に三冠王に輝くなど、日本の4番を任せるには申し分のない実績を残していたが、短期決戦のポストシーズンで結果を残せていなかったことからその座を不安視される意見もあった。しかし、チームを率いた王監督の信頼は厚く「4番・松中」を明言する。

 実際の成績はというと、松中はチームトップの打率.433をマークしたものの、本塁打0、打点2と4番としては物足りない数字だった。それでも、得点はチームトップの11、出塁率も5割を超えており、理想とする4番像とは違うかもしれないが“チャンスメイカー”としてチームに不可欠な存在だったと言えるだろう。

第2回大会は“つなぎの4番”

 続いて第2回大会。この大会では村田修一(現読売ジャイアンツ)、稲葉篤紀(元日本ハムファイターズ)、城島健司(元阪神タイガース)の3選手が4番を任された。

 第1ラウンド初戦の中国戦は経験豊富な稲葉が任されたが、2戦目の韓国戦から4試合は好調を維持していた村田が4番に座った。その間打率.357、1本塁打、5打点としっかりと4番の重責を果たしたが、その後を打つ5番打者の不振などもあり第2ラウンドの3戦目は村田が5番に入り再び稲葉が4番に。以降は城島→稲葉→城島と先発投手の利き腕などを考慮して決勝まで日替わりで4番を任された。

 この大会は9試合でチーム本塁打は4本と一発の脅威がある打線ではなかった。4番が誰とかではなくチーム全体で“スモールベースボール”を体現し、つないで勝ち取った優勝だった。

第3回大会の4番は“絶対的な存在”

 最後に第3回大会だが、阿部慎之助(現読売ジャイアンツ)のチームといっても過言ではなかった。キャプテンで4番、そして扇の要の捕手。この大会の侍ジャパンにはメジャーリーガーが一人も参加していない。過去2回とは戦力的に落ちるのは明らかだっただけに、阿部にかかる期待はより大きくなっていた。

 第1ラウンド初戦のブラジル戦は阿部がまさかの右膝痛によりスタメンを外れ、代役として糸井嘉男(現阪神タイガース)が4番で起用された。糸井はタイムリーを放つなど代役をしっかりと務めている。その後は阿部がスタメンに復帰し、準決勝までの6試合は攻守の要としてチームを引っ張った。

 阿部の4番での成績は打率.273、2本塁打、6打点と特筆した結果は残せなかったが、彼が4番を打つことに疑問を差し挟む者はいなかった。1戦目を終えた後に糸井が「阿部さんの重責を自分なりに感じながらプレーした」とコメントを残しているように、阿部が一人で抱えていた重責は相当なものだったことがうかがえる。

侍ジャパンの4番は“チームを問わない”筒香

©Getty Images

 第1、3回大会は監督が4番を明言し試合に臨んでいた。松中、阿部ともに任せるだけの資質があったからこそ監督は明言し、4番として起用し続けた。第2回大会に関しては絶対的な存在がいないがゆえの起用法だったが、固定しないことも戦略の一つだ。

 では、今回はどうだろうか。

 結論から言うと4番は筒香がふさわしいだろう。成績で比較してもそうだが、打席で出す威圧感、確実性、得点圏での勝負強さなど日本の4番を任せるだけの資質を持っている。

 筒香と中田はタイプの異なる4番である。筒香は漫画に出てくるような典型的な4番打者だ。「筒香ならやってくれる」と周りに勇気を与え、しかもその期待に応えることもできる。一方の中田もファイターズで長年4番を務め、リーグでも指折りの長距離打者ではある。ただし、どちらかというと周りに活かされるタイプの4番打者と言えるだろう。

 筒香が例年高い得点圏打率を残しているのに対し、中田は過去3年で一度も3割を超えたことがない。それでも3年連続で100打点をマークできているのは、ファイターズというチームだからこそ、と言えるのではないか。

 昨年の中田の得点圏での打席は12球団1位の230と、多くの打席をチャンスで迎えている。ランナーを溜めて中軸に回すことで得点力は上がるのは言うまでもないことだが、ファイターズはそれができるチームなのだ。中軸の前でしっかりチャンスメークできること、一つでも先の塁を落とし入れる高い走塁技術を持っていることなど、ファイターズが体現している野球でこそ、中田は4番として活かされる。

 小久保監督は就任時から4番として中田を使い続けてきただけに、思い入れが強いのだろう。しかし、勝ち続けなければならない戦いの中では、少ないチャンスを確実にものにできる布陣で臨むべきだ。15年に行われたプレミア12で、その答えは出ている。この大会で中田は5番と6番で出場し、打率.429、本塁打3、打点15をマーク。筒香-中田の並びで打線は機能した。

 本戦は成長を期待する場所ではなく結果を求められる場所だ。それぞれが一番力を発揮できる「4番筒香、5or6番中田」が最もシンプルな打順ではないだろうか。


VictorySportsNews編集部