文=斉藤健仁

初めての状況でも的確な指示をする主将

 「いるかいないかで全然違う」と指揮官に言わしめたのが、今年度の高校ラグビーで「3冠」に輝いた東福岡(福岡)の大黒柱だったLO箸本龍雅主将だった。

 小学校1年でラグビーを始めたが、中学校はサッカー部にも所属していた。そのときラグビーの福岡県選抜で優勝。そのことで悩んだ末にラグビーに専念し東福岡高校に進学した。昨年の3月には2年生ながら高校日本代表に選出され、スコットランドU-19代表を10-7で倒したメンバーの1人にもなった。ヨーロッパから戻って来てすぐに出場した選抜大会でも、東福岡をその突破力でけん引し優勝に導いた。さらに東福岡は夏の7人制大会も制した。昨年12月~1月にかけて大阪の東大阪市花園ラグビー場で行われた「花園」こと全国高校ラグビーに、東福岡はAシードに選ばれ優勝候補筆頭して、その大会を迎えた。

 花園に東福岡が登場したのは2回戦からだった。浜松工(静岡)は中1日で疲れもあり、前半から圧倒し、箸本も先制トライを含む4トライを挙げるなど東福岡はトライを量産し、139得点を挙げて大会記録を更新。さらに元日の3回戦で松山聖陵(愛媛)にも91-0で勝利し、難なくベスト8に進出した。

 準々決勝の相手は抽選の末Bシードの京都成章(京都)となった。試合のレベルが上がったことと、花園のアウェーのような雰囲気に飲まれたこともあり、相手の激しいタックルでアタックを分断され、前半を7-7の同点で折り返す。さらに後半4分にトライを与えてしまい7-19と12点のリードを許す。今年度の公式戦で初めて追う形となった東福岡。主将の箸本は円陣でこうチームメートに語った。
「もっと外側にFWが立とう。また、まさに練習でやってきた状況で、ここでできなかったら意味がない」
箸本主将のいう〝練習〟とは、「残り10分、15点差」などという状況を設定した東福岡の伝統的な練習を指していた。その円陣後に冷静になった東福岡は、FWとBKが一体となりボールを運び21-19と逆転に成功。さらに、後半21分には2年生ながらNo.8となった福井翔太が個人技でトライを挙げて28-22の逆転勝ち。
「接戦に勝ち、次につながる素晴らしい試合でした。個々の気も引き締まると思うし、ここからが東福岡の最後の大会のスタートだと切り替えて、次に臨みたい」と試合後に箸本はコメントした。

「まだあきらめていない」

 続く準決勝の相手は同じくAシードで、今年度の国体で単独チームとして出場して優勝した御所実(奈良)だった。前半から反則を繰り返した東福岡は相手の一番の武器であるモールに苦しみ、前半は8-19とリードされた。しかし、後半に入ると東福岡は反則を少なくして、相手にモールを組まれないようなディフェンスで対応。そして、「俺にボールを集めろ!」とチームを鼓舞した箸本の突破もあり、25-24でまたも逆転で勝利した。

 迎えた決勝戦。その相手は前回大会の準決勝で敗れた東海大仰星だった。前の2戦で相手に合わせてしまった反省から箸本は「最初からトライを取りに行こう。FWとBKが一体となってボールを動かすヒガシのラグビーをしよう」と声を掛けて試合に臨んだ。主将の言葉通り、東福岡は最初から猛攻を仕掛けて前半を7-0で前半を折り返す。後半は同点に追いつかれたものの、常に先手を取った東福岡が28-21で勝利し2年ぶり6度目の優勝と同時に「3冠」に輝いた。

東福岡が東海大仰星を破り、2大会ぶり6度目の優勝を飾った。5試合での花園最多311得点をマークし、春の全国選抜大会、夏の7人制大会と合わせて、2015年度以来となる2度目の3冠を達成した。
【高校ラグビー】東福岡、2大会ぶり6度目の優勝!花園最多311得点で2度目の3冠達成!

 花園で優勝を奪還するという意味から、「奪」のひと文字をスローガンに臨んだ東福岡が前評判通りの強さを見せた。やはり「チームの柱だった」と仲間が声をそろえるように、プレーでもメンタルでも主将の箸本龍雅の存在が大きかった。東福岡の藤田雄一郎監督も「箸本のチームだった」と言うように、箸本が「史上最強」とも言えるチームを引っ張り、国内の相手には無敗でシーズンを終えた。

 箸本は表彰式後もケガをしていた選手にそっと肩を貸していた。また、花園に向けたメンバー発表で一緒に戦っていきた同級生の多くがメンバー落ちしてしまい、最後の大会で共に戦えないのが悔しくて涙を流していたという。箸本は安堵の表情を見せつつ、こう今大会を振り返った。
「花園は出られなかった3年生の分まで頑張ろうと思っていました。今大会は『3冠』というプレッシャーはあまりなく、1つの大会として意識できました。相手はヒガシと戦うときは最初から全力のため、苦戦する場面もありましたが、最後まであきらめず戦うことができた」
箸本は春から明治大に進学し、LOではなくFLやNo.8でプレーするという。「まだあきらめていない」と日本代表として2019年のワールドカップへの思いも吐露している。


斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k