メインイベントとなる最終日のオールスターゲームの会場には、ロサンゼルス・クリッパーズのホーム会場、インテュイット・ドームが初めて選ばれた。2024年8月にオープンした同ドームは、元マイクロソフトのCEO(最高経営責任者)でクリッパーズのオーナー、スティーブ・バルマー氏が20億ドル(約3,100億円)をかけて建設したもの。ハイテクノロジーを駆使した同会場には、3,500台以上の60インチテレビに相当する、バスケットボールコートがすっぽりと入ってしまうほどの巨大なLEDスクリーン“4Kヘイローボード”があり、表裏両側面から映し出される映像は、どの席からも見やすく圧巻だ。各座席にはヘイローボードで行われるゲームに参加できるボタンがついており、電源も設置されているため携帯電話の充電も可能。座席ライトもあり、客席から放たれる光がムードを盛り上げる。会場内はキャッシュレスのため、アプリをダウンロードして顔認証やクレジットカードを登録しておけば入場がスムーズで売店でも、購入したい商品を取って出るだけでよい。会計は自動的に行われる。
バルマー氏がファンの声をふんだんに取り入れた同ドームの売りは、そういったテクノロジーだけではない。
「トイレだ!1,160のトイレがある。NBAアリーナ平均の約3倍だ!」―。試合中も興奮を隠すことなくチームを応援するバルマー氏は、2023年3月に行われた記者会見で誇らしげに声を上げた。
「観客が列に並ぶようなことは望んでいない。ハーフタイムの終わりには席についていて欲しいんだ」とバルマー氏。ちなみにインテュイット・ドームでは、試合が始まる前と後半が始まる前には、まるでコンサート会場であるかのように席に戻ることを促すアナウンスが流れる。またクリッパーズの試合においては、相手ベンチ側のゴール裏に“The Wall”というクリッパーズ応援席があり、ウィットに富んだ熱烈な応援を繰り広げる。相手チームの選手がフリースローを打つ時には全力で邪魔をするのだが、例えば、眉毛が濃くて長く、繋がっていることから“The Brow”というニックネームがついているアンソニー・デイビス(ワシントン・ウィザーズ)がフリースローを打つ時には、デイビスの顔面と剃刀のボードを掲げ、眉の間を剃る真似をする。またはラメロ・ボール(シャーロット・ホーネッツ)の時には、クラウンのお面で邪魔をした。2024年のハロウィーンにクラウンの大きな人形を階段の入り口に置いてボールを驚かそうとしたところ、見事に悲鳴を上げて驚いた映像がSNSに投稿され、大反響を呼んだところからきている。その他アメリカンジョークたっぷりのアイディアで相手のフリースローを妨げるのだ。
インテュイット・ドームはロサンゼルス空港すぐそばのイングルウッド市にある。バスケットボール界のレジェンド、マジック・ジョンソンやカリーム・アブドゥル・ジャバーら率いる“ショータイム”で賑わったロサンゼルス・レイカーズが1998年まで使用していたアリーナ、ザ・フォーラムがある街だが、当時から決して治安が良い地域ではなかった。
だが2020年には、NFLロサンゼルス・ラムズやNBAデンバー・ナゲッツなどプロスポーツチームを保有するクロンキー・スポーツ&エンターテイメントが、ソーファイ・スタジアムをオープン。同敷地にはコンサートなどができる会場や野外イベントができる施設も備わっている。同スタジアムは、ラムズだけでなく同じロサンゼルスに本拠地を置くNFLチーム、チャージャーズのホームともなり、NFLシーズンは活気に溢れている。2024年6月には、スポーツやアートをその場にいるかのように体感できる没入型エンターテインメント施設“Cosm”も誕生。バルマー氏自身も2020年にザ・フォーラムを4億ドルで買収しており、韓国の自動車メーカー、“起亜(キア)”がネーミングライツを得て“キア・フォーラム”と名称が変わった同会場は、コンサートやスポーツなどさまざまなイベントが行われるインドア会場となっている。
バルマー氏は、ザ・フォーラム買収時「私たちはイングルウッド市への投資にコミットしており、それはこのコミュニティにとってもクリッパーズにとっても私たちのファンにとってもいいことになるだろう」と話した。その後インテュイット・ドームも開業したことで、同市民の雇用をさらに生み出し、人があまり寄りつかなかった同市を、華やいだイメージへと変えた。ソーファイ・スタジアムは、ロサンゼルス・メモリアルコロシアムとともに2028年ロサンゼルス五輪の開会式を行う場で、インテュイット・ドームはバスケットボールの会場として使用されることも決まっており、かつて“ショータイム”として知られた街が再び活性化している。
今回、第75回目を迎えるNBAオールスターがロサンゼルスで行われるのは2018年以来で、都市としては史上最多の7度目。だがイングルウッド市で行われるのは、 ザ・フォーラム で行われた1983年以来。今では最先端の技術が備わったアミューズメント施設が立ち並ぶ地でのオールスターゲームは、フォーマットも40年以上前には考えられなかった内容で行われる。
新たな試みとなる今年のフォーマットは、アメリカ選出選手の中から年齢に基づいて、若手選手によるUSA Starsとベテラン選手で構成されるUSA Stripesの2チームと、オールスターに選出された米国外出身選手によるWorldチームの計3チームで総当たり戦を行い、決勝戦に進出する上位2チームを決める。3チームが1勝1敗で並べば、2試合の得失点差で順位を決めるため、オールスターという楽しさの中にもハイレベルな試合が期待される。
1992年のバルセロナ五輪でNBAのスーパースターを集めた “ドリームチーム” が一世を風靡して以来、バスケットボールが世界で盛んになり、海外のレベルが上がるきっかけとなった。NBAのアダム・シルバーコミッショナーは昨年のNBAファイナル時の記者会見で、NBA選手の約30%が米国外出身選手であることについて言及したが、今回選ばれたスターターにしても、西カンファレンスは5人中4人が米国外出身選手。NBAの年間最優秀選手(MVP)は過去7年連続米国出身以外の選手が受賞するなど、今やNBAは海外のスター選手なしでは成り立たないリーグとなっている。
しかもUSA Stripesでは、パリ五輪で金メダルを得たアメリカ代表のビッグ3、レブロン・ジェームズ(レイカーズ)とケビン・デュラント(ヒューストン・ロケッツ)、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)が名を連ね、USA Starsには、代表チームで最年少ながら活躍したアンソニー・エドワーズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)、東京五輪とパリ五輪の2大会で金メダルを得たデビン・ブッカー(フェニックス・サンズ)、米代表選手として今後頭角を現すであろうチェット・ホルムグレン(オクラホマシティ・サンダー)ら、有望選手が顔を並べる。だが、そのUSA2チームが対戦するWorldのメンバーに選ばれたのは、過去7年のMVPのうち3度受賞のニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ/セルビア)、2度受賞したヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス/ギリシャ)、昨季受賞のシェイ・ギルジャス・アレクサンダー(オクラホマシティ・サンダー/カナダ)、今季のMVP候補の一人と言われるルカ・ドンチッチ(レイカーズ/スロベニア)ら世界大会で各国を代表するスター選手達だ。
NBAは昨季もオールスター3チームに加え、NBA1~2年目とGリーグの将来有望選手らが争う “ライジングスターズ” の優勝チームによる4チームで、40点先取制のミニトーナメント形式にフォーマットを変えた。選手の競争意識を高め、観戦者らがより興奮できることが期待されたが、スポーツビジネスジャーナルによると視聴率は低下したという。そうであれば、すぐに新たな取り組みに挑むのがNBAだ。
バルマー氏をはじめ実力者らが、スポーツやエンターテーメント界でイングルウッド市を変えてきたように、NBAもまたファンが求めるものや楽しめるものを追求し続けていく。
シルバーコミッショナーは言った。「諦めず、革新を起こし、新たなアプローチを探究するのが私の仕事だ」-。
*オールスターに選出された選手の中には、故障により欠場することになった選手もいる。
エンタメ都市へと進化するイングルウッド 2026 NBAオールスターの舞台
米プロバスケットボールNBAのオールスターウィークエンドは、現地時間で今月の13-15日(日本時間14-16日)にロサンゼルスで開催される。
インテュイット・ドーム (C)ZUMA Press