ポロ・ラルフローレン襲来

 1967年、ネクタイの製造からスタートしたポロ・ラルフローレンは、1972年にポロシャツを完成させて以来、ブランドの定番として多くの人に愛されている。この時点で、ポロシャツがスポーツではなく明確に〈ファッション〉としてリリースされているので、上述したラコステとフレッドペリーとは、明らかに出自が異なり、厳密にはスポーツのためのアイテムではないとも言える。

 ただ、一概に〈スポーツから生まれたのではないブランド〉とも言い切れないのが、ポロ・ラルフローレンの底知れぬ魅力だ。のちにオリンピックのアメリカユニフォームをデザインするなど、出発はスポーツブランドではないものの、積極的にスポーツとコミットしてきた経緯もある。

 ポロ・ラルフローレンのポロシャツが、日本で明確に定着したのは、やはり80年代だ。フレンチ・アイビーのすこし後、通称〈渋カジ〉と呼ばれるアメカジブームが決定打になった。中でも〈キレカジ〉と呼ばれたブレザー、ボタンダウンシャツ、チノパン、そしてポロシャツといったスタイルにおいて、ポロ・ラルフローレンは圧倒的な主役だった。いわゆる都会のお坊ちゃん的なスタイルの象徴(上流階級的な)として祭りあげられたのだ。

ビッグポロ

 そんな〈見られ方〉に反発するかのように、ストリートのキッズから愛されたポロシャツの象徴が〈ビッグポロ〉だ。ポロ・ラルフローレンのポロシャツではあるのだが、お上品なスタイルとは真逆の趣向の人々にぶっ刺さったシリーズである。

 90年代前半、ポロ・ラルフローレンが打ち出したこのシリーズは、スケーターをはじめとするストリート界隈のキッズがこぞって夢中になった。ビッグポロと聞いて、ポロの大きなロゴが胸の位置に付いたポロシャツと勘違いする人もいるかもしれないが、決してそれではない。

 ビッグとは、サイズ感、特に着丈が長く、いわゆるオーバーサイズで着ることを想定したシリーズである。このラインでは、ロゴは左胸には付かず、裾にあしらわれている。パンツにタックインするのではなく、タックアウトして着ることを想定して作られているのだ。

 このシリーズの象徴だったのがポロシャツで(他にもボタンダウンシャツなどもある)、スケーターやBボーイなどがビッグサイズを着こなすスタイルが、当時の日本のストリートスタイルの基盤になっていたこともあり、大変な人気を得た。

 ポロ・ラルフローレンのポロシャツは、ラコステ的な上品なスタイル、フレッドペリー的なユースカルチャーに根差したスタイルのどっちつかずではなく、意図的に二兎を追うことで、日本市場での存在を確立したのである。

ポロシャツの現在地

 ラコステは、袖のリブによるフォルムの美しさや、IZOD(アイゾット)と呼ばれるアメリカ製の裾(後ろ身頃が長い)など、その物の良さに心酔し、愛用する人が多い。そして現在では、〈フレラコ〉というフランス製のラコステに付加価値が見出されている。

 一方で、フレッドペリーは、モッズをはじめとするイギリスのユースカルチャーの匂い(付加価値)込みで愛されてきた。そしてラルフローレンは、戦後日本のファッションスタイルを形作ったアメカジのアップグレードされた象徴として、上質さとユースカルチャーの匂いを混在した特別なブランドとしての付加価値を内包し、定番となっている。

 大人と子供、80年代と90年代、物とカルチャー、これらが対義的に語られカテゴライズされてきたが、記号化されたファッションの時代は終焉を迎え、大きなトレンドとされる流れも少なく、より自由にポロシャツを選択することができる時代がやってきた。

 ただ、あまりにもニュートラルにポロシャツに手を出すと、痛い思いをすることにもなりかねない。ニュートラルとは、その服の〈威光〉を借りられず、自分自身がそのまま〈ファッション〉として捉えられてしまう事態を意味する。

着こなせ、という圧力

〈服を、自分自身に従属させよ〉とささやく時代は新鮮であり、正しいファッションの在り方なのだろうが、個人的にはあまり乗れない。自分はこれまで、何度も何度もポロシャツにチャレンジし続けてきたが、どうしても似合うと感じられたことがないのである。

 どちらかというとアメリカのユースカルチャーの洗礼を受けてきたことから、フレッドペリーを着こなせるとは思えず――そもそも、今の自分は中年太りよろしくと言わんばかりにお腹だって出ている――ラコステに関しては、ごく平均的な家庭で育ったものだから、恥ずかしくて上流階級ヅラなどできるわけもない。では「ポロ・ラルフローレンだ!」となりそうなものだが、ならない。ならない理由は分からない。

 唯一、似合っていたかもと思い込むようにしているのは、学生時代に勤しんでいたバドミントンのユニフォーム。ヨネックス(YONEX)やミズノ(MIZUNO)と言った国産のブランドのもので、ファッションではなく、あくまでスポーツのユニフォームとして着用したものだったような気もしている。というか、ポロシャツを着こなしている日本人など、モデルとアスリート以外にいるのだろうか……。

【スポーツとファッション】ポロシャツは“誰”のもの? VOL.1

VictorySportsNews編集部