しかしこの一戦は、「同国対決におけるコーチのあり方」と「メディカルタイムアウトの適正な運用」、「ケガをおして出場するリスク」という、大きな問題を浮き彫りに。この一件は、単なる一試合の勝敗を超え、スポーツにおける根源的な公平性の原則を揺るがすものであり、早急な対策が必要と思われる。

最終セットでの不可解な中断

 問題の場面は、最終セットの序盤に発生。スコアが4対2で張本選手がリードしている、試合の流れを決定づける重要な局面。この時、早田選手がタイムアウトを要求。卓球界の慣例として、同国対決では、公平性を保つために試合中にコーチはベンチに入らないのが他国のチームでも一般的であるが、早田選手がタイムアウトを要求したのと同時にベンチに現れたのは、早田選手のコーチであった。

 コーチは、タイムアウトの時間を利用して早田選手のテーピングをしていた部位にマッサージを施し始め、規定のタイムアウト時間が終わると「メディカルタイムアウト」を申請。WTTのメディカルスタッフが早田選手の状態を確認したが、早田選手側の希望により、再びコーチによるマッサージが再開された。この一連の処置は10分近くにも及び、その間、張本選手は一人、コート上のベンチでこの状況を見守るしかなかった。長い中断の後、試合は再開されたが、張本選手は試合の流れ完全に失い、最終的に逆転負けを喫した。

 ルール上はベンチにコーチが入ることは許可されており、またメディカルタイムアウトについても主審の判断で取得することができる。しかしこの一連の流れはスポーツマンシップと公平性の観点から看過できない複数の問題を含んでいる。

慣例を無視したコーチの介入と、メディカルタイムアウトの利用方法

 この一件には、二つの重大な問題点があると考えられる。

 一つ目は、コーチ登録者の不適切な介入と慣例の無視だ。まず、同国対決ではコーチはベンチに入らないという卓球界の暗黙の了解が破られた点だ。公平性を保つための重要な慣例を無視し、コーチとして登録されている人物がタイムアウト中にベンチに入り、マッサージを行う行為は、それ自体が問題である。マッサージが治療を目的としたものであれば、本来はWTT主催者側のメディカルチームが行うべきで、言葉の壁などの問題があったとすれば、最悪でも会場の関係者スペースで監督やコーチと一緒に試合を観ている日本代表のコンディショニングコーチやマッサーが担当すべきであろう。しかし、それがなされず、コーチが対応。これは、単なる身体的な処置を超え、心理的なサポートや、たとえ言葉がなくとも非言語的なコーチングが行われた可能性を否定できない。相手選手に心理的なプレッシャーを与え、試合の流れを断ち切る意図があったと解釈されても仕方がない。

 もう一つは、メディカルタイムアウトの規定に反する可能性がある申請だ。今回の試合の主催者であるWTTのルールは国際卓球連盟のルールに準拠している。また日本卓球協会のルールについても国際卓球連盟のルールに準拠している。日本卓球連盟のルールでは、メディカルタイムアウトは、出血を伴うような急性で重篤な怪我や、試合続行が困難な事態が発生した場合に認められるべき措置である。今回のメディカルタイムアウトは急性で重篤であったかには疑問が残る。通常急性の怪我はマッサージで改善することはほぼない。しかも日本代表のコーチ陣や選手はこのルールを知っている。

 もし今回のケースが容認されるのであれば、今後、最終セットや試合終盤に疲労がピークに達した選手が、試合を意図的に中断させ、マッサージを受けることが可能になる。これは、スポーツの本質である「フェアプレー」の精神に反し、卓球というスポーツの信頼性を著しく損なう行為でもある。

張本智和選手の発言と卓球協会の姿勢

 翌日、兄である張本智和選手が試合後のインタビューで、妹の張本美和選手の試合について、「妹に言いたいことは1つだけ。己を強くするしかない。ルールは守ってくれない」そして、「理不尽だろうが理不尽じゃなかろうが、乗り越えてこそ真のチャンピオン。今回は安い授業料だと思う。これが世界卓球、五輪じゃなくてよかった。今回で学べるならプラスになる」。と発言をしたことは、この問題の深刻さを物語っている。

 身内として、また卓球選手として、妹が受けた不公平な状況に対する懸念が、彼の言葉にはにじみ出ていた。張本智和選手のこの発言は、多くの卓球ファンや関係者の共感を呼び、この問題が単なる感情論ではなく、卓球界全体が真剣に向き合うべき問題かつ卓球というスポーツ全体の信頼性に関わる問題であることを示した。

 この事態を放置することは、日本の卓球界が築き上げてきた公正な競争環境と、選手間の信頼関係が揺らぐ原因にもなる。

 今回の事象の整理と事実関係を明らかにし、同国対決におけるコーチのあり方や、メディカルタイムアウトの適正な利用基準について、選手、コーチ、そして関係者全員にルールの再確認と周知徹底する必要がある。そして、慣例と公平性の原則に反する行為であったと判断される場合、何らかの行動を日本卓球協会として行うべきだ。これは、今後の同様の事態を防止するための重要な措置であり、卓球界の公正さを保つための強い意志を示すことになる。

 日本卓球協会として明確な姿勢を示すことで、日本卓球界が未来の世代に何を残すかという、重要な問いに対する答えとなり、日本卓球協会が公正さを守るという強い姿勢を示すことが、選手たち、そしてファンに安心感を与え、卓球界全体の発展へと繋がる。


VictorySportsNews編集部