世界屈指の守備職人として活躍する冨安は、2021年からイングランド・プレミアリーグの名門アーセナルに移籍。いばらの道に飛び込んだが、度重なるケガに悩まされた。25年2月には右ヒザを再度手術して長期離脱。歩行から始めたリハビリ期間時にアーセナルを退団するも、25年末からはアヤックスに加入した。26年2月にはアヤックスで実戦復帰を果たすと、約2年ぶりに日の丸に袖を通した。

 1―0で勝利した国際壮行試合のアイスランド戦(5月31日、MUFG国立)では、先発出場して後半38分までプレー。「しっかりずっと練習もできていたので、そこの積み上げはあるかなと思っていた」と手応えを口にした。ただ、ピッチに立って気付いた課題もあった。「攻撃でもう少し律(堂安)とかタケ(久保)とかのところをシンプルに使うとか、彼らはクオリティーがある選手なので、もっと気持ち良くプレーさせることができればよかった」と分析した。

 悲願の8強入りが懸かる日本代表は2日に出国。3日(日本時間4日)からは事前キャンプ地のメキシコ・モンテレイで練習を開始した。本番ムードが高まる中で、アシックスジャパン株式会社は冨安選手の応援キャンペーンを企画。公式X上では多くのファンから応援メッセージが寄せられ、抽選で冨安選手のグッズが当たる企画にも多数の応募が集まった。また、発表会後に開催された一般参加型イベントでも、多くの来場者が応援メッセージを寄せるなど、復活を遂げた冨安選手へ熱いエールが送られた。

復活を遂げた冨安選手へ、多くの来場者から応援メッセージが寄せられた

 同社は23年から冨安とアドバイザリースタッフ契約を締結。担当者は「当社製品が冨安選手から高い評価と信頼を得ていること、かつ同選手が持つアスリートとしてのビジョンや価値観が当社の企業理念と一致していることから実現しました」と一連の経緯を明かす。冨安は商品開発のアドバイスや広告活動にも参画しており、直近ではサッカー用スパイクシューズ「JETRAY ELITE(ジェットレイエリート)」を6月下旬から販売する。冨安は「一瞬の判断や動き出しが試合の結果を左右するのがサッカー。試合の中で、繰り返しスプリントすることが求められる状況において、軽量性と耐久性を兼ね備えたシューズは欠かせない。加速のしやすさと安定感があるので、プレーに集中することができる」と太鼓判。同社と冨安が意見を重ね、最高の一足をつくり上げた。

 冨安をサポートする同社は、応援キャンペーンの盛り上げ活動も実施。4日は都内で元日本代表DF中澤佑二氏と名門・市立船橋高サッカー部出身のお笑いコンビ「ペナルティ」のワッキーを招いてイベントを開催した。ワッキーは「全部出せ!!」とのメッセージを添え「W杯が全てではないけど、サッカーをやっている限りはそこを目指す。今回は優勝を掲げているので、全部出さないと優勝できない。だから全員、全部出せと思っている」と熱いエールを送った。

イベントに登壇し、冨安選手へ熱いエールを送った芸能界きってのサッカー芸人として知られるペナルティのワッキーさん

 40歳で現役を退いた中澤氏は、メッセージが持つ力の大きさを肌で実感した1人だ。現役時代の晩年は慢性的なヒザの痛みと戦う日々。不安や孤独と向き合う中澤氏のパワーとなったのは、ファンからの温かい言葉だったという。

 「僕がリハビリをしている時にグラウンドに見に来たファンの方が『中澤選手頑張ってください』や『復帰はいつですか』などと声を掛けてくれた。そういうたわいもない会話やエールで心を励まされる部分が大きかった」と回想。当企画が冨安の背中を後押しすると確信しており「今はSNSを通して送れるエールもある。冨安選手もそういったエールに支えられた部分も大きいんじゃないかな」としみじみ語った。

 その中澤氏は06年ドイツW杯、10年南アフリカW杯で「22」を背負ってプレー。14年ブラジルW杯、18年ロシアW杯、22年カタールW杯はDF吉田麻也(LAギャラクシー)が「22」を引き継ぎ、今大会は冨安に「22」のバトンが託された。

 日本代表は守備の要が代々W杯で「22」をつけてきた。「22」の重さと偉大さを知る中澤氏は「世界のトップと戦っている冨安選手につけてもらえるのは逆にありがたいと思っている」と感謝。さらに「前の人の(背番号の)イメージが強いとつけられない選手も多いけどつけてくれた。これから子供たちを含めて、サッカーを始めようとしている人に『22』が冨安選手の背番号(のイメージ)となって、新しいページをこれからつくってほしい」と期待を寄せた。

日本代表の先輩として、自身の経験なども踏まえながら、冨安選手への期待を口にした中澤佑二さん

 1次リーグF組の日本はオランダ(14日=日本時間15日に行われ2-2の引分け)、チュニジア(20日=同21日)、スウェーデン(25日=同26日)と相まみえる。グループリーグを勝ち抜くためには冨安の守備力が必要となる。

 中澤氏は「日本でも歴代最強と言われるディフェンス」と大絶賛。その上で「DFだったらどこもできる。1対1は100%の確率で勝てるので、森保(一)監督の中では絶対に冨安選手を(DFの)どこに置こうかなって考えると思う。今までの日本は強いFWがいたら2人、もしくは3人いないと勝てなかった。でも冨安選手は1対1で止めるので、他のFWに(日本の)選手を回せる」と力説した。

 22年カタールW杯は決勝トーナメント1回戦でクロアチアにPK戦の末に敗戦。数々の苦悩を乗り越えた冨安は、今大会でリベンジを目指す。「ここまで(同社に)サポートしていただいて感謝している。サッカーができていることに感謝しながら、苦しんだ時間も忘れずに振り返りながら、何よりも楽しんでサッカーしたい」。ファンからのメッセージが、サッカー界の歴史を塗り替える良薬になるはずだ。


中西崇太

著者プロフィール 中西崇太

1996年8月19日生まれ。愛知県出身。2019年に東京スポーツ新聞社へ入社し、同年7月より編集局運動二部に配属。五輪・パラリンピック担当として、夏季、冬季問わず各種目を幅広く担当。2021年東京五輪、2024年パリ五輪など、数々の国内、国際大会を取材。