2025年8月9日、卓球の国際大会「WTTチャンピオンズ横浜」の女子シングルス2回戦で、張本美和選手と早田ひな選手という日本代表のトップ選手同士による激しい戦いが繰り広げられた。両選手は一歩も譲らず、試合は最終ゲームまでもつれ込む大接戦となった。会場を埋め尽くしたファンは固唾を飲んでその行方を見守り、最終セットで4対2と張本選手がリードした時に起きた、卓球界の慣例と公平性を揺るがしかねない一連の出来事は、この素晴らしい試合に影を落とし、大きな議論を呼ぶことになった。この一件は、単なる試合の勝敗を超え、スポーツにおける根源的なフェアプレーの原則、そしてそれを伝えるメディアのあり方という、二つの深刻な問題を浮き彫りにした。
メディア報道も落ち着き卓球協会からなんらかの発表を待っていたタイミングの8月29日に早田ひな選手が自身のSNSを通じてこの件に関し説明をしたため、それを受けて再度メディア各社が報道したが、多くは本当の問題点に触れることはなかった。
最終セットに起きた不可解な中断:慣例破りのコーチの介入
問題の場面は、最終ゲームの序盤に起きた。試合の流れを決定づける重要な局面で、4対2と張本選手がリードした時に早田選手がタイムアウトを要求。卓球界では、同国選手同士の対決において、外部からの介入をなくし公平性を保つため、コーチはベンチに入らないのが一般的とされる「慣例」が日本だけではなく、中国、韓国、ドイツなどほぼ全ての国に共通して存在する。しかし、この時、早田選手のコーチがベンチに現れた。ここではトレーナーでもあるが試合の登録上コーチであるのであえてコーチと記載する。
コーチは、タイムアウトの時間を利用して早田選手のマッサージを開始した。規定のタイムアウト時間が終わると、今度は「メディカルタイムアウト」を申請。WTTのメディカルチームが早田選手の状態を確認したが、その後すぐに早田選手のコーチが再び呼ばれ、マッサージを再開した。その間、早田選手とコーチは約10分間にわたり、会話をしながら一連の処置を続けていた。コート上では、張本選手が一人、自身のベンチでこの状況を見守るしかなかった。
長い中断の後、試合は再開されたが、張本選手は完全に試合の流れを失った。再開後のポイントは早田選手が連取し、最終的に逆転勝利を収めた。
試合における二つの問題点:ルールの解釈とフェアプレーの精神
この一連の流れには、試合における二つの大きな問題点が潜んでいる。
一つ目は、「慣習破りのコーチの介入」だ。ルール上はコーチがベンチに入ることは許可されている。しかし、同国対決という特別な状況下で、両選手のコーチがベンチに入っていない中で、選手が劣勢に立たされた疲労がピークに達したタイミングでコーチがベンチに現れ、マッサージを続けたことは、多くの疑念を呼んだ。この介入が、心理的なサポートやコーチングと見なされる可能性は否定できない。結果的に、相手選手に心理的プレッシャーを与え、試合の流れを断ち切る効果をもたらした。
二つ目は、「タイムアウトとメディカルタイムアウトの利用タイミング」だ。早田選手は、劣勢に立たされたまさにその時に、タイムアウトを取得し、その流れでメディカルタイムアウトを取得した。早田選手本人のコメントにもあるように、古傷が痛んだことが理由ではあるが、もし、プレー続行が困難なほどの痛みであれば、棄権を促すべきではないのか。メディカルタイムアウトは、本来、選手生命を脅かすような重篤な事態に備えた最終的な手段であるべきだ。これが、試合の流れを変えるための「戦術」として安易に利用される前例を作ってしまったのであれば、卓球というスポーツの信頼性は著しく損なわれる。
メディア報道の問題点:不都合な真実は報じられないのか
この一件は、多くのメディアで報じられたが、その内容には明らかな偏りが見られた。多くの記事が、メディカルタイムアウトに関する報道に偏り、その前のタイムアウトでコーチによるマッサージが行われていた事実が十分に報じられなかった。現に張本選手は試合後の会見でメディカルタイムアウトをとることに対しては選手の権利なのでまったく問題ないと話している。
問題の本質は、通常のタイムアウトで慣例を破り、オフィシャルなメディカルチェックが行われる前に、コーチが当たり前のようにベンチに入ってマッサージを始めた点にある。これについては早田選手がのちに出した声明で代表監督に伝えていたと話していたが、張本選手サイドは聞いていない。
また、試合後の早田選手の状態についても、この激戦の後2時間以上にも及ぶ居残り練習を行い、さらに翌日の試合前にも数時間練習をし試合に臨んでいた。メディアの報道がなぜこれらの点を報じなかったのか、という疑問がある。
卓球協会に求められる、明確な幕引き
今回の問題は、早田選手が2025年8月29日にSNSでこの件について発表したことで再び蒸し返された。個人の意見表明は尊重されるべきだが、この事態がいつまでも収束しないのは、問題の核心が正しく伝わらず、憶測と今後の対応がはっきりと定まらないに他ならない。
このままでは、日本の卓球界が築き上げてきた公正な競争環境と、選手間の信頼関係が揺らぐ原因になりかねない。早田選手が日本の宝であって傷つかないようにするのはもちろん、張本選手ももちろん日本の宝であり、精神的に落ち着ける状況を作るべきだ。協会は、今回の事象の整理と事実関係を客観的に明らかにし、同国対決におけるコーチのあり方や、メディカルタイムアウトの適正な利用基準について、選手、コーチ、そして関係者全員にルールの再確認と周知徹底を行う必要がある。そして、慣例と公平性の原則に反する行為であったと判断される場合、何らかの行動を日本卓球協会として行うべきだ。
これは、今後同様の事態を防止するための重要な措置であり、卓球界の公正さを保つための強い意志を示すことになる。日本卓球協会が明確な姿勢を示すことが、未来の世代に何を残すかという重要な問いに対する答えであり、選手たち、そしてファンに安心感を与え、卓球界全体の健全な発展へと繋がるのだ。
これからも共に日の丸を背負い戦っていく選手同士がわだかまりなく団体戦などで協力しあい勝利を掴むために必ず必要だ。