見えざる敵
例年にないほど早く流行期に突入したインフルエンザ。ニュースでも伝えられたが早期のワクチン接種を医療機関は呼びかけていた。そんな折、立教大学はインフル禍に見舞われてしまった。野球部員数名が感染し、主要メンバーの道本想投手(1年・星稜)、落合智哉捕手(4年・東邦)も罹患。法政との2回戦が行われた9月22日の夜に発症し、寮内では隔離措置がとられた。翌週の慶應1回戦では主戦投手、主将で正捕手というチームの柱を欠いた苦しい戦いを強いられた。
主将として
「隔離の5日間が明ける前に試合に出たいと直訴したんですがダメでした」欠場した試合は動画配信で仲間の奮闘を応援していた落合智哉主将。症状が改善しキャプテンとしての責任感からの行動だったが首脳陣の許可は下りなかった。主将であり、捕手であり、文字通りチームの中心。今季、対戦校だけではなく見えざる敵とも戦わなければならなかった苦悩を筆者は尋ねた。「チームとして良い結果を残さないといけないし、個人としても打たなければならない。またドラフトのこともあったので、色々な考えが頭を巡りました」22歳の若者が背負った現実は想像以上に重かった。
満塁本塁打
東大1回戦は主将の豪快なグランドスラムが1回の裏に飛び出し猛打ショーの幕開けを告げた。相手エース・松本慎之介投手(3年・國學院久我山)から放ったレフトへの一撃は試合の趨勢を決めてしまうほどのインパクトを残した。「打った瞬間『行った!』と思いました」手応え十分の本塁打を振り返りつつ、「打ったボールはよく覚えていないんですけど、多分スライダーかな」カウント1―2と追い込まれながらファウルで粘り8球目を仕留めた。一切の雑念を払い極限まで集中力を高めた結果の一打であったことがうかがえた。落合選手の一発が呼び水となり16安打15得点。いずれも今季最多を記録し15―3で快勝した。
首位打者へ
翌10月11日の2回戦も6―1で連勝、今季初の勝ち点を挙げた。前日、満塁弾を含む4安打5打点の落合選手は2回戦でも2安打をマーク。第5週終了時点で打率は.450となり首位打者へ向けひた走る。立教所属選手の首位打者となれば2025年秋、山形球道選手(三冠王達成/現・明治安田)に次いで歴代24人目の快挙、また捕手となると2020年秋、竹葉章人選手(立教―現・Honda熊本)以来6年ぶりとなる。かつて弱小だったヤクルトスワローズを日本一へと導き、自身も現役時代、捕手としてNPB史上唯一の三冠王となった名将・野村克也さんは「捕手は肉体的、精神的な疲労に晒される。頭も体も極限まで消耗するため打撃だけに集中する事が出来ない。だから捕手が首位打者を獲るのは想像以上に大変なこと」と話していた。そんな逸話から、捕手として首位打者を獲得することを意識しているか尋ねた。「いや、特に意識はないです。獲れたらもちろん嬉しいですけど、一打席一打席大事にやっていきたいと思います」自分のスタンスを積み重ねた先に結果はついてくる。いかにも捕手らしい冷静な受け答えだった。ただ、「捕手では竹葉選手以来6年ぶり」と水を向けた時、一瞬背筋が伸びたように感じた。もしかしたら立教で同じポジションの先輩に肩を並べられる喜びがあるのかもしれない。打席ではキャッチャーとしての読みを活かすのか?反応で打つのか?筆者の問いに「読みですね」と答え、自らの長所を強調した。「球種までは当たらなくても真っ直ぐか変化球かは当たってます」打率.450は伊達ではない。
打棒復活に仲間の力
春は打撃で苦しんだ。前年秋は.356でベスト10の第9位と活躍したが、新キャプテンとして迎えた2026年春は.167と成績が落ち込んだ。「春は不調を脱するために形を求め過ぎて、崩されたくないと完璧を求め過ぎた。そこで全体練習が終わった後に毎日、学生コーチに200球ほど投げてもらって打ち込みを続けてきました。形よりボールに対してしっかり対応していこうと取り組んできた。いまは崩されてもヒットが打てているのでそれが活きてるのかなと思います」チームの主将、扇の要、精神的支柱。一人何役もこなす中で見失いかけた打撃の原点。投手のボールにしっかり対応する、ここに立ち返ることで秋は見事に復調を遂げた。東大1回戦で放った自身リーグ戦初の満塁弾。東大・松本投手の緩いスライダーに少し体が前に突っ込みながら左足で踏ん張り体重を残すことでフルスイングをかけられた技ありの一打であったことが成果を雄弁に物語っていた。木村監督も「居残り練習の成果が出ているのかなと思います。投げてくれた同期も彼の活躍を見て喜んでいます」とチームの総力を挙げてのサポートが主将のバットを蘇らせたことを強調した。
ドラフトへの想い
既にプロ志望届を提出。今月22日に行われるプロ野球ドラフト会議で運命の瞬間を待つ。今年は青山学院の渡部海捕手、明治の福原聖矢捕手、亜細亜の前嶋藍捕手と同じポジションのライバルは多い。「本当にいいキャッチャーが多い世代なんですけど、自分はスローイングでは負けない自信がある。そこをアピールしつつ打率も残していけたらいいなと思います」高校時代から彼の強肩は愛知県下に轟いた。立教進学後もリーグ戦では6~7割は阻止している(本人談)という。スローイングタイムは1.8秒。強肩に一流の目安となる送球タイムが掛け合わされて生まれた自信を胸に夢の扉の前に立つ。「実は足にも自信があるんです。50mは6.1秒くらい。そこもアピールポイントです」東大2回戦でも2盗塁を決め、身体能力の高さを実証した。打てて守れて走れる捕手。筆者は2022年に捕手として20―20を達成したフィラデルフィア・フィリーズのJ.T.リアルミュートの名が頭に浮かんだ。
新チームへの想い
「僕らの代は下級生が多く出ているので、なんとか勝ちに向かう姿勢を受け継いで来年優勝争い出来るチームになって欲しい」リーグ戦後に始動する新チームへの想いを語った後、落合選手は一人の名前を挙げてこう締めくくった。「小林隼翔(3年・広陵)もいるので本当に来年、優勝争いにしっかり絡めるチームになって欲しい。あいつの活躍次第で立教が勝つか負けるかが決まるくらい背負っていかなくてはいけない選手だと思うので、プレッシャーにはなると思いますがやってもらいたい」1年春に神宮デビューを果たし、以降、主力として共に戦ってきた1学年下の後輩。恐らくは背番号10を受け継ぐであろう小林隼翔選手へ惜別のメッセージとも受け取れた。数々のレジェンドが袖を通したピンストライプのユニフォーム。立教大学野球部の一員となれたことに誇りを持ち、その想いを伝統として次の世代へ安心して託せるように。今週末の早稲田戦、最終カードの明治戦へ気持ちを引き締める。「勝てるようにしっかり対策して、最後まで自分たちの野球がしたいです」前を見据えた表情に主将として最後の役目を果たす決意が滲んだ。残り2カードで有終の美を飾るべく、勝ち点2を全力で奪いにいく。