デジタルとリアルの境界を打ち破る

ネクソンは1994年に韓国で創業し、現在は東京に本社を構えるオンラインゲームのリーディングカンパニー。PCやモバイルを中心に多くのタイトルを出しており、『メイプルストーリー』『アラド戦記』などが特に人気で同社の収益を引っぱっている。2011年には東証一部(現・東証プライム市場)に上場しており、2024年度12月期決算で過去最高となる売上収益(売上高)4462億円に達し、当期利益は1348億円にもなった。
また、同社が Electronic Arts Inc. からのライセンス許諾のもと展開する、PC向けの『FC ONLINE(FCオンライン)』やスマートフォン向けの『FC MOBILE(FCモバイル)』の2つのサッカーゲームは、韓国で人気を誇る。同社はFCシリーズの人気を元に、リアルのサッカーイベント「アイコンズマッチ」を昨年初めて仕掛けた。スタジアム全体を見下ろせるVIPルームでイ・ジョンホン社長は、嬉しそうに話した。
「アイコンズマッチを再び成功裏に開催できて嬉しい。このイベントはファンがネクソンのゲームに抱く情熱をサッカーへの興奮と結びつける特別な機会で、ゲーマー、サッカーファン、レジェンド選手たちが共にスポーツを楽しみ、交流を深められる場です」
FCのユーザーからすると普段ゲームで使用している選手たちを実際に生で楽しめる機会であり、サッカー観戦ファンにとっても以前熱狂させられた選手たちを直接見られる場でもある。両方を掛け合わせたのがアイコンズマッチだ。

日本でも人気オンラインゲームのリアルのイベントは度々開催されているが、サッカーをテーマとし、なおかつ実際に試合まで行うイベントはなかなかない。しかも、レジェンドと呼ばれるに相応しい選手たちが海外からソウルに2チーム分も集まったのだ。選手の出場料、渡航費、滞在費に加えて、イベントにかかる諸経費などの開催費用は高額であったろうし、選手たちの交渉も数多いだけあって大変だったはず。そこまでしてこれほどの大規模イベントを開催する必要性があるのかとも思える。それでも「意義はある」とイ・ジョンホン社長は言う。
「当社のDNAに深く根ざした哲学があります。絶えず革新的で没入感のある方法でプレイヤーと交流し、デジタルとリアルの境界を打ち破って、エンターテインメント体験の在り方を再定義することを目指しています。まず、アイコンズマッチの開催目的は、『FCオンライン』と『FCモバイル』の情熱をリアルの世界へ持ち込み、ゲームとグローバルサッカー文化を繋ぐというユニークなライブ体験をファンに提供し、ネクソンの影響力を既存ユーザーを超えて広く拡大することです」
イ・ジョンホン社長は自身のこれまでの同社での経験も、リアルでのイベント開催を後押ししたという。
「私はネクソンで20年以上勤務し、会社が純粋なゲーム開発会社の枠を超えはるかに大きな領域へ成長する過程を見届けてきました。キャリアで直接(『FCモバイル』や『FCオンライン』の)FCフランチャイズを率いたので、今回のプロジェクトは個人的に特に意義深い。このアイコンズマッチで最も興味深い点は、まさにその旅路を実現したことであり、私たちの成長を真に表現した方法です。人々にインスピレーションを与え、コミュニティを一丸にし、ゲームの持つ力を示す。その瞬間を創出することは、息をのむほど感動させてくれます。アイコンズマッチは、ネクソンがどれくらい成長してきたかを示してくれるだけで無く、今後ネクソンがエンターテイメントの未来を作っていく上でどれくらいの役割を果たせるのか、自信を示すことができるイベントです」
現役時代のプレーを知らないはずの若者たちが観客の中で大きな割合を占める

そうそうたるレジェンドたちが2日間にわたって出場なんて、いちサッカー好きの感覚からすると、とんでもない金額が動いたのではとも思ったが、イ・ジョンホン社長は笑いながら否定し、関わったスタッフたちへの感謝を口にした。
「予算はそこまで多くは使っていません。大切なのは、このイベントを支援してくれたネクソンのFCグループのメンバーたちが情熱的に選手たちと直接コンタクトを取りながら、韓国における彼ら選手たちへのファンの熱い思いと、ゲーマーたちがこのイベントをどれほど渇望しているかをアピールし続けたことです。それが、このようなイベントを開催できた理由だと思います。ネクソンのスタッフたち、特にFCに関わっている方々が、世界中に散らばっている選手たちとの交渉のために各地を駆け回り、しつこいと思われるほど非常に長い期間をかけて説得してくれました。その結果、昨年の大会開催時には、選手たちの韓国入国時から、空港にたくさんの人が詰めかけ、そして試合当日のスタジアムも満席で、多くの観客が試合を観戦し、現地で感動して泣く人もいるほどでした。そんな姿を見て、選手たちも非常に感動したようです。そのため第2回大会はより充実した内容で進めることができました。昨年の経験もあって、参加したレジェンド選手の方々が自発的に参加を望んでくれました」
昨年の大会では、ある大物レジェンドが、当初はイベントには参加するが試合には出場しないという契約だったにも関わらず、会場の雰囲気の素晴らしさに、やっぱり出場したいと急きょピッチに立ったそうだ。
現地で気づかされたのが若い客層の多さだ。イ・ジョンホン社長も昨年開催時に驚かされたという。
「若い世代が知らないような選手ばかりなのに、幼い子供や10代、20代の若い人たちの割合が非常に高かった。レジェンド選手たちがプレーする姿を見たことがある、少し年配の方がかなり多いと思っていましたが、若い人たちの方がはるかに多かった。レジェンド選手たちも非常に驚いたと言っていました。それだけこの試合が、FCのユーザーだけでなく、サッカーファンたちが熱望して、夢を実現させたものだったのだと思います」
イ・ジョンホン社長自身はサッカーはプレーしないが、観戦は大好きだと明かす。24、5年前には、当時京都パープルサンガでプレーしていた朴智星(パク・チソン)選手を見に韓国から京都へ旅行していたそうだ。朴智星は2002年ワールドカップ日韓大会で大活躍した後、Jリーグからヨーロッパへと移り、イングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドでは数々のタイトル獲得に貢献した。今回のイベントにも出場している。また、イ・ジョンホン社長は日本人選手も好きで、中でも「中田英寿選手が大好きでした」と明かした。
日本でも開催?

日本でもアイコンズマッチを開催してほしいところだが、イ・ジョンホン社長は開催への意欲を示してくれた。
「ネクソンのゲーム事業において日本は本当に重要な市場です。日本市場でより多くのユーザーの皆様に愛されるように、長期的な戦略的視点と大規模な投資を通じて、今後もプロモーションを継続していきます。他社との協業やコラボなど、色々な取り組みを進めていきたい。日本においてネクソンという会社がユーザーに愛してもらえるために、ユーザー間の知名度を上げていくために、ブランディングに取り組んでいきたいです。このような大きなイベントを日本でも開催できるようになることをビジョンに掲げ、一生懸命進めていきたいと思います」
ネクソンは日本が本社ではあるが、2024年度12月期通期の地域別売上構成比率では韓国が44%、中国が37%、日本はまだ4%。拡大の余地がある重点市場だけに、もしかしたら、その一環で日本でもサッカーファンが喜ぶような大がかりなイベントを仕掛けてくれるかもしれない。