MMAと塩ちゃんことアナタ — いつだって163センチ50キロ、高橋里枝のハチャメチャ格闘技人生〔4/5〕

山田さん怒る

 ウィークリーマンションを借りて、テレアポのバイトに精を出していたとき、トレーナーの山田さん(前出)から電話があって、「あいつ、結婚するって知ってる?」って言われて。「えっ、私とですか?」って。なんと、奴はずっと浮気してたんです。それで、山田さんもブチギレて。

 で、裁判やったら余裕で勝って、慰謝料が入りました。ああ、ようやく一息つけるかなと思っていたら、山田さんが「うち(JBスポーツ)で、アルバイトしたらどうだ」って言ってくれて。

 息子が1歳になった年なので、2010年ですね。最初は受付とかジムのアルバイトで入って、今はマネジャーになりました。JBではケトルベルのワークショップもやらせてもらっているので、今はJBのマネジャーとNPO法人・日本ケトルベル連盟の理事長の両輪で活動しています。

ケトルベル

 ケトルベルを始めたのは、格闘技の現役中です。きっかけは、例の彼(この点については感謝しているので、奴呼ばわりはやめます)ですね。もともと、ウェイトを使ったトレーニングよりも、自重トレーニングが好きだったので、すぐ夢中になりました。

 バーベルは両手で持ち上げ、ケトルベルは片手で持ち上げるというのは、よくある誤解です。片手で持ち上げるだけなら、バーベルではなく、ダンベルを使えばいいわけですから。

 ケトルベルは、ウェイトとは「動作の原理」が違うんです。バーベルやダンベルは持ち上げますが、ケトルベルはなるべく持ち上げない。たとえばジャークをやるのでも、ケトルベルを持ち上げるのではなく、股関節を使ってその下にもぐるイメージです。

 いろいろなポジションを取りますが、いずれも、ケトルベルを動かすというより、あまりケトルベルの位置を変えずに、自分の身体の方を動かす。体幹はもちろん、全身のさまざまな細かい筋肉を常に締め続けないといけないので、バランスボールに乗っているような感覚です。

 世界にはいくつか大きな団体がありますが、私はアメリカの団体OKC(オレンジ・ケトルベルクラブ)でトレーナーの資格を得ました。OKCは、ケトルベルスポーツ(10分間で、どれだけケトルベルを振れるかを競う)の大会を主宰する老舗です。

 彼らは「日本でケトルベルスポーツの大会を開きたい。ケトルベルの生徒さんを参加させて」と頼んできました。しかし当時は、ケトルベルを自分のスポーツのための筋トレとして行っている人が多く、ケトルベルスポーツのガチ勢はほとんどいませんでした。

 男の生徒さんを12kgのスナッチでエントリーしようとしたら「12kgは疾患のある人か高齢者しか扱わない重量。16kgにあげられないか?」と言われてしまいました。すべてが海外基準なんです。

 日本には、日本人向けのケトルベルスポーツがあっていいと思ったので、2016年に、自分でNPO法人日本ケトルベル連盟を設立しました。

ガチガチは、3日に1度


 いま、自分の本気のトレーニングは、生徒さんたちと一緒のワークショップで済ませています。120分のコースで、最初の20分がストレッチ、次の40 分がウォームアップや技術練習、次の30分がメインセット、後ろの30分が部位ごとの補強運動とクールダウンのストレッチ、というのが主な流れです。

 女性の初心者には、4キロから6キロ前後のケトルベル。運動歴のある男性なら12キロから始めてもいいですが、ケトルベルは動作の姿勢が大切なので、無理して低回数より、高回数をこなせる重さで技術を磨いたほうが効果的です。

 私がメインで使っているのは、16キロ。10分間で振った回数は、160回が自己最高記録です。持ち替え1回 で、左手で70回。右手で90回やったんですけど、左手はもう40回ぐらいから、え、もうやばくない。もう置こうよ、持ち替えようよ、持ち替えようよってずっと頭の中で、自分と対話して。

 きつかったですねえ。もう、あ、なんか 突発的な事故起きないかなとか、ちょっと怪我したふりしようかなとか、ずっと頭の中で考えて、いや、ダメだ、あんなに練習したのに、ちょっとこの回数だと恥ずかしいから、まだ置けないからもうちょっと頑張ろうとか、ずっと自分を見つめ続けて、で、また持ち替えて会話し続ける。その一種の瞑想的な部分も面白いと思っています。

最初が肝心

 今でも、プロテインは飲みません。全身の筋肉の強度は人生で最高値ですが、やっぱり160センチ50キロのままです。

 朝食は、基本的に果物だけ。お昼は、喫茶店でサンドイッチとか、ごく一般的なランチです。夜は、和食が多いですね。パフォーマンス用に大きな筋肉が必要な人以外は、普通の食事で十分だと思います。栄養士の皆さんに聞いても、もう極端にタンパク質の摂取を勧める方はいないですね。むしろ、炭水化物をきっちり摂りましょうと。そうおっしゃる人のほうが多いです。

 ケトルベルのワークショップは、JBスポーツボクシングジムで毎週2回開催しています。水曜と土曜の午前中ですね。120分で2000円なので、興味のあるかたは是非いらして下さい。

 まったくの初心者でダイエット目的のかたから、日常的にジム通いをなさっているけれども「もっとお尻のラインをシャープに丸くしたい」とか、体重を増やさずにインナーマッスルだけを鍛えていきたいとか、どんな目的であっても、実現への最短距離を提案できるようにしています。身体的にはスパルタですが、心は穏やかに、優しく。自分で言うなよ、ですね。

 すでに長期にわたってケトルベルを振っていらっしゃり、トレーナーの道に関心のあるかたは、2カ月に1回のペースで開いている中級トレーナーのコースにきていただければ嬉しいです。生徒さんへの教え方だけでなく、ご自身の練習スタイルにも新たな刺激になると思います。

 それじゃあ、さようなら。

お嬢様学校のリアルギャルが辿り着いた腿肉 — いつだって163センチ50キロ、高橋里枝のハチャメチャ格闘技人生〔1/5〕

高橋里枝

1977年、愛媛県生まれ。駒澤大学在学中に全日本女子プロレスのオーディションに合格。大学卒業後に入寮するも、怪我のためプロデビュー前に引退。その後、KAIENTAI DOJOに入門し、スマックガールでプロデビューするも、ふたたび大怪我を負って退団。以降、フリーの格闘家として、スマックガールに覆面で参戦。10戦以上をおこない2006年に引退。ボクシングジム・JBスポーツでマネジャーを務めながら2012年にOKCのカリキュラムを修了。ケトルベルスポーツ普及のためNPO法人日本ケトルベル連盟を設立。