#日本相撲協会
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相撲
失われる幕内最高優勝の価値~白鵬の引退とスイスドローの限界
もはや異変だ。1月の大相撲初場所は西前頭筆頭の大栄翔が初優勝を飾った。これで昨年以降実施された6場所のうち、平幕力士が賜杯を手にしたのが、半分の3場所となった。白鵬、鶴竜の両横綱は休場が目立ち、出場している上位陣には安定感が欠如。相撲界の根幹には番付があり、世界的に見ても屈指のランキング社会だ。誰が制してもおかしくないという状況は、独自の秩序が揺らいで幕内最高優勝の重みが薄れているという嘆かわしい側面を併せ持っている。
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相撲
相撲界の覇権争いとリーク合戦 ~不祥事で浮き彫りになる角界地図
感動を呼んだ元大関照ノ富士の復活優勝から一転、大相撲7月場所後の角界についての話題は幕内阿炎の処遇で持ち切りとなった。新型コロナウイルス感染予防に関する日本相撲協会のガイドラインに反し、外出して何度も会食していたことが発覚。一部では阿炎の引退が確定的との先走った報道も巻き起こるなど過熱状態に陥った。師匠の責任などを含め、異例の騒動に発展した問題でさまざまなひずみが浮かび上がった。
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相撲
屈辱と人種差別騒動に耐え忍んだ照ノ富士の復活劇 ~師匠への“恩返し”
始まりは、まだ浪速の街に肌寒さの残っていた昨年の3月10日だった。エディオンアリーナ大阪で行われた大相撲春場所初日。観客のまばらな午前中、元大関の照ノ富士が序二段の土俵に立っていた。5場所連続休場から復帰。ここが出発点となり、先の7月場所での〝史上最大の復活優勝〟へとつながった。想像を絶する番付降下から人間的な成長、新型コロナウイルス禍など、絡み合ったさまざまな糸。快挙の裏側を探った。
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相撲
術後の経過を生配信。元大関琴欧洲の鳴戸部屋が斬新なTwitterライブに挑戦
ファン、サポーターとの新たな接点を見出そうと、各スポーツチームがアイデアを絞っている。角界も例外ではなく、元大関琴欧洲が親方を務める鳴戸部屋からは、6月13日に緊急事態宣言後初のTwitter ライブが配信された。練習風景や過去の取組を配信する部屋が多いなか、この日の鳴戸部屋から配信されたのは“ライブ往診”だった。
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相撲
双葉山に通ずる豊ノ島の逆転着想 ~常識とらわれず時代彩る
大相撲夏場所が新型コロナウイルス感染拡大の影響で開催を不安視される中、土俵を沸かせた人気力士がまた一人、土俵を去った。元関脇で36歳の豊ノ島。4月17日に引退が発表され年寄「井筒」の襲名が決まった。身長は約170㌢と、力士としては小柄ながら三役を通算13場所務め、三賞を計10度獲得するなど活躍。2010年九州場所では横綱白鵬と優勝決定戦を演じたこともある。奮闘の原動力となったのは、小さい体を武器にするという逆転の発想。多彩な思考で土俵と向き合い、身長を言い訳にしないどころか前向きに捉える生きざまは、偉大な先人に通ずる。鮮やかに時代を彩った相撲巧者だった。
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相撲
高砂部屋の伝統が支えた新大関朝乃山
拡大する新型コロナウイルス禍にあって、3月の大相撲春場所が無観客ながら15日間完遂されたことは、ミラクルの形容がふさわしい。日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)が初日と千秋楽の協会あいさつで触れたように、静かな館内で黙々と力士が四股を踏み、取組を務める姿は、大相撲の神事的な側面を再認識させた。場所後には26歳の朝乃山が新大関になった。今回の昇進劇はいつにも増して、単なるスポーツではない、伝統文化としての大相撲を感じさせるストーリーへとつながっていた。
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相撲
無観客の大相撲大阪場所が示す一つの方向性~成功の陰に隠れた危機
3月22日日曜日に白鵬の44回目の優勝で幕を閉じた大相撲大阪場所。 事前のチケット販売は順調でほぼ完売。そんな状況の中新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、史上初の無観客による本場所が開催された。
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相撲
調整能力がカギとなる“荒れる初場所“~徳勝龍の偉業と時代の変化
大相撲で〝荒れる〟との形容詞で表現されるのは、3月に大阪で開催される春場所と相場が決まっていた。番付で下位の力士が上位を倒す波乱が多いとされるためだ。しかし近年、異変が起きている。1月の初場所で、幕内で最下位の西前頭17枚目、徳勝龍がサプライズ初優勝を果たした。これで初場所は5年連続で優勝未経験の力士が制覇した。もはや〝荒れる初場所〟の様相を呈している。
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相撲
2019年大相撲を振り返って~世代交代を考える
2019年の大相撲界は「世代交代」というキーワードで語られてきた。貴景勝が3月の春場所後に22歳で大関に昇進し、5月の夏場所では25歳の朝乃山が初優勝と、次世代勢力の伸びがあった。ただ、幕内優勝力士を見ると白鵬2度、鶴竜と玉鷲が1度ずつと年6場所のうち4場所で30代が賜杯を抱いた。3場所はともに現在34歳の両横綱で、若手から中堅とされる力士たちが最高位の牙城を崩すまでには至っていない。
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相撲
相撲巧者の情熱家 ~角界に愛された井筒親方を偲んで
あふれ出る人間味に勝負師としての厳しい雰囲気。大相撲で元関脇逆鉾の井筒親方が9月、急逝した。享年58歳。元関脇鶴ケ嶺の先代井筒親方を父に持ち、兄の元十両鶴嶺山、弟の元関脇寺尾とともに〝井筒3兄弟〟として脚光を浴びた。色白で胸を張った立ち姿は力士としての色気を漂わせる一方、横綱を倒して思わずガッツポーズをしたり、一度立ち合い不成立とされた後で審判長をにらみつけたり。やんちゃな一面も憎めず、ファンの心をつかんだ。現役引退後は指導力を発揮し、横綱を輩出した。色紙にサインを求められれば、好んでしたためた文字は「情熱」。本人いわく「何事もパッションは大事だからね」。個人的な印象として、まさに〝情〟の人だった。
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大相撲
貴乃花とは何だったのか~メディアがおもちゃにした大横綱の人生(前編)
世間の話題をさらった日馬富士暴行事件から始まった貴乃花騒動、そして日本相撲協会からの電撃退職。あれからまもなく1年になる。秋場所が開催されている今月、またもや元貴乃花部屋の力士たちが土俵外で話題を振りまいている。大関から陥落した関脇・貴景勝の反社タニマチ疑惑。十両・貴ノ富士(元貴公俊)の付け人への暴行。これに至っては去年春場所、当時の親方を窮地に追いやった事件からわずか1年半後の暴挙だった。この2つの問題は師匠・貴乃花からの影響を消し去る事ができない弟子たちが起こすべくして起こしたものだといえるだろう。
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相撲
トランプ大統領騒動記、実は柔軟だった相撲協会
大相撲夏場所は25歳の朝乃山の初優勝で話題を呼んだが、同様に世間の関心を集めたのが、トランプ米大統領による5月26日の千秋楽観戦だった。表彰式ではトランプ氏が土俵に上がり、じきじきに朝乃山に新設の「米国大統領杯」を手渡した。超VIPの来場で運営面に影響が生じて批判も起きたが、大局的に振り返ると一つの見方として、政府側のさまざまな要求を受け入れ、国賓を無事に歓待した日本相撲協会の懐の深さという点にも行き当たる。国難や不祥事、経済不況など何度も逆境に陥りながら国技を脈々と受け継ぐ相撲協会。とかく閉鎖的との印象もあるが、地道な改革を繰り返しながらビジネス的にも優良さを維持している。その裏には柔らかな組織論が垣間見える。