一方で、プロスポーツ団体としての相撲協会を支えるのは、土俵の上の熱気だけではない。力士や親方衆、スタッフの「健康」を守るという、目に見えない土台。現在、協会員の健康管理を支えるオフィシャルパートナーを務めるのは、線虫がん検査「N-NOSE」を展開する株式会社HIROTSUバイオサイエンス(以下、HBS)。
今回、実現した八角理事長と、HBS代表取締役CEO・広津崇亮氏による対談。そこに見えるのは、分野は違えど、組織の存立を揺るがす逆風に抗い、信念を貫いてきた二人の「闘い」の記録。スポーツ団体を支えるスポンサーシップの、真の価値がここにある。
15歳の覚悟と、組織の存続を賭けた「忍」の一字
八角理事長の原点は、15歳での入門時。当時は先の展望など見えぬまま、ただ「やるんだ」という一心で稽古に明け暮れた日々。十両昇進を掴むまでの4年間は、己の限界と向き合い続けた過酷な時間。理事長は振り返る。「何年かけても関取になりたい。何年も努力しなければならないという覚悟は、その時にあった」と。
この不屈の精神は、理事長就任後の荒波においても発揮された。八角理事長が就任した2015年以降角界は依然として過去の不祥事の残響に揺れ、組織のあり方が厳しく問われていた。相次ぐ親方や力士の不祥事や暴力問題、さらにはコンプライアンスの徹底を巡る組織内部の軋轢。内容を把握、理解していない感情に流されるだけのマスコミや世間からの猛烈な批判。その真っ只中で、理事長を突き動かしたのは「先輩たちが残した伝統を、後輩たちのためにしっかりと残していく」という、私利私欲を捨てた使命感であった。
「自分は主役ではない」と言い切り、次代のために泥をかぶってでも道を整える。この八角理事長の「忍」の姿勢。それは、不祥事の歴史を乗り越え、ガバナンスを徹底し、今日の「満員御礼」へと組織を再生させたリーダーとしての究極の境地。
誹謗中傷と内部不正――科学の革新を阻む壁との戦い
この「闘う姿勢」において、広津代表もまた、壮絶な経験を共有している。線虫の嗅覚に着目し、世界初の技術を発明してから10年。その歩みは、輝かしい成功だけではなかった。
唯一無二の発見と技術を社会に実装する過程。そこで直面したのは、心ない誹謗中傷、そしてあろうことか退職者による不正。革新的な技術であればあるほど、既存の枠組みからの反発や、私利私欲による妨害を受ける。広津代表は、多大なる苦労を強いられながらも、技術の正当性を証明するために戦い続けている。
そして2026年、大きな転機が訪れる。内部不正者に対する刑事告訴を経て、書類送検に至ったという公表。ようやく一区切りをつけ、本来の「科学による社会貢献」へと再び全力を注げる環境を取り戻した。科学の世界における不正との戦い。それは、相撲協会が過去の膿を出し切り、組織の清廉性を守り抜こうとした姿と重なり合う。
談笑する日本相撲協会八角理事長(右)とHBS代表取締役CEO広津崇亮氏「早期発見」が守る、力士の未来と組織の継続
スポーツ界において、選手の健康管理は最大の命題。特に力士は、その屈強な体躯を維持するための特殊な生活習慣があり、独自の健康リスクと隣り合わせ。八角理事長は、かつて病に倒れた仲間たちを思い、静かに語る。「少しでも早く見つかっていれば、まだ頑張っておられたであろう人はたくさんいる」。
がんという病。自覚症状が出た時にはすでに進行しているケースも少なくない。特に早期発見が困難とされる「すい臓がん」や「肝臓がん」。HBSが開発を推進する特定がん検知技術は、プロスポーツ界に大きな福音をもたらす。
対談では、最新の検体提出システムについても言及。発明から10年、「自宅で採取し、常温でポストに投函する」という利便性を確立。本場所や巡業で全国を飛び回る力士たちにとって、病院へ行く時間を捻出するのは至難の業。全国のポストを利用できるこの仕組みこそ、現代のアスリートが真に求めていた「命を守るインフラ」。
スポンサーが提供する「技術」が、直接的に選手の生命線を守る。これこそが、現代におけるスポーツ支援の理想的な結実。
変えてはならないもの、変えるべきもの
対談の終盤、二人が語り合ったのは「変えないこと」の難しさと大切さ。伝統を守るとは、ただ古い形を維持することではない。時代に合わせて形を変え、膿を出し切りながらも、根底にある「魂」をいかに守り抜くか。
「売ろうという気持ちが先に出ると、いいものはできない。世の中の人を救おうという思想が最初になければ、続かなくなる」
広津氏のこの言葉。ビジネスの枠を超えた「科学の使命」の表明。大相撲が「100年先も愛される国技」であるために。そしてHBSが「がんを早期発見できる世界」を実現するために。両者が共有しているのは、目先の利益ではない、未来に対する重い責任感。
スポンサーとは、単なる広告主ではない。共に逆境を乗り越え、未来を創る「同志」。今回の対談を通じて浮き彫りになったのは、日本相撲協会とHIROTSUバイオサイエンスが築き上げた、強固な信頼関係。力士たちが安心して土俵に上がり、私たちがその勇姿に熱狂できる日常。その裏側にある、不祥事や不正という影を払い除け、伝統と革新を守り抜いた男たちの情熱。それらは今日も、未来へと力強く脈打っている。