試合前日には趣向凝らしたレジェンドたちの技術対決

ロナウジーニョ、カカ、ガレス・ベイル、ティエリ・アンリ、ドログバ、ジャンルイジ・ブッフォン、リオ・ファーディナンド、イケル・カシージャス、カルレス・プジョル、ウェイン・ルーニー、スティーブン・ジェラード、朴智星、エデン・アザール、アーセン・ベンゲル、ラファエル・ベニテスなど、他にも名前が挙げきれないほどのサッカー界で輝かしい功績を残した選手や監督といったレジェンドたちが、韓国のソウルワールドカップ競技場に集った。
アイコンズマッチの初日9月13日に実施したのが技の競い合い。攻撃的選手を中心に構成した「FC SPEAR」、守備的選手を集めた「SHIELD UNITED」の2チームに計32人の選手が分かれ、1対1や2対2の対決、ドローンが上空から落としたボールのトラップの精度を競い合ったり、板が何枚打ち破れるかキックの威力勝負だったり、角度をつけた位置からのゴールを狙うといったような趣向を凝らしていた。観客たちはもちろん、それらの種目に挑戦するレジェンドたち自身も楽しんでいるのが伝わってきた。

このイベントを取材に訪れていた元日本代表の前園真聖さんは、アイコンズマッチの練られた企画の数々に感心していた。
「色んなアイデアがあって見ていて面白い。エンタメ要素が詰まっている。演出含めて、ここまで凝ったのは日本では見たことない。ドローンを使ったものは特に面白かったし、1対1や2対2も面白い。試合だけじゃなくて、引退した人のプレーを試合だけではなくて、こういったポイント(種目対決)で見られるのは良いと思う。盛り上げ方もよくわかっている。プレーするレジェンドたちもやりやすいのでは。そういう雰囲気が作られている」
ロナウジーニョ、カカ、ベイル、カシージャス、ブッフォン・・・レジェンドたちがプレーで魅了

2日目の9月14日は2チームによる90分間の試合。主審をつとめたのは1990年代から2000年代にイタリア・セリエAで名主審として名を馳せたピエルルイジ・コッリーナ氏で、さらに当時を思い起こさせてレジェンドマッチを引き立てた。
試合は攻撃的な編成のFC SPEARが序盤から攻め込んでは、SHIELD UNITEDが防いでカウンターを仕掛けるといったシーンが続いた。ただ、さすがに現役を退いたこともあってか、FC SPEARの選手たちがバテていた。前半はスコアレスだったが、後半になると試合が動いた。FC SPEARのルーニーが現役さながらの豪快で正確なミドルシュートをゴール隅に蹴り込んで先制点をあげれば、SHIELD UNITEDが元ブラジル代表としてインテルミラノなどで活躍したマイコンがヘディングで同点弾を決めて、さらには韓国代表として3回ワールドカップに出場した朴主永が、パスワークからチップキックで逆転の決勝弾を決め、2対1でSHIELD UNITEDが勝利した。
カカやベイルが引退したとは思えないほど軽快にピッチを駆け抜ければ、ロナウジーニョがテクニックを駆使してドリブルで抜いていくと、現役時代はFCバルセロナで共闘したプジョルがロナウジーニョに激しい守備をして削ったり、カシージャスやブッフォンが際どいコースにとんだシュートを何度も横っ飛びして弾いていたり、レジェンドたちの往年の活躍を思い起こさせる動きに観客たちはひたすら魅せられていた。

勝利したSHIELD UNITEDの選手たちは、ワールドカップの優勝を決めたかのような演出に合わせて大喜びをしていた。
ブッフォンは「多くのファンが見てくれて素晴らしいイベントだった。我々にとっても偉大な選手たちとまた再会できる機会になってうれしい」と話せば、ドログバは「多くの観客が来てくれて声援も送ってくれて非常に満足」と話していた。
マンチェスター・ユナイテッドで数々のタイトルに貢献した韓国代表の英雄である朴智星は、日本向けのメッセージをお願いすると、流暢な日本語で「僕は日本からプロ選手になってヨーロッパに行った。日本のファンがいつも応援してくれたことを覚えている」と語った上で、今シーズン、Jリーグで優勝争いをしている古巣の京都サンガには「ビックリしている。嬉しいし、最後まで頑張ってほしい。時間があれば応援しにいきたい」とエールを送っていた。
ファンを楽しませるために徹底的に考え抜かれた仕掛け
試合も大いに盛り上がって楽しめたが、それ以上に感銘を受けたのがスタジアム周囲に設置されたアトラクションや仕掛けだった。
まず上手いなと感じたのが、SNS映えする様に写真が撮れるポイントを複数箇所設けている点。
スタジアムのメインゲートには、レジェンドたちが写った巨大なフラッグが建物に掛けられていて、多くの来場者が記念撮影にいそしんでいた。また、オフィシャルグッズのポップアップストアの壁には、人の身長に合わせた高さにロゴが描かれて、代わる代わる写真を撮っていた。
さらに両チームの選手ロッカールームを模した撮影スポットがあり、そこにアイコンズマッチに参加の選手たちのユニホームが掛けられていた。ファンたちが長蛇の列で待ちながら、自分が好きな選手のところで記念写真を撮っていた。
そして、ユニークだったのが、レジェンドの凄さを体感しようというアトラクション。例えば、現役時代は驚異的な時速40キロ近いスピードで走ることができたガレス・ベイル。彼の走る速さを体感してもらおうと、数十メートルほどの距離をベイルの等身大パネルを電動車につけて走らせ、ファンたちと競争していた。
また、現役時代は驚異的なミドルシュートで”ジェラード砲”と日本のサッカーファンからも呼ばれていた、イングランド代表やリバプールで活躍したスティーブン・ジェラードのシュートの威力を体験するコーナーも設置され人気を呼んでいた。仕組みとしては、ファンがアクリル板の前に立って、少し距離を離した位置から、ジェラードのシュートの威力を再現した球出し機から強烈なボールが飛んでくるのを体験するというもの。ジェラード砲を疑似体験するべく、ファンが長蛇の列をなし、アクリル板に強烈なボールが当たる度にファンがたじろぎつつも喜んでいた。

他にも、こじつけ感はあったが「朴智星チャレンジ」コーナーでは20秒以内にどれだけステップを踏めるか、「アザールチャレンジ」コーナーでは20秒位内に点滅するLED灯をタッチできるかといった様なアトラクションが用意してあり、多くの来場者が挑戦していた。
こういったアトラクションを用意することで、アイコンズマッチに出場するレジェンドたちを少しでも身近に感じさせられるようにしたのかもしれない。
屋台街のようになった飲食エリアも用意されていて、多く用意された席でファンたちがスタジアムに入る前に腹ごしらえをしていた。
ソウルワールドカップ競技場の外に広い敷地があるとはいえ、体験型アトラクションを設置したり、SNS向け写真映えスポットを用意したり、飲食屋台街も並んでと、ここを訪れた人たちが楽しめる導線や仕掛けをよくここまで企画したなと思わざるを得なかった。
ネクソンのイ・ジョンホン社長が日本のメディアとの取材対応中に、我々に逆に「最近日本ではJリーグなどに若い人たちが熱狂してたくさん観戦しているのでしょうか?」と質問する場面があり、「日本でもしこういうサッカーイベントをやるとしたら、日本の若い人たちはあまり興味がないのかな?サッカーの人気がないのか?反響があるのかちょっと気になって聞いてみました」と話し、我々が答えた内容を熱心にメモする一幕があった。どうやったらサッカーファンを楽しませられるイベントを作れるのか、トップ自らも考えているのかと内心驚かされた。
通常のスポーツイベント会社の興行ではなく、ゲーム会社が主導しているからこそ発想が異なるのかもしれない。イ・ジョンホン社長が「ゲーマーとサッカーファンの両者に没入感あふれる忘れがたい体験を提供する」と語った言葉通り、今まで見てきたどのサッカーイベントよりも豪華で、更に来場者がスタジアム内外で楽しめてと、非常に満足度の高いイベントだった。
ゲーム大手・ネクソンが韓国で約 10万人来場のサッカーイベントを開くわけ
ロナウジーニョ、カカ、ベイル、アンリ、ドログバ、ブッフォン、カシージャス、ルーニー、ジェラード、朴智星、ファーディナンド、名前を挙げきれないほどのサッカー界のレジェンドたちが韓国のソウルワールドカップ競技場に集った。