文=斉藤健仁

トップリーグのプレーオフが日本選手権に

 「日本選手権から大学枠がなくなる」。昨年からそう報道され始め、1月中旬のラグビー協会の理事会で、2017年度以降の日本選手権に大学チームが出場しないことが正式に決まった。1963年から大会方式は幾度となく変わったものの、日本選手権は「社会人王者対大学王者」を軸に行われてきた。だが、2017年度から大会名は残すが、トップリーグのプレーオフを兼ねることになった。つまり、従来はスポンサー名を冠されて行われていたトップリーグの1位~4位が出場するプレーオフが「日本選手権」という呼び名となる(別途5位~16位の順位決定戦も同時に行われる)。

日本ラグビー協会は18日、東京都内で理事会を開き、来季以降の日本選手権から大学チームの枠を撤廃し、トップリーグ(TL)のリーグ戦上位4チームによるトーナメントで開催することを決めた。大会はTLの順位決定戦を兼ね、日本選手権覇者がTL優勝チームとなる。
日本選手権の大学枠撤廃=TL順位決定戦と統合-ラグビー協会


 なぜ、大学チームが日本選手権に参加しなくなるのか――

 1995年にラグビーがオープン化(プロ化)して以降、プロ選手が増えて海外のトップ選手も加入するようになった社会人チームと大学チームとの実力差は開く一方だった。大学王者が社会人王者を破ったのは、1987年に早稲田大が東芝府中(現東芝)を22-16で下したのが最後だった。2000年代に入り、2005年には早稲田大がトップリーグ4位のトヨタ自動車を、2014年に帝京大がワイルドカード(5位~12位のうち2チームが日本選手権に出場)で参戦したNECを破ったこともあった。

 トップリーグ上位3チームと大学8連覇を達成した帝京大が参加した今年度の日本選手権では、準決勝で〝最後の大学チーム〟となった帝京大が、トップリーグ王者のサントリーに善戦し意地を見せたものの24-59で敗戦した。

 現実として、大学側、特に「打倒・トップリーグ」を掲げた帝京大、東海大などにとっては、真剣勝負の場で社会人チームとの対戦は大いに意義があった。だが、社会人チームにとってそれは希薄だった。さらに、帝京大などのトップ校以外のチームからは、「日本選手権はテストなどがあって調整が難しい」とも言われてきた。

2019年、2020年を見越したスケジュール調整

 そして、もうひとつの要因がある。昨今、「シーズンストラクチャーを見直したい」という言葉がよく聞かれるようになった。年間スケジュールを見直して2019年のラグビーワールドカップを最高の状態で迎えるために、選手のコンディションに配慮してシーズン全体の日程を変えることになった。

 2015年ワールドカップで日本代表が3勝を挙げた翌年、日本ラグビーは代表選手のさらなる強化を目的に、日本チームである「サンウルブズ」を立ちあげて「スーパーラグビー」に参戦した。他の国のチームは代表や代表予備軍で構成されている。日本代表も強化を主たる目的として、個々の選手たちが「国際試合と同様な高い強度の試合を経験する」ことを狙いとして参戦したというわけだ。

 日程はすでに決まっていて、毎年2月下旬に開幕してプレーオフを含めて8月上旬まで行われる。さらに、ラグビーは国際的に6月と11月は「ウインドウマンス」と呼ばれるテストマッチ(国際試合)期間になっている。日本のトップリーグ、日本選手権まで含めると8月下旬から1月下旬まで試合が組まれていることになる。つまり、日本代表のトップ選手は、トップリーグ、スーパーラグビー、代表チームと3つを掛け持ち、年間の試合数が40ほどと〝世界で最も忙しいラグビー選手〟になってしまった。

 昨年から日本代表を率いるヘッドコーチのジェイミー・ジョセフも2019年のワールドカップに向けて「現在の状況では選手は続かないと思う。そんな中で海外に行ったり、代表引退を選んだりする選手がいる。今のストラクチャーは日本の優れた選手にとってはベストな形ではない。もっと見直していかないといけない」と訴えている。昨年11月、何人かの中軸選手が「諸事情」により日本代表を辞退したことは、こうした過密スケジュールと無関係ではないはずだ。

 こういった状況を踏まえて、トップリーグ、日本選手権の日程を1月中旬までに終える必要があり、日本選手権がトップリーグのプレーオフを兼ねることに決まったのだ。トップリーグも15週でプレーオフまで終えることになったので、来シーズンから再び16チームを2グループに分けて、その後に上位と下位の2つのグループ分けて戦う方式になった。

 一方、大学のスケジュール見直しは行われないのだろうか。2017-18シーズンは変更なし。ただ、その翌シーズンからについて、大学ラグビー関係者と協議を重ねている。さらに、大学のトップ選手に対して、大学とトップリーグの二重登録を許可するのかどうかについても議論されている。

 大学のシーズン終了を早めることが可能であれば、再び日本選手権に大学チームの参加権が復活するかもしれない。またサッカーの天皇杯のように、年間や春シーズンを通じて行われるカップ戦を開催してもいいかもしれない。

 2019年ワールドカップまで、もう3年を切った。それだけでなく、翌2020年には7人制ラグビーの東京オリンピックがあり、2023年、2027年とワールドカップは続いていく……。これを機に選手のコンディションを優先しつつ、強化も育成も同時に行えるような理想のスケジュールに少しでも近づきたいところだ。


斉藤健仁

1975年生まれ。千葉県柏市育ちのスポーツライター。ラグビーと欧州サッカーを中心に取材・執筆。エディー・ジャパンの全57試合を現地で取材した。ラグビー専門WEBマガジン『Rugby Japan 365 』『高校生スポーツ』で記者を務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。『エディー・ジョーンズ 4年間の軌跡』(ベースボール・マガジン社)『ラグビー日本代表1301日間の回顧録』(カンゼン)など著書多数。Twitterのアカウントは@saitoh_k