会場となったベルサール秋葉原の周辺には、前回のWBCでも活躍した大谷や吉田正尚(レッドソックス)ら侍ジャパンメンバーのカードを模したオブジェが置かれ、入口では優勝を決めて歓喜に沸く侍ナインのカード風オブジェがお出迎え。1歩会場内に足を踏み入れると、そこには魅惑のベースボールカードの世界が広がっていた。 

 圧巻だったのは大谷のカードコレクションで、海を渡ってロサンゼルス・エンゼルスで新人王を獲得した2017年から、ロサンゼルス・ドジャースに移籍してワールドシリーズ連覇の立役者となったここ2年までの貴重なカードがズラリ。中でも目玉は会場中央のディスプレイに飾られた「2025 Topps Chrome 1/1 Autographed Gold Logoman Patch」と呼ばれるもので、大谷が試合で着用したユニフォームに縫い付けられていた金のバッターマンロゴが封入され、サインも添えられたこの1枚は、オークションにおいて大谷翔平選手のトレーディングカード(トレカ)史上最高額の300万ドル(約4億7000万円)で落札された逸品だという。

大谷翔平選手カード史上最高額の300万ドルで落札されたレアカード(中央)

「本当に大盛況で、我々もとても嬉しいというのが感想です。1万人以上のファンの方がいらして、入場を待つ長蛇の列がいつもできているという状態で、日本のファンは熱意があって本当に素晴らしいなと思いました。(3日間ではなく)もっと長くできたらよかったと思うほどです」

 3月8日まで3日間にわたったイベントを終え、そう振り返ったのはトップスのプレジデント、デイヴィッド・ライナー氏。ベースボールカードの発行を始めて75年の歴史を持つ同社にとっても、日本でこうしたイベントを開催するのはドジャースが日本でシーズン開幕を迎えた昨年の「東京シリーズ」に続いて2回目だという。

「弊社としては、トレカの世界を広げるという点で日本の市場はとても重要と考えています。今回はWBCがここで行われるということで、こうした(ベースボールカードの)イベントを開催することによって日本の野球ファンやカードコレクターを喜ばせることができるんじゃないかと考えました。我々が目指しているのは日本でトップスのブランディングを強化し、カードコレクションを広めていくこと。昨年の東京シリーズもそうだったんですが、WBCもそのいい機会ではないかと思いました」 

 ライナー氏自身、幼い頃から応援していたシカゴ・カブスでジェローム・ウォルトンが新人王に輝いた6歳の頃に、ベースボールカードの収集に目覚めたというコレクター。1994年のMLB選手会ストライキを機に気持ちが離れたこともあったものの、2001年にイチロー(マリナーズ)らが彗星のごとく現れたのを機に情熱を取り戻し、現在は大谷のルーキーカードやサインカードなどもコレクションしているという。

「2018年にショウヘイが弊社と契約した際は私も立ち会ったのですが、それはとてもスペシャルな経験でした。本当に興奮しましたね。彼のカードを買うようになったのはその頃からです。当時は今のようなスーパースターではなかったのでカードも安い値段で買えたんですけど、今はとても高い(笑)。まだ31歳とまさに全盛期なので、今後数年はもっとやってくれるでしょう。非常に楽しみですね」

 昨年は史上初となる4度目の満票でMVPを受賞し、米スポーツ専門局ESPNの現役選手ランキングで堂々の1位に選ばれるなど、メジャーリーグでも文字どおりNo.1プレーヤーとなった大谷。8年前にトップスとの契約に立ち会った際、ライナー氏にそんな未来は予見できていたのだろうか? 

「正直に言ってここまでのレベル、つまりベースボールの歴史でも最高といっても過言ではないほどの選手になるとは想像もできませんでした。素晴らしい選手になるだろうし、オールスターにも出るだろう、MVPも獲るかもしれないとは思っていても、これまで彼が成し遂げたことを見たら…。『そんなのわかってたよ』と言えたらいいですが、とてもそんなことは言えません(笑)。才能があるとは思っていましたし、野球に対する姿勢や謙虚さも素晴らしかった。それでもこんな未来は想像できませんでした」

 ライナー氏だけではない。日米の野球ファンに現役選手、OB、解説者など、見る者すべての予想を超えたと言ってもいい大谷の活躍は、ベースボールカードだけで年間10億ドル(約1580億円)を超える収益を誇るトップスにとっても実に大きなものだという。

「彼の活躍には、トレカ事業においてかなり大きな経済効果があります。アメリカもそうですが、ここ日本を含め世界的な規模で我々のビジネスを押し上げていますし、店舗、オンラインなどあらゆるカテゴリーで売り上げの促進につながっています。彼には今後も投資していく方針です」

 今回が日本初披露となった「300万ドルのカード」をはじめメジャー移籍後の大谷のレアなカードに、第1回大会から手がけてきたトップスならではの歴代WBCカードなどがズラっと並び、青木宣親氏や五十嵐亮太氏といった元メジャーリーガーが代わる代わるトークショーで登壇するなど、大盛況のうちに終わった「トレカ応援祭」。ライナー氏は今後もこうしたイベントを積極的に行い、日本での事業を拡大していきたいと力を込める。

「我々は昨年、スターウォーズ・セレブレーション(ジャパン)や東京コミコンでも出展しましたが、日本には野球に限らず世界でも最高のファンがいます。1億3000万人もの人々が住んでいるこの市場には、カード収集やそのコミュニティを広げるチャンスがあると考えています。そのために長期的な視野を持って重点的に投資を行い、日本の皆さんを喜ばせていきたい」

 それにはやはり“稼ぎ頭”である大谷の活躍は不可欠。WBC1次ラウンドでは3試合の出場で打率.556、2本塁打、6打点、OPS2.025と打ちまくったが、米国・マイアミで行われる準々決勝ラウンドおよび決勝ラウンド、さらにMLBの2026年シーズンに向け、そのバットに熱視線を送っているのはファンだけではなさそうだ。

トレカファンで賑わうイベント会場
菊田康彦

著者プロフィール 菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。