【第三回】川淵三郎×池田純。2人の革命児が語るスポーツエンターテイメントの経営と未来

川淵三郎氏と池田純氏の対談も第3回目を迎え、いよいよスポーツの未来を語り出す。2人が体験したアメリカでの事例から、日本スポーツ界への提言が始まる。

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インタビュー=岩本義弘、撮影=新井賢一

音楽とスポーツのコラボはウイン-ウインの関係になれる

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池田 マジソン・スクエア・ガーデンはすごくよかったですね。あの周りには、いろいろなレストランがあるし、バスケットボールもやっていて、四六時中イベントをやっている。僕はビリー・ジョエルを見に行ったんですよ。すごく音がいいし、照明もいい。あそこでスポーツを見てもすごいじゃないですか。

川淵 そうなんだよ。それでね、マジソン・スクエア・ガーデンは年間400回の興行を確保しているって言われた。「え、365日のうち400回?」と言ったら、NBAのニューヨーク・ニックスの公式戦が年間41試合、NHLのニューヨーク・レンジャースもそこがホームなんだよね。その他にもアメリカにはラクロスだとかいろいろとリーグ戦があって、その上でボクシングに、プロレスなどがある。そして、音楽などのエンターテインメントをやる。

なぜそれだけ多くの興行をできるかというと、アイスアリーナがボタン1つでバスケットボールのコートに変わるんだよね。だから、1日2回の興行ができるわけ。日本の場合には、それを準備するための設営日があるから、何百万円か余計にお金がかかる。例えば、有明アリーナや埼玉スーパーアリーナでバスケットボールの試合をやらせてくれと言ったら、その準備のための運営費として何百万円かかかったりする。

代々木体育館ですら、そうなんだよ。1回の興行をやると1千何百万円だとかで入場料収入とでトントンにしかならなくなり、スポーツ興行のほとんどが成り立たないんだよね。音楽の興行はスポーツの興行よりも多くのお客さんを入れられて、高い入場料金でイベントを見せるから十分にペイできるわけだよ。さらに、彼らはグッズ類でももうける。実は、音楽業界とスポーツ業界がコラボすることでウイン-ウインの関係になれる。今回はそれが初めてわかった。

日本のアリーナの現状

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川淵 いろいろ調べたら代々木体育館はだいたい年間126日間をスポーツで使っていて、203日間がスポーツ以外のイベントをやっていると言う。スポーツが最優先じゃないのかと言ったら、東京都の条例でスポーツを最優先で使わせている。その上で、要望が126日間分しかないということじゃなくて、いろいろな競技の使いたい日が重なっていると言うんだよ。だから、126日間になってしまうのは仕方がないこと。しかし、その残りを音楽業界が使うことで黒字になるという仕組み。

一方で、横浜アリーナを調べたら年間で1日だけ神奈川県のマーチングバンドフェスティバルとかに使う以外は、すべてが興行イベント。今は、渋谷公会堂や中野サンプラザが工事していて会場がなく集中して横浜アリーナが来るから、去年は8億円くらいの純利益を上げている。埼玉スーパーアリーナもスポーツをいろいろやらせながらも、だいたい1億円、最低でも5000〜6000万円の黒字を上げている。そうするとスポーツ業界にとっては、別に365日間を全部使うわけじゃないから、自分たちが使わない日に音楽などのいろんなイベントをやってもらって、管理費、運営費、その他をカバーしてもらうことでアリーナは成り立つんだよ。

そういう意味では、今度の有明アリーナを一番作りたがっているのは、音楽業界じゃないかって思い立って、「誰が中心になってやっているのか」「音楽業界の人を探せ」と言って探した。それが一般社団法人コンサートプロモーターズ協会の中西健夫会長だった。お互いある会の理事で、前から知った仲だったんだけどね。聞いてみたら、「今度の有明を作ってもらわなくちゃ困るんですよ」と、「東京には箱が全くない」と言われた。会場不足で日本から海外に出て行かないといけないし、ヨーロッパやアジアの人がエンターテインメントをライブですごくやりたがっているのに、日本でやるところがないから断っているんだとかで、半分も需要が満たされていない。

だから、「何とか作れるように一緒に協力してやりましょう」って初めてなった。音楽界がアリーナを一番欲しがっているんじゃないかって思っていたら、本当にそうだった。これをきっかけにして、コラボしながらやっていけば、日本中にかなり増えていくんじゃないかな。

組織的なコラボレーションへ

池田 私も横浜スタジアムの買収が終わってから、音楽業界の方からお話をいただきました。アーティストの「秦基博」さんとコラボして、野球のイベントと音楽のコンサートでお互い集客したり、イベントを作ったりしながらやっていました。その他にも、「湘南乃風」に野球のイベントでミニコンサートをやってもらい、彼らのハマスタでのライブと野球を連携させたりしました。その連携の一環で、横浜市中にベイスターズの野球選手と湘南乃風が一緒に写っているポスターを出しました。野球も年間72試合しかホームゲームがないので、一般的に考えると、それ以外の日程はスタジアムを活用可能な部分も多いんですよ。そういうコラボができるので、ハードを持つとビジネスのあり方が変わってくる。

川淵 うん。組織的にお互い理解し合って、これだけの日数を提供するから、あなたの方はこうしてほしいってなるといい。今度、1万人収容のアリーナを沖縄市長が作ると言ってくれている。プロバスケットでは年間、多くみても40~50試合くらいしかできないわけでしょ。だから赤字の覚悟はしているんだろうけど、そこでどうしたらライブのエンターテインメントやれるのかということを考えないといけない。沖縄というのは特殊な地域だから、いろいろなことをできるんじゃないかってね。それを中西さんに振ることで、「それは願ってもない話だ」っていうことになるに違いない。

そういうコラボを積極的に図っていければと思っている。今回の有明アリーナ問題は、僕としたらラッキーだなって思っている。NBAは1万5000人〜2万人収容できる箱をみんな持っているわけですよ。お客さんがたくさん入らないと、選手にも高給をあげられない。今は人気がなくても人気を出すためには、そういう入れ物がない限りお客さんは集められないからね。日本の考え方というのは、今は3000人しか入らないから3000人のコートで十分だっていう考え。バカげているよ。

日本のスポーツエンターテインメントは経験が足りない

池田 日本にスポーツ経営をやった人が、あまりにも少ないからじゃないかと思います。

川淵 いないよ、全然。だから、何も知らないんだよ。

池田 しかも、スポーツ経営をやった人たちからの発信がすごく少ない。私も経営者になったときに、勉強する本もなかったんですよ。だから、自分で手探りで1からやっていくしかなかった。なので、来年の4月に文藝春秋さんと一緒に、「スポーツ経営の教科書」も作ることになりました。経営をした人がなかなかいない。今回から私はJリーグ、サッカーにも関わらせていただきますが、複数のスポーツをまたいで経営された人、ビジネスに関わった人は正直なところ川淵さんくらいしかいらっしゃらないじゃないですか。そういう「スポーツビジネス」人間がもっともっと増えていかないといけない。興行だけわかっていてもダメで、スポーツもエンターテイメントもビジネスもわかってないといけない。

川淵 例えば、とりあえず1万5000人が入る競技場さえあれば、最低でも経営は成り立つ。それを確保しない限りはJリーグのクラブとして認めないという条件をつけた。バスケットの場合は5000人収容のアリーナと言ったんだけど、そういうことがわかってない。2000人しか入らない体育館で満杯にしてどうするのって話だよ。そんなのでプロとして成功すると思っているのかってね。そこのところからわかってないんだよ、本当に。そういう集客努力をして、なかなか集まりませんというときもある。例えば、車の会社を作った。営業に「車1台売れなきゃ給料がもらえないよ、車をともかく売ってこい」って言われて必死になって車を売るのと同じように、チケットだって必死に売るものだろう。日本のプロスポーツ界はいろいろ努力したけど売れませんとなったときに、「だからお前の給料はゼロだよ」って言われないんだよ、今までは。チケットを売るという努力を死に物狂いでした経験はあまりないんだよね。Bリーグではそれをやれと言っているんだ。

【第五回】川淵三郎×池田純 スポーツエンターテイメントの経営と未来

日本バスケットボール界を統一した川淵三郎氏がその苦労を話し、池田純氏が聞き手としてその未来を尋ねた第5回。Bリーグが進むべく未来とは——

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岩本義弘

サッカーキング統括編集長/(株)TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者/(株)フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。 国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。