
Fanatics Japanとは
主にスポーツのアパレル商品を取り扱うEC(ネット通販)事業を中心に、トレーディングカード(COLLECTIBLES)やスポーツベッティング(BETTING & GAMING)なども手掛け、急成長を遂げてきたFanatics Inc. その日本法人であるFanatics Japanが最前線基地として麻布台ヒルズ森JPタワーに新たな居を構え、更なるビジネスの拡大を目指す。スポーツファンの夢を体現させる商品の数々を生み出す拠点が公開されオフィスの見学ツアーが実施された。
Fanatics Japanについては既にいろいろな媒体で報道、紹介されているのだが、MLBのTokyo Series 2025において様々な記念グッズの企画・販売、各種イベントを企画・運営し大成功を収めた事は記憶に新しい。3月15、16、18、19日に東京ドームで開催された「MLB Tokyo Series presented by Guggenheim」の記念グッズの売り上げは同一イベントに於ける同社グループ史上最高額の4000万ドル(約60億円)を計上した。日本を代表する現代アーティスト:村上隆さんとコラボした限定コレクション「Takashi Murakami + MLB Presented by Fanatics + Complex」で誕生した、桜の花びらがデザインされたユニフォームは多くのファンの関心を集めた。また、渋谷のスクランブル交差点でユニフォームを着たダンサーがゲリラ的に踊り出すフラッシュモブでPRを仕掛けた事でも話題となった。この企画はFanatics Japanの認知度をアップさせることを狙ったものだが、同時にスポーツライセンスグッズを着ることがカッコいいと思ってもらえるような文化を作りたいという想いも込められていた。

オフィスの見学ツアーに先立って、マネジング・ディレクターでFanatics Japanの代表を務める川名正憲氏より、会社の概要、これまでの実績、見据える未来についてのプレゼンテーションが行われた。
「Fanatics Japanはファンの為の会社」 開口一番、こう述べられた川名氏。現在は日本と韓国、東南アジアでも代表を務められている。慶應義塾大学を卒業後、三菱商事に入社。その後ノースウエスタン大学への留学を経てマッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィス勤務。グローバルなフィールドで活躍されていたが、大学では野球部のマネージャーだった事もあり、裏方として選手を支えてきた。その経験から、スポーツのエンターテインメントのビジネスで選手を支え、ファンのニーズに応えたいという想いを抱き続けていた。そんな折、Fanatics Inc.のファウンダー:マイケル・ルービン氏から日本での立ち上げに関して声をかけられ、2017年に創業メンバーとして参加、現在に至っている。
Fanatics JapanはFanatics.incの日本法人である。創設者兼CEOのマイケル・ルービン氏は1998年にEC事業をワールドワイドに展開するGSI Commerceを設立。Football Fanaticsとして創業したFanatics社(1995年創業)を 2011年2月に買収。一度GSIをeBayに売却し、その後6月にスポーツ用品事業に関する権利を買い戻してFanaticsを再操業、現在に至る。
一方で2011年にフィラデルフィア76ers(バスケット)、2013年にはニュージャージー・デビルズ(アイスホッケー)のパートナーとしてプロスポーツクラブの経営にも携わり手腕を発揮した。Fanaticsには語源である“Fanatic=熱狂的な” というところから、「ファン体験を向上させ、世界中のスポーツファンを熱狂させる」という意味を込めている。
ファンの為の会社とは?ファンの満足度を上げるための企業努力を惜しまない会社、と言い換える事が出来る。例えば。記録達成記念Tシャツや記念グッズなどはスポーツ好き垂涎の品なのだが、機を逃してしまうと盛り上がった興奮の熱量は一気に落ちてしまう。タイムリーな商品化が求められるのだが、そのためには製造権や販売権を取得する必要があり、スポーツコンテンツホルダー(リーグやチーム)と包括的な契約を交わし、速やかに事業展開に移れるよう取り計らねばならない。包括契約とは、複数の案件を一括してまとめる形態のもの。スピード感をもってファンのニーズに応えるために交わしたパートナーシップは現在900を越える。そんな企業努力の一端を示すエビデンスは数字にも表れている。
「ファンを第一に」という原点の元、社員全員が共通で大切にする4つの指針「Bold」がある。
① Builds Championship Teams :チャンピオンチームを作る
② Obsessed with Fans :すべてはファンのために
③ Limitless Entrepreneurial Spirit :果てしないチャレンジ精神
④ Determined and Relentless Mindset :不屈の精神で挑み続ける
この価値観を日常の意思決定や働き方に落とし込み、オフィスと言う「場」からFandom「スポーツの熱心なファンによる世界」を社会へ拡張していく。
ビジネスモデルとしてはV-commerceを標榜している。そもそもV-commerceとはVertical commerceの略で “仮想空間やデジタル環境内で商品やサービスの売買を行う商業活動”のこと。EC事業で実績を積み上げてきたFanatics Japanがこの強みを生かし、“川下から川上までを一気通貫でやる”がコンセプト。企画・開発・製造・販売を自社で完結する。そのためにファンの声(川下)を吸い上げて必要なものをすぐに企画して商品化し販売する(川上)。ファンの為に何が出来るのか?を常に追求する企業理念がここに集約されている。
顧客満足度を最大限に引き上げてきたFanatics Inc.その業績は2025年の連結期売上で90億ドル(約1.3兆円)に上る。上場企業と比較してみても遜色なく、正にグローバル企業へと上り詰めた。
2017年に立ち上げられたFanatics Japanが2018年、最初に包括的な契約を結んだのが福岡ソフトバンクホークス。その後、2025年までの7年間で10のクラブと包括的な契約を交わしている(Jリーグ6チーム:清水、C大阪、V長崎、広島、鹿島、湘南/NPB:3チーム:福岡ソフトバンク、北海道日本ハム、読売ジャイアンツ/Bリーグ1チーム:V長崎)他、NPBの東京ヤクルト、埼玉西武、Bリーグの富山、早稲田大学ともホールセールスパートナーシップを締結。マーチャンダイズビジネスの足場を固めつつ企業理念である“ファンの為の会社”を目指す。しかし、NPBの場合を例にとると、ユニフォームのサプライヤーが一つに纏まっておらず、そのため個別に話を進めていく必要があり、手間と時間がかかってしまう。その点、グローバルパートナーシップを結んでいるMLBはNIKEに統一されているので、包括的な枠組みの中でスムーズに事が運び問題なく商品化への道筋がつけられる。この部分の障壁が取り除かれ、風通しの良い環境をいかに整えるかが、これからの課題となる。
ファン体験を徹底的に高める
「Fanatics Japanはアメリカスポーツのアパレルを売っているだけの会社ではありません。様々な企画を通して“買う”から“体験する”にシフトする環境の構築を目指す」 実際、Fanatics Japanがエスコンフィールド北海道で立ち上げた企画が「HAPPY MOCO MOCO FACTORY」。これは、クマのぬいぐるみに綿を詰めて“ただ買う”から“作る”を体験してもらうというもの。出来上がったものにFightersのユニフォームや他の衣装を着せて完成させたオリジナルの一体が来場の記念となる。このように、ファン体験をどのような形で提供するのか?といった課題への取り組みに力を注いでいる。試合を観に行くというのは非日常を体験することだが、記念グッズやアパレルなどを手にしたファンがそれを実生活でも使用、着用すれば、非日常が日常になる。アメリカでは推しのユニフォームやキャップを普段使いしている光景を目にする。日本でもこうした文化が根付くように、ファン体験を徹底的に高められるような企画を用意していかないといけない、と川名氏はその重要性を説く。

毎年が勝負の年!
ワールドワイドにビジネスを展開するFanatics Japan。今年のMLB Tokyo Series 2025は大盛況のうちに幕を閉じたが、来年以降もビッグイベントが目白押し。3月のミラノ・コルティナ冬季オリンピック、WBC2026、6月のFIFAワールドカップ。更に2028年のロサンゼルスオリンピックへと続く国際大会に向けてファンのニーズ応えるための体制を整えていく。NPB、Jリーグに加えてMLB、NBA、ヨーロッパサッカーのチェルシーやユベントスとのグローバルパートナーシップを保有し既にビジネスを展開中。またIOCやLA28(LOC)とも強固な関係を築き、スピーディーかつタイムリーな商品提供を目指している。川名氏は「毎年ある国際的なスポーツイベントに向けた取り組み一つ一つが重要であり、そういう意味で一年一年が勝負になる」と言葉に力を込めた。
ミッション「We Amplify Fandom-ファンを熱狂させる」を体現する新オフィスのお披露目。この空間で生み出される非日常を彩る企画や商品の数々は、やがてそれが当たり前の日常へと変化していくためのアイテムとなってスポーツファンの人生そのものに色鮮やかで豊かな体験をもたらす。 “世界のスポーツデジタルプラットフォームのNo.1になる!” 川名正憲代表の言葉が現実になった時、日本のスポーツ文化に新たな風が吹き、今までに感じたことのない高揚感と満足感が日常の至るところに垣間見える風土が形を成していくのかもしれない。



最後に。MLBファンである筆者はユニフォームなどのアパレルにも傾倒し早20数年が過ぎた。2000年代。ユニフォームを購入したくとも街にショップはなく、EC(ネット通販)もほぼ皆無に等しい“冬の時代”だった。それでも何とか輸入代行業者を見つけて注文に漕ぎ着ける、あるいは現地調達を目指して渡米するなど苦難の時を耐え忍んできた。今、このようにネットで現地のアパレルや記念グッズが手軽に購入できる世の中を作って頂けた事に胸熱を覚え、感涙に袖を濡らしたことを付け加えさせて頂きたい。