――リカバリールームをつくろうと思ったきっかけは
相川氏(以下相川) 西岡選手と話をしている中で、大会期間中に仮眠のニーズがあるという話を聞いたのがきっかけです。大会時にスペースがないので地べたで寝る選手もいると聞いて驚いたとの、日本テニス協会(JTA)さん側も選手の仮眠などの環境づくりに課題があることも聞いていたので、4~5月頃に提案したのがスタートです。
――どんなふうに話を進めたのか
相川氏 私たちはお客様の課題に対して、解決策を商品として提供していくことをずっとやってきました。形は異なっていても考え方は一緒だと思っていたので、テニス選手から課題やニーズを聞きたくて、西岡選手に改めて時間をいただきました。貴重な時間をいただいて、大きなニーズを具現化したポイントが2つあります。
――どんなポイントなのか
相川氏 1つ目は仮眠というニーズに応えるために、なるべくプライベートな環境で2、30分の仮眠でも睡眠の質を高めるような設計にすることを目玉に考えました。2つ目は選手個々でリラックスのためにゲームをしたり、音楽を聴いたりなど、コンディショニングのスタイルが違うとヒアリングで感じたので、さまざまなニーズに応えられるような環境づくりを意識しました。
――どんな環境なのか
相川氏 仮眠ができるスペースは、周りがカーテンで覆われていて睡眠に集中できるようにしています。他にもビーズクッションを置いたり、仮眠以外の休み方もできるようにしています。全体としては丸みのある空間にしています。流線形や丸は視覚的に柔らかいイメージを持つので、リラックス効果があると言われています。また香りの面でも自社のアロマを置くことで覚醒を抑制するようにしています。
――照明にも工夫を施している
相川氏 やっぱり選手たちは練習終わりなどに使うので、どうしても覚醒している部分があります。そこで暖色系の照明を使用して、さらに睡眠に最適な10ルクス以下にした設計にしています。
――同社だからこその強みは
相川氏 弊社はBAKUNE(バクネ)というリカバリーウェアが一番強いプロダクトなので、睡眠やリカバリーに関する知見は他社よりも強いものがあると思っています。このリカバリールームの方針と合致していると考えていて、睡眠を促すためには睡眠環境を整えるだけではいい睡眠ができない。一般的に言うと、入浴は1時間半前に済ませようとか、寝る30分前はブルーライトをやめようとかあると思うけど、その前後の行動も含めてデザインできるのが私たちの強みだと思っています。
――同社の製品はどこに活用されているのか
相川氏 弊社のブランケットだったり、仮眠スペースには掛け布団、ボックスシーツ、枕を入れさせてもらっています。掛け布団とボックスシーツは接触冷感がある素材を採用しているので、練習後の体温が高い状態でも使いやすいと思いますし、また枕に関しても選手それぞれの体格に合わせて高さが調整できるような機能がついています。
――テニスという競技ならではの難しさは感じるか
相川氏 テニスだからこそ仮眠というニーズに特化しているのかなと思っています。テニスは試合の開始時間が不規則なので、平気で2~3時間待たされます。選手も空き時間の過ごし方に悩むと聞くので、リラックスする場所をつくることへのニーズがあるのがテニスならでの特徴ですかね。また海外の試合はいろんな体格の選手がいるので、ビーズソファーだったり、稼働式のベッドを置いたり、大会の特性を把握しながらアレンジを加えました。
――最後に今後の展望を
相川氏 弊社は「健康に前向きな社会をつくり、人類のポテンシャルを引き出す」という大きなミッションを掲げています。今はリカバリーウェアやサンダルなど、身につけるものを中心とした事業展開をしていますが、ミッションの実現のためには衣食住の「衣」だけじゃなくて今回の「空間」づくりなどにも領域としては広げていかないといけないと思っています。今回の事業を1つの契機として、リカバリールームを広げていきたいし、最終的には一般のお客様にも展開していきたいですね。
西岡選手はリカバリールームを大絶賛
今大会前にリカバリールームを見学した西岡は「びっくりしました。選手目線からいろんな大会の話をさせてもらったが、今まで一番のクオリティではあることは間違いないと思います」と笑みを浮かべた。
リカバリールームが完備されていない大会では、選手たちがソファなどで仮眠をとることもある。「僕ももちろん経験はあるけど、ちゃんとした場所で寝た方が絶対にいいじゃないですか。試合に向けての準備がやりやすいのは間違いないと思います」と好印象を口にした。
仮眠スペース以外のリラックス空間に力を入れた点は、選手にとってはプラスの面が大きいという。「仮眠したい選手もいれば、自分の時間をつくりたいだけの選手など、さまざまな選手がいます。各ニーズに合わせてつくっているところが他の大会との大きな差かなと思います」と分析。テニス界の常識を超える試みは、選手たちの好プレーをアシストしてくれそうだ。