【投手篇】ドラフト戦線に生き残りを懸けて “大人の甲子園” 第96回都市対抗野球大会の戦い

 まずこの大会で天賦の才を発揮している山田陸人選手(ENEOS)。3番に座り打率.700越えでチームを牽引。残念ながら2回戦敗退となったが、その打棒は強烈なインパクトを残した。2000年6月18日生まれ25歳。神奈川県出身。176cm、85kg 右投げ右打ち。桐光学園から明治大学を経て2023年入社。甲子園出場なし。高校3年夏は神奈川県大会で慶應に7-5と敗れ準優勝。大学では現中日の村松開人選手と同期。レギュラーとなった3年春に打率.500で見事、首位打者を獲得。4年春には本塁打1、三塁打2、二塁打1と長打力を発揮。3年春、4年春にはベスト9にも選出。しかし4年秋に20打数6安打 打率.200とスランプに陥り、プロ志望届を出さずENEOSに入社。右打者として範にするのはシカゴ・カブスの鈴木誠也選手。動画や練習メニューを参考にしている。広角に長打を放つ。かつて三冠王3度獲得した落合博満さんのような所謂“神主打法”。ゆったりとタイミングを取りインパクトの瞬間に全てのパワーを開放する。コンタクト能力に優れ三振は少ない。課題の守備をどこまで克服できるかも指名獲得のポイントとなりうそうだ。

●山田陸人選手 第96回都市対抗野球
2試合(3番DH):9打数7安打 二塁打3 打点2 三振0 四球0 打率.778
出塁率.700 長打率.1.111 OPS:1.811

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
10試合:34打数19安打(二塁打7)打点10 三振1 四球8 打率.559
出塁率.628 長打率.794 OPS:1.422

 同じ右打ちの内野手として高橋隆慶選手(JR東日本)もドラフトの有力な候補。2001年12月21日生まれ、23歳。茨城県出身。186cm、92kg、右投げ右打ち。明秀日立高校から中央大学を経て昨年入社。増田陸選手(現巨人)は高校時代、1学年上の先輩。甲子園出場経験はない。高校時代は捕手。大学進学後にDH兼ライト。JR東日本では1年目からファースト、サード兼DHで4番に座る。U-23W杯出場、アジアウインターリーグにJABA選抜として出場。恵まれた体格を活かしたパワフルなバッティング。スイングスピードが速くバットに乗せて運ぶ長距離砲タイプ。三塁の守備ではハンドリングが柔らかく、動きも俊敏。遠投100mと強肩。50mを6秒6で疾走する。趣味・特技は洗濯機の分解・掃除というインドアな?一面も持つ。

●高橋隆慶選手 第96回都市対抗野球
2試合(4番3B):10打数5安打 二塁打1 打点1 三振3 四球0 打率.500
出塁率.500 長打率.600 OPS:1.100

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
24試合:90打数34安打(二塁打9 三塁打1 本塁打5)打点21 三振18 四球15
打率.378 出塁率.477 長打率.667 OPS:1.143

 遊撃手として評価の高い松浦佑星選手(ENEOS)。2001年10月6日生まれ、23歳。宮崎県出身。175cm、75kg、右投げ左打ち。宮崎県立富島高校から日本体育大学を経て昨年入社。高校2年春、3年夏と甲子園に出場。大学では1年秋からショートのレギュラーに定着。そのシーズン打率.316でベスト9に選出。3年夏、冬に大学日本代表候補に入る。ENEOSでは1年目からセカンド兼ショートでレギュラー獲得。1年目の都市対抗は2試合で打率.571(7打数4安打)打点1と活躍。内側からバットが出てコンパクトに振り切る。センター中心に打ち返す基本に忠実なバッティング。選球眼が良く粘り強い。隙を突くセーフティーバントを仕掛け相手を揺さぶる。50m5秒9の俊足。スタート勘に優れ走塁技術は高い。守備はフットワーク良く俊敏な動きでセカンド、ショートとも守備範囲は広い。遠投110mの強肩。

●松浦佑星選手 第96回都市対抗野球
2試合:10打数3安打(長打はなし) 打点0 三振3 四球0 打率.300 出塁率.300
長打率.300 OPS:0.600 盗塁1

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
18試合:71打数21安打(二塁打1/三塁打1)打点4 三振13四球2 打率.296
出塁率.3351 長打率.338 OPS:.689 盗塁5

 もう一人遊撃手から相羽寛太選手(ヤマハ)を紹介したい。2002年9月21日生まれ、22歳。静岡県出身。178cm、76kg 右投げ右打ち。静岡県立静岡高校からヤマハに入社し今季で5年目。高校2年夏に甲子園出場。ヤマハでは1年目から公式戦に出場。秋以降、ショートのレギュラーに定着。22年、24年のU-23W杯、23年冬のBFAアジア選手権で代表に選出。若干左足を引いたオープンな構えで手元までしっかりボールを呼び込みセンターから右方向を意識したバッティングに徹する。一方で8月10日のJABA北海道大会vs TDK戦でセンターへ、同じく8月11日のvs明治安田生命戦でレフトへ一発を放つなど長打力を秘める。守りはフットワーク良くレンジが広い。ハンドリングが柔らかくどんな打球にもアジャストできる。強肩で送球は正確。2023年には数球団から調査所が届くなど、その守備力は高く評価されている。

●相羽寛太選手 第96回都市対抗野球
4試合(6番SS)15打数7安打 三塁打1 打点1 三振0 四球0 打率.467
出塁率.500 長打率.600 OPS:1.100

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
14試合:46打数18安打(二塁打4 三塁打1 本塁打2)打点7 三振5 四球0
打率.391 出塁率.404 長打率.652 OPS:1.056

 熊田任洋選手(トヨタ自動車)もショートの注目株。2001年4月15日生まれ 24歳。岐阜県出身。174cm、82kg、右投げ左打ち。愛知東邦高校から早稲田大学を経て昨年入社。高校2年春、3年春に甲子園出場。3年春のセンバツでは打率.421、3盗塁をマークして同校30年ぶりとなる優勝に貢献。現中日の石川昂弥選手は高校の同期。大学進学を機にサードからショートに転向。大学4年時に日米大学野球選手権のメンバーに選出。ミートに優れ広角に打ち分けるバットコントロールがある。選球眼に優れる。守りは、フットワーク良く守備範囲は広い。強肩で遠投は110m。

●熊田任洋選手 第96回都市対抗野球
1試合(1番3B)3打数0安打(長打なし)打点0 三振0 四球2 打率.000
出塁率.400 長打率.000 OPS:.400  

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
23試合:88打数29安打(二塁打8 三塁打1 本塁打1)打点20 三振9 四球24
打率.330 出塁率.466 長打率.477 OPS:.943

 成瀬脩人選手(NTT西日本)。2001年5月23日生まれ、24歳。愛知県出身。176cm、76kg、右投げ右打ち。東海大菅生高校から東海大学を経て昨年入社。中学3年時、U-15日本代表に選出され全米選手権でMVP獲得。甲子園出場経験なし。ややオープン気味に構え、始動とともに踏み込んでアプローチする。コースに逆らわない柔らかいバッティングで広角に打ち分ける。選球眼が良く打席では粘り強い。セカンドの守備はフットワーク良く俊敏に動きレンジは広い。ハンドリングが柔らかくどの打球にも対応できる。遠投110mの強肩。

●成瀬脩人選手 第96回都市対抗野球
3試合(2番SS)12打数3安打(長打なし) 打点0 三振5 四球0 盗塁0
打率.250 出塁率.250 長打率.250 OPS:.500

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
26試合:90打数24安打(二塁打5)打点16 三振12 四球13 打率.267
出塁率.356 長打率.322 OPS:.678

 村上裕一郎選手(ENEOS)。2001年6月14日生まれ、24歳。愛媛県出身。185cm、95kg、右投げ右打ち。宇和島東高校から九州共立大学を経て昨年入社。高校3年夏に甲子園出場。2024年のU-23W杯に出場、主に3番ライトで日本の連覇に貢献。阪神の吉野誠スカウトは、「逆方向に一発が打てる。肩も強い」と高評価。すり足で上下動が少なくコースに逆らわない柔らかいバッティング。逆方向でもスタンドに放り込む生粋のパワーヒッター。

●村上裕一郎選手 第96回都市対抗野球
2試合(7番RF)8打数1安打 二塁打1 打点2 三振2 四球1 打率.125
出塁率.222 長打率.250 OPS:.472

●2025年公式戦(都市対抗含む:9月8日現在)
18試合:68打数19安打(二塁打5 三塁打1 本塁打2)打点11 三振13 四球4
打率.279 出塁率.372 長打率.471 OPS:.842

終幕、そして運命のドラフトへ…

 決勝は史上初の愛知勢同士のマッチアップ。3年連続20回目出場の王子(春日井市)が三菱自動車岡崎(岡崎市)を2-1で破り、21年ぶり2度目の優勝で大会は幕を閉じた。打ち合いでも投手戦でもビハインドであっても、慌てず騒がず落ち着いて自分たちの野球が出来る胆力が引き寄せた勝利であったように思う。苦しい状況を一旦リセットしリズムを作り直す。橋戸賞獲得の九谷瑠投手の力投は、こんなスパイスをチームに効かせていたのかもしれない。

 ドラフト戦線に生き残りを懸けた戦いで満足を得られた者、そうでなかった者。悲喜こもごもが入り混じる運命の日、2025年10月23日は否応なく迫ってくる。都市対抗野球の結果は大きな判断材料となるだろうが、1年をトータルした評価が下されるのがドラフト会議。プロ志望届を出した全てのプレイヤーに幸あれと祈らずにはいられない。願わくは、自身の下した決断に1mmの後悔も残らないような、全力を出し尽くしやり切ったという想いを胸にこの日を迎えて欲しいと願う。球界の未来を背負って立つ若武者誕生の日まで、あと45日…。

(尚、紹介の数字は毎日新聞の特集サイト他のスタッツを元に筆者が算出。また基本的に第96回都市対抗野球でプレイタイムのあった選手を取り上げています)

※年齢は2025年9月8日現在

【投手篇】ドラフト戦線に生き残りを懸けて “大人の甲子園” 第96回都市対抗野球大会の戦い

 東京ドームにこだまする乾いた打球音、勇壮に、華やかに繰り広げられる応援合戦、自らの未来を懸けた全力プレー。社会人野球の三大大会にしてプロ野球新人選択会議(通称ドラフト会議)へ最大のアピールにつながる都市対抗野球大会が8月28日に開幕。前回優勝の三菱重工Eastと全国の予選を勝ち抜いた31チームが東京ドームを舞台に12日間の熱戦を繰り広げた。

Victorysportsnews

渡邉直樹

著者プロフィール 渡邉直樹

1967年4月8日生まれ 東京都出身  1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV) /1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当 /琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中 /スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA) /他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり /MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)