それぞれの特徴が表れた優勝劇

 特に奮闘が目立ったのが山下だった。2022年から2年連続して日本ツアー年間女王に輝き、昨年の米ツアー最終予選会をトップ通過して満を持しての参戦。8月3日終了のメジャー、AIG全英女子オープンを制覇し、米ツアー初優勝を遂げた。11月2日に終わったメイバンク選手権では3人のプレーオフを制し、日本勢でただ一人、複数回優勝した。ポイントランキングで上位につけ、最終戦まで最優秀選手賞争いを展開。堂々の新人賞を獲得して確かな足跡をしるし「目標にしていたメジャー優勝もできた。名前を残せたのはすごくうれしい」と充実の口ぶりだった。

 優勝劇には各選手の特徴が表れ、彩りを添えた。山下は身長150㌢と小柄ながらフェアウエーキープ率3位と正確なショットがさえ渡った。日本勢の口火を切ったのは竹田麗央だった。昨季、日米両ツアーを兼ねるTOTOジャパンクラシックを制覇。日本ツアー年間女王のタイトルを引っさげて米ツアーに乗り込み、早速3月のブルーベイLPGAで優勝した。パーオン率2位と飛距離を含めたショットの力は世界トップクラスであることを証明した。

 続いたのが西郷。昨年、米ツアー新人賞に輝いた実力者は4月のメジャー第1戦、シェブロン選手権でツアー初制覇した。この勝利は、日本女子が五つあるメジャー大会を全て制する節目だった。優勝者の恒例として、18番グリーン脇の池に飛び込み、歓喜に浸った。5月には岩井千怜、8月には姉の明愛がそれぞれ初優勝した。双子の優勝はツアー史上初めてで、快挙に現地でも注目を浴びた。締めくくりは11月のTOTOジャパンクラシック。先輩格で26歳の畑岡奈紗が約3年半ぶりとなる米ツアー7勝目を挙げ感涙。「また勝つことができて良かった」と実感を込めた。

ツアーの競争力と刺激

 世界の舞台でも実力が大きく開花した背景にはまず、日本ツアーのレベルアップを挙げることができる。多くの選手は国内で実績を積んで海を渡った。日本ツアーでは2022年から「女王」やシード権を決める際の基準をポイントに一本化した。それ以降の年間女王は2022年と2023年が山下、昨年は竹田。米ツアーの今季新人賞レースでは1位の山下以下、2位竹田、3位岩井千、4位岩井明と上位を日本勢が占め、国内で培った力をいかんなく披露した。

 大きいのが、世界基準とも言える4日間の大会が増えたことだ。以前は日本女子オープン選手権などビッグイベントを中心に数えるほどしかなく、3日間大会が主流だった。しかし近年は4日間大会が増加。例えばツアーが同じ37試合だった2015年と比較してみると、10年前が9試合だったのに対し、今季は18試合に倍増した。これは日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長の下、世界で勝てる選手を育てるべく、スポンサーの協力を得ながら増やしてきた結果だ。自身も米ツアーで4勝した小林会長。施策に「年々選手の力とツアーの競争力が上がっている」と手応えを口にしていた。72ホールを戦い抜く体力、精神力が自然に向上していった。

 13人が主戦場を置くという、規模の効果もある。異国の地で同郷の選手が常に周囲にいることで切磋琢磨する意欲や、自分にもできそうだという感覚が生まれることが想定される。事実、山下はこう明かした。日本勢として今季4番目の勝利者になり「今年は特に日本選手で優勝している人が多いのでいい刺激をもらった。私も頑張ろうという気持ちになった」。例年、多少の入れ替わりがあるものの、一定規模を保てば今季のような状況が続くことが期待される。

テクノロジーの産物

 そんな後輩たちの躍進を頼もしく見ている一人に宮里藍さんがいる。2003年にアマチュアとしてツアー優勝を果たしてブームを巻き起こし、現在の日本女子ツアー隆盛の礎を築いた〝レジェンド〟。米ツアー通算9勝で、男女を通じて日本選手でただ一人、世界ランキング1位の称号を手にしている。自身はメジャー制覇に届かなかったこともあり「本当にすごい。こんなにメジャーに勝てるんだ、みたいな感じです」と絶賛。その上で、経験者ならではの、社会環境の変化に基づく視点も持つ。

 一つは衛星中継に加え、動画の配信サービスや投稿サイトの急速な発達で、日本にいても手軽に海外選手のプレーを閲覧できる点。宮里さんは自身が海外に挑み始めた当時をこう振り返る。「アニカ・ソレンスタム(スウェーデン)とかカリー・ウェブ(オーストラリア)とか、雑誌上の人みたいな感じでした」。世界の強豪を現実的な競争相手と捉えにくい感覚。「今の方がもっとリアルで身近に世界の人を感じられ、目標を立てやすくなって意識の高さにつながっているのかなとも思います」と説明した。

 言語化のスキルの高さにも言及している。宮里さんは自身のプレーを言葉で具体的に振り返ることで、良かった点や反省点が明確になり、今後の糧にしやすくなる効能を指摘。現代はSNSが盛んで、自らが発信者となっていることも多いことから、言語化スキルが上がっているとみている。取材の場面を念頭に「良かった一打を具体的な説明ができる方が、自分にとってもいい振り返りの時間になるし、自分自身にその体験を落とし込めると思います」と話す。単に「うれしい」「頑張ります」などと答えるだけではないやりとりは、日本の選手にとっても有意義なことがうかがえる。

 人気の原英莉花が米下部ツアーで好成績を収め、来季の米ツアー出場権を得た。新規メンバーも加わり、多要素が結集した日本勢の躍動から目が離せない。


高村収

著者プロフィール 高村収

1973年生まれ、山口県出身。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事