高校日本代表の指揮を取るのは小倉全由監督(前日大三高監督)。甲子園通算37勝、全国制覇2度(2001年夏、2011年夏)の名将が熟慮の末に選抜した若き侍ジャパン。選考理由を「走攻守バランスの取れた選手を選びました。春のセンバツ、夏の大会、更に各都道府県大会のパフォーマンスを参考にしました」と話す。選ばれし20名の精鋭。名伯楽の想いに応えて余りある最高のパフォーマンスを発揮して、開幕から無傷の8連勝!2大会連続の決勝進出。ファイナルでは宿敵・アメリカに0-2で惜敗。連覇の偉業は阻まれた。しかし今大会で見せた破竹の快進撃。それを支えたのはSR(スーパーラウンド)までの8試合でチーム防御率0.89(7回制で計算)の強力投手陣の奮闘だった。

 高いレベルで世界と渡り合い野球ファンの期待に応えたメンバーたち。その次なるステージは、プロか?進学か?社会人か?因みに前回大会では、前田悠伍投手(大阪桐蔭―福岡ソフトバンク)、武田陸玖投手(山形中央―横浜DeNA)、木村優人投手(霞ヶ浦高―千葉ロッテ)、そして寺地隆成捕手(明徳義塾―千葉ロッテ)が活躍、プロの世界へと羽ばたいた。一方で大会MVPにして首位打者を獲得した緒方蓮選手(横浜)は國學院大學に進学。2年生となった今春のリーグ戦では東都大学野球リーグのベスト9に選ばれるなど2027年のドラフト指名獲得に向けて日々、研鑽を積んでいる。

プロか?進学か?社会人か?

 今大会で注目の投手には石垣元気投手(健大高崎)、早瀬朔投手(神村学園)、奥村頼人投手(横浜)、森下翔太投手(創成館)、西村一毅投手(京都国際)、そして中野大虎投手(大阪桐蔭)の名前が挙げられる。いずれもプロのスカウトがそのポテンシャルを高く評価している世代を代表するピッチャーである。果たして、彼らの選択は?

投手篇

 ドラフト上位指名の呼び声高い石垣元気投手。180cm、78kg。右投げ両打ち。北海道。長身から角度のあるMAX156km/hのストレートが最大の魅力。スライダー、カーブ、チェンジアップ、フォーク、カットボールと球種も豊富。ピッチトンネルが非常に狭く球種の見極めが難しい。今春のセンバツでは大会史上最速となる155km/hをマーク。春の関東大会で自己最速の156km/hを記録。昨年のセンバツ制覇に大きく貢献した快速球右腕。今夏は2回戦で救援登板もチームは京都国際に3-6で敗戦。試合後、「プロ一本でいこうと思います」と明言。U-18ワールドカップでも韓国戦、アメリカ戦で救援登板。3回2/3を投げ被安打1失点0自責0奪三振5与四球1と完璧に抑え込んだ。決勝のアメリカ戦は末吉良丞投手(沖縄尚学)の後を受けて2番手で登板。無安打、自己最速タイの156km/hをマークするなど気迫のこもったピッチングで相手打線に立ち向かう。しかし4四死球と本来の制球が戻らず犠飛で1点を献上。高校最後のマウンドはほろ苦さの中で終わりを告げた。NPBのみならずMLBのスカウトも熱視線を送る超高校級投手。

●第107回 全国高等学校野球選手権
1試合(救援):0勝0敗0S 2回 28球 被安打2(被本塁打)失点0 自責0 
防御率:0.00 奪三振2(奪三振率9.00)与四球0(与四球率0.00) WHIP:1.00

●U-18野球ワールドカップ
3試合(救援3):0勝0敗 7回1/3 136球 被安打1(被本塁打0)失点1 自責1
防御率:1.23 奪三振7(奪三振率8.6)与四球4(与四球率4.91)WHIP:0.68 K/BB:1.75

 投打二刀流で横浜高校をベスト8に導いた奥村頼人投手。178cm、84kg。左投げ左打ち。滋賀県。MAX148km/hのストレートにスライダー、チェンジアップ、カーブを駆使し三振も取れる本格派。神奈川大会で本塁打3とパワーヒッターとしても名を馳せる。打席では、ややオープンに構えてゆったりタイミングをとる。しっかり踏み込んで強烈な打球を放つ。膝の動きが柔らかく低めに落とされても巧く対応して長打に出来る。埼玉西武の前田俊郎アマチュア担当チーフは「球質が重くて強い球。それに打球の飛距離が魅力」と投打両面をベタ褒め。横浜DeNAの池永恭男スカウトも「野球センスがいい。長打もしっかりと打てることが分かった。楽しみな選手」と地元のスター候補を絶賛。今大会では9月9日のプエルトリコ戦で“リアル二刀流”を披露(DH制採用の為投手は基本打席に立たない)。投げては先発して3回51球、2安打、無失点。無四球、5奪三振の好投。打つ方は3打数0安打で1三振という結果だった。今夏の甲子園は準々決勝で県立岐阜商業に延長11回、7-8で敗れ春夏連覇にあと一歩届かず。試合後、プロ志望も名言。「今永昇太投手(シカゴカブス)、早川隆久投手(東北楽天)のような選手に近づきたい」と同じ左腕の先輩投手を目標に掲げた。

●第107回 全国高等学校野球選手権
投手:2試合(救2):0勝1敗 6回2/3 82球 被安打7(被本塁打0)失点4 自責1
防御率:1.35 奪三振6(率8.10)与四球0(率0.00) WHIP:1.05 
打者:4試合:14打数4安打(長打なし)打点2 打率:.286 三振0 四球2 死球1 
犠飛1 出塁率:.389 長打率:.286 OPS:.675

●U-18野球ワールドカップ
投手:3試合(先1)0勝0敗 3回1/3 69球 被安打3(被本塁打0)失点2 自責2
防御率:4.20 奪三振6(率16.20)与四球2(率5.40)WHIP:1.50 K/BB:3.0
打者:3試合:6打数0安打(長打なし)打点1 打率:.000 三振2 四球1 死球0
犠飛0 出塁率.143 長打率.000 OPS.143

 西村一毅投手(177cm、70kg 左投げ左打ち 滋賀県)を擁した京都国際高校は夏連覇に挑むも、準々決勝で山梨学院大附属に4-11で敗れた。エースは全3試合に登板し先発、救援と大車輪の活躍でベスト8進出に貢献。MAX146km/hのストレート、決め球のチェンジアップ、スライダー、カーブを駆使し打たせて取るを旨とする。敗戦後のインタビューで「大学で自分に足りないものを埋めて点を取られない投手になってプロを目指したい」と進学を表明した。横浜DeNAの河原隆一スカウトは「打者を見て投げられる(駆け引きが出来る)。投手としての能力は抜群」とその素質に惚れ込む。大学でどんな投手へと成長を遂げるのだろうか?

●第107回 全国高等学校野球選手権
3試合(先2/救1):2勝1敗 19回 359球 被安打16(被本塁打0)失点12自責8
防御率:3.79 奪三振17(率8.05)与四球10(率4.74)WHIP:1.37 K/BB:1.7

●U-18野球ワールドカップ
3試合(救援3):1勝0敗1S 6回1/3 110球 被安打2(被本塁打0)失点1 自責0
防御率:0.00 奪三振9(率9.95)与四球5(率5.53)WHIP:1.11 K/BB:1.8

 左足を高々と上げ、テイクバックを大きくとって投げ下ろす。ロサンゼルス・ドジャースの佐々木朗希投手を彷彿とさせるフォームが特徴の早瀬朔投手。185cm、78kg。右投げ左打ち。兵庫県。MAX151km/hのストレートで押すパワーピッチャー。スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップを駆使しフライでアウトを稼ぐ。イニングとほぼ同数の三振を奪う。U-18W杯では開幕戦の対イタリアで森下翔太投手の後を受けて2番手で登板。1死一、二塁のピンチで3番のM・ルッジェリをこの日最速145km/hの直球で見逃し三振。続くP・シルバを128k/hのスライダーでサードゴロに仕留めピンチ脱出。流れを断ち切り日本の勝利を引き寄せた。今夏の甲子園では初戦で同じ九州勢の創成館と対戦。先発し7回120球の熱投も自身のワイルドピッチで決勝点を献上し0-1で敗戦。試合後にはプロ志望届を提出する意向を表明。「プロで今岡拓夢選手と対戦するのが夢」と、チームメイトとプロでの再会に想いを馳せた。

●第107回 全国高等学校野球選手権
1試合(先):0勝1敗 7回 120球 被安打10(被本塁打0)失点1 自責1
防御率:1.29 奪三振3(率3.86)与四球0(率0.00)WHIP:1.43

●U-18野球ワールドカップ
3試合(救援3):2勝0敗 5回 81球 被安打3(被本塁打0)失点1 自責0
防御率:0.00 奪三振6(率8.40)与四球2(率2.80)WHIP:1.00 K/BB:3.0

 小柄な体を目一杯使って投げ込むストレートは最速149k/h。スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップを自在に操る。強気で打者に向かっていく投球でゲームを支配する森下翔太投手。170cm、68kg。右投げ左打ち。熊本県。左足を高く上げ全身のバネを最大限に効かせた速球には威圧感すら覚える。今大会のSRのパナマ戦では先発し7回1/3を被安打1で失点3(自責1)と好投。延長に入った8回途中まで投げ続け救援陣に後を託した。連続無四球は甲子園大会から通算で33回1/3。“精密機械”と呼ばれるに相応しい安定感は異彩を放っている。試合は森下投手の熱投にナインが応え6x-5でサヨナラ勝ち。今夏の甲子園では3回戦で関東第一に1-4で敗戦。全3試合に登板(先発2救援1)と獅子奮迅の力投を見せたがベスト8の壁は崩せなかった。試合後にプロ志望届は出さず大学進学を表明。U-18W杯で前回MVPを獲得した緒方蓮選手(國學院大學)は遠縁にあたり、「上のレベルで一緒にプレーしたい」と未来の共闘に夢は膨らむ。「次のレベルで成長してプロに行きたい」和製マダックスの挑戦は次のチャプターへと進む。

●第107回 全国高等学校野球選手権
3試合(先2):1勝1敗1S 20回1/3 291球 被安打19(被本塁打0)失点5自責3
防御率:1.33 奪三振:16(率7.08)与四球0(率0.00)WHIP:0.93

●U-18野球ワールドカップ
2試合(先2):0勝0敗 13回 168球 被安打5(被本塁打0)失点4 自責2
防御率:1.08 奪三振19(率10.23)与四球0(率0.00)WHIP:0.38

 左足の上げ方に特徴があり、一度動きが止まってそこからゆったりとモーションに入る。東京ヤクルトの吉村貢司郎投手に似た感じの投球フォームから最速150km/hのストレートを投げ込む中野大虎投手。スライダー、カーブ、カット、チェンジアップ、フォークと球種も多彩。右投げ右打ち。大阪府。U-18W杯では9月8日の南アフリカ戦で初登板・初先発。5回73球 被安打4 奪三振9の無失点と相手を寄せ付けず。試合は10-0、5回コールドで日本が勝利した。その後の2試合救援も危なげない無失点投球。SR終了時点で3勝と“勝ち頭”となり最高勝率投手の表彰を受けた。今夏は大阪大会決勝で東大阪大柏原に延長11回の末5-6と敗れ聖地への切符を逃す。試合後、「(プロ志望届は)出します」と明言。「強い気持ちを持って野球を楽しむ選手になる」野球人としての理想に近づくため、迷いなく夢への一歩を踏み出した。

●第107回 全国高等学校野球選手権(大阪大会)
3試合(先2):2勝1敗 17回 260球 被安打16(被本塁打0)失点5 自責3
防御率:1.59 奪三振14(率7.41)与四球6(率3.18) WHIP:1.29 K/BB:2.3

●U-18野球ワールドカップ
3試合(先1):3勝0敗 7回3/2 105球 被安打5(被本塁打0)失点0 自責0
防御率:0.00 奪三振12(率11.00)与四球2(率1.83) WHIP:0.91 K/BB:6.0

※なおスタッツはバーチャル高校野球、Sportsnaviの数字を参考に筆者が算出。大会の規約に則り7回制で計算


渡邉直樹

著者プロフィール 渡邉直樹

1967年4月8日生まれ 東京都出身  1993年7月:全国高等学校野球選手権西東京大会にて”初鳴き”(CATV) /1997年1月:琉球朝日放送勤務(報道制作局アナウンサー)スポーツ中継、ニュース担当 /琉球朝日放送退社後、フリーランスとして活動中 /スポーツ実況:全国高等学校野球選手権・東西東京大会、MLB(スカパー!、ABEMA) /他:格闘技、ボートレース、花火大会等実況経験あり /MLB現地取材経験(SEA、TOR、SF、BAL、PIT、NYY、BOS他)