張本美和にとって、全日本選手権のシングルス決勝は高い壁として立ちはだかってきた。2024年、2025年と2年連続で決勝進出を果たしながら、いずれも早田を相手にゲームカウント0-4のストレート負けを喫していた。当時のスコアが示す通り、早田の圧倒的な力に屈し、王者の牙城を崩すには至らなかった。しかし、三度目の顔合わせとなった今回の決勝では、序盤から張本美和が徹底したコース取りと鋭い両ハンド攻撃を展開。早田の重厚なドライブに対しても一歩も引かず、最終第7ゲームまでもつれ込む大熱戦を制した。この試合の特に第6ゲームと第7ゲームは日本の卓球の歴史に残る名勝負となっただろう。過去2年の敗戦を糧にし、技術のみならず精神的な駆け引きにおいても進化を遂げた末の戴冠。それは、日本卓球界の次代を担う新女王が誕生した瞬間であった。

石川佳純、伊藤美誠の系譜。記録が証明する客観的な価値

 今大会で張本美和が成し遂げた記録は、日本卓球界の歴史において極めて希少性の高いものである。まず特筆すべきは、ジュニア女子シングルスにおける4連覇の達成。これは2007年から2010年にかけて達成した石川佳純さん以来、史上2人目となる快挙。中学1年生から高校2年生にかけての多感かつ技術変革の激しい時期において、国内ジュニア世代の頂点を守り抜くことは、単なる技術力以上の安定した精神性と徹底した自己管理能力を必要とする。一度の敗戦も許されないプレッシャーの中でこの記録を打ち立てた意義は大きい。

 さらに、現役の高校生による一般女子シングルスの制覇は、2018年、2019年に当時高校2年生、3年生で連覇した伊藤美誠(スターツ)以来のことである。石川佳純、伊藤美誠という、五輪メダリストであり日本卓球界を長年牽引してきた先達たちが歩んだ「王道」の軌跡を、張本美和もまた確実になぞり始めた。二冠を達成した事実は、彼女が単なる「有望株」という枠を超え、名実ともに国内トップの地位を確立したことを示している。

1日5試合、ハードワークを完遂したフィジカル能力

 今大会の張本美和のパフォーマンスを支えた基盤は、その卓越した体力と回復力にある。全日本選手権は、ジュニアの部と一般の部を同時並行で勝ち進む選手にとって極めて過酷なスケジュールを強いる大会である。張本美和は大会期間中、多い日には1日4試合、あるいは5試合をこなすというハードワークを完遂した。

 全日本選手権のシングルスは一戦一戦の密度が濃く、肉体的な疲労は即座に集中力の欠如や精度の低下に直結する。特に大会終盤、一般の部の準決勝と決勝はいずれもフルゲームに及ぶ激戦。しかし、決勝戦の最終第7ゲームにおいても、張本美和のスイングスピードが衰えることはなかった。長いラリーが続く中でも体幹の軸がぶれず、フォアハンドの威力を維持し続けた事実は、彼女が積み重ねてきた徹底的なフィジカルトレーニングと連戦が続いているWTTへの参加の成果を物語っている。シニアの国際大会を勝ち抜くための「世界標準」のスタミナが、この日本一という結果を下支えしたと言える。

Beatsが贈った「美和モデル」のカスタムヘッドホン

世界標準の市場価値。Beatsが贈った「美和モデル」の戦略的意味

 張本美和というアスリートに対する評価は、すでに競技の枠を超え、グローバルな市場価値へと昇華している。今大会、業界関係者の注目を集めたのは、米国の世界的オーディオブランド「Beats」との関係性である。同ブランドは、野球の大谷翔平やサッカーのリオネル・メッシといった、各競技における世界トップクラスのアスリートとパートナーシップを組むことで知られる。

 そのBeatsが、今大会に合わせて張本のために世界に一つだけの「美和モデル」カスタムヘッドホンを制作・贈呈した。デザインは本人の要望を取り入れ、普段着用するジャージとの親和性を考慮した「オレンジ」を基調としている。Beatsの本社があるカリフォルニア州は、2028年ロサンゼルス五輪の開催地。このタイミングでのカスタムモデル贈呈は、同ブランドが張本美和を「2028年の顔」として極めて高く評価し、戦略的にサポートしていることの証左である。卓球選手が大谷やメッシと同列のサポートを受けることは日本の卓球界では極めて異例のケースであり、彼女の存在が競技の枠を超えたアイコンになりつつあることを意味する。

オンとオフのマネジメント。グッズがもたらす均衡

 過酷なトーナメントを勝ち抜く上で、精神的な均衡をどう保つかはトップアスリート共通の課題である。張本美和の場合、その一助となっているのがサンリオのキャラクター「クロミ」グッズ。ベンチバッグや小物類に配されたお気に入りのキャラクター。張り詰めた緊張が続く会場において、自身の好むものに触れることは、外部のプレッシャーから自身を切り離し、リラックス状態を作るための重要なルーティンとして機能していることが推察される。

 一見すると17歳の等身大の嗜好だが、スポーツ心理学の観点から見れば、これが高い集中力を維持するためのメンタルコントロール術として成立している。1日5試合という地獄のスケジュールを乗り切るためには、コート上での「戦士」としてのオンと、好きなものに囲まれる「少女」としてのオフの切り替えが不可欠。このバランスを自分自身で管理できる点も、彼女の強さを構成する重要な一側面である。

メディア露出データが示す「報道価値」の高さ

 今大会における張本美和への注目度は、メディア露出の質と量に鮮明に現れている。大会期間中の5日間、主要放送局における張本美和に関連するニュース露出は合計約60件超。特筆すべきは、あらかじめ予定されていた試合中継枠ではなく、夜の報道・スポーツ番組において、一人のアスリートとしていかに深く扱われたかという点にある。

 特に、決勝当日の夜に放送されたNHK「サンデースポーツ」では、15分以上という異例の長尺で彼女の特集が組まれた。単なるダイジェストに留まらず、優勝までの軌跡や技術的な分析を含んだこの扱いは、彼女の快挙が専門性の高いスポーツジャーナリズムの視点からも極めて価値が高いと判断された結果である。

 また、優勝当日の夜だけではなく翌日の1月26日朝の報道もその熱量を裏付けている。全局の報道番組がこぞって新女王の誕生を放送。彼女の勝利が単なる一競技の結果を超え、日本社会全体が注目する「国民的なトピック」へと昇華した事実を示している。この露出の規模感は、2028年ロサンゼルス五輪に向けた彼女の立ち位置を決定づけるものとなった。

2028年ロサンゼルス五輪へ向けて

 ジュニア4連覇と一般の部初優勝。石川佳純や伊藤美誠がかつて歩んだ歴史的な系譜に、張本美和はその名を完全に刻んだ。過去2大会の決勝戦でストレート負けを喫したという逆境から、現役日本女王を破っての優勝へと至ったプロセスは、彼女のキャリアにおいて最大の転換点となる。

 Beatsの本社所在地であるカリフォルニア州にある次回の五輪開催地ロサンゼルス。そこへ向けて、張本美和というアスリートが今後どのような成長曲線を描き、さらなる高みを目指すのか。世界が認めた「MIWA」ブランドへの視線は、すでに2028年という未来へと注がれている。東京体育館で見せたひたむきな戦いぶりは、世界一を目指す彼女にとって、揺るぎない確かな出発点となった。


VictorySportsNews編集部

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