まずはオープニングを飾る男子20㎞競歩(19日15時50分)だ。王者・山西利和(愛知製鋼)が3連覇を目指して戦うことになる。最大のライバルは昨年の世界陸上オレゴンで2位の池田向希(旭化成)。日本勢の頂上決戦はどんな結末が待っているのか。競歩といっても20㎞は非常にスピーディー。1時間20分ほどで勝負がつく。徹底マークを受ける京大卒ウォーカーの〝仕掛け〟に刮目したい。

 大会初日は三浦龍司(順大)らが出場する男子3000m障害予選(19日18時35分)、サニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)らが出場する男子100m予選(20日2時43分)などがある。日本勢期待の種目が続くなか、東京五輪の女子1500mで8位入賞を果たした田中希実(New Balance)が登場する。

 田中は昨年の世界陸上オレゴンで3種目に挑戦するも「入賞」に届かず、今季はプロに転向した。シーズン序盤はあまり調子が上がらなかったが、6月の日本選手権で1500mと5000mの2冠を達成。その後は約2週間のケニア合宿を敢行すると、徐々に調子を上げていく。7月8日のオウル・フィンランド5000mを日本歴代3位の14分53秒60で優勝。5日後のアジア選手権1500mを4分06秒75のシーズンベストで走破して、後続を6秒以上も引き離した。

 2種目に出場する今大会は、1500mが19日の20時15分に予選、21日の0時05分に準決勝、23日の4時31分に決勝。5000mは23日の18時10分に予選、27日の3時50分に決勝が行われる。1500m決勝と5000m予選は約14時間のインターバルしかない。かなり過酷な戦いになりそうだ。

「今回はプラス通過がないので、予選から決勝のつもりでいく必要がある。1500mは自分のペースを見失わずに、自分の力を信じていくのがカギになるのかなと思います。決勝はハイペースになると思うので、その場合は頭を空っぽにして食らいつきたい。スローになったときは、予選と準決勝で動きのあるレースを乗り越えているはずなので、その経験を生かしてレースの流れに対応していきたいと思います。5000mは1500mを言い訳にしたくないので、『決勝に残る』という強い気持ちで、まずは予選に臨みたい」

 プロになり、様々な経験を積んできた田中。ブダペストでも我々をドキドキさせてくれるだろう。

 女子1500m決勝の直後には男子3000m障害決勝(23日4時42分)がある。東京五輪で7位に入った三浦龍司(順大)がアタックする。今季はL.ギルマ(エチオピア)が7分52秒11の世界新記録を打ち立てた6月9日のダイヤモンドリーグ(以下DL)第4戦パリ大会で自身が持つ日本記録を0.01秒更新する8分09秒91をマーク。凄かったのは世界の猛者を相手に2位に食い込んだことだろう。世界陸上オレゴンは予選で敗退したが、今回は決勝で上位争いを繰り広げるはずだ。

 6月30日のDL第6戦ローザンヌ大会では三浦の先輩、泉谷駿介(住友電工)が快挙を果たした。男子110mハードルを13秒22(-1.0)で優勝。2010年に新設された最高峰シリーズで日本勢男子の初栄冠だった。泉谷は7月23日のDL第10戦ロンドン大会でも13秒06(+1.3)で2位に入った。世界陸上オレゴンVのG.ホロウェイ(米国)に逆転を許したが、東京五輪VのH.パーチメント(ジャマイカ)らに先着。持ち味のスタートダッシュが爆発すれば、今大会のメダル獲得も夢ではない。予選は20日20時05分、準決勝は22日3時05分、決勝は同日4時40分に行われる。

 今季、DLで最も輝いた日本人が女子やり投げの北口榛花(JAL)だ。パリ大会を65m09で制すと、7月16日の第8戦シレジア大会で今季世界最高となる67m04をマーク。自身が持つ日本記録(66m00)を1m以上も塗り替えて、完勝した。昨年のオレゴン大会は銅メダルを獲得しているが、今大会は金メダルが現実的な目標だ。予選は23日(Aが17時20分、Bが18時55分)、決勝は26日3時20分。北口のビッグアーチを楽しみにしたい。

 そして大会フィナーレを飾るマイルリレー(4×400mリレー)に注目したい。昨年のオレゴン大会は佐藤風雅、川端魁人、ウォルシュ・ジュリアン、中島佑気ジョセフの4人が激走。メダルに一歩届かなかったが、2分59秒51のアジア新記録で4位入賞を果たした。

 この〝歓喜〟をきっかけに日本の男子400mに勢いがついていく。今シーズンは好記録が続出。佐藤拳太郎(富士通)が7月のアジア選手権で日本歴代2位の45秒00で金メダルに輝くと、別のレースで中島佑気ジョセフ(東洋大)が日本歴代5位の45秒12、佐藤風雅(ミズノ)も同6位タイの45秒13をマークしている。

 日本の400mは〝史上最強メンバー〟でブダペストに向かう。2大会ぶり4回目の世界陸上に男子主将として臨む佐藤拳太郎は、「歴代の主将は結果でチームを引っ張ってこられた。私もまずは日本記録を更新して、日本の400mが世界に通用することを見せたい」と語っているように、マイルリレーの前に個人の400mで結果を残すつもりだ。

 3人は個人でもファイナル進出を目標に掲げており、日本人では過去ひとりしかいない44秒台、それから32年ぶりとなる日本記録(44秒78/高野進)の更新も期待十分。男子400mは予選が20日17時25分、準決勝が23日4時00分、決勝が25日4時35分というスケジュールだ。そして男子4×400mリレー決勝(28日4時37分)でデッカイ花火が打ち上がるのを期待したい。

 その他の注目種目は女子走幅跳び決勝が20日23時55分、女子マラソンが26日14時00分、男子4×100mリレー決勝が27日4時40分、男子マラソンが27日14時00分。時差の問題でイブニングセッションは日本時間の深夜になってしまうが、ぜひリアルタイムで興奮と感動を味わっていただきたい。

※競技時間は変更になる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。