文=川端暁彦

安価で契約される大卒Jリーガー

「112:50:36」

 J1リーグ開幕戦でスターティングメンバーとしてピッチに立った選手が18チーム合わせて198名と言うと、冒頭の数字の意味が見えてくる人もいるかもしれない。現在のJリーグ(特にJ1)のリアルな傾向を示す数字である。112名が高卒でJリーグへ加入した選手であり、50名が大卒、36名が外国籍の選手たちだ(FC東京の室屋成のように卒業前に加入した選手も便宜上“大卒”と定義している。そもそも今年のルーキーも3月までは“卒”ではないけれど、こちらも同様である)。

 大卒選手に対して2.24倍の割合で高卒の選手たちが先発している計算になるが、「意外に高卒組が多い」という印象を持つ人もいれば、「これだけ大学経由の選手がいるのか」と驚く人もいるかもしれない。ちなみにJ2、J3とカテゴリーを下げるごとに大卒選手の比率が増えていく日本サッカー特有の現象も別にある。日本代表で大卒選手となると、少数派(直近の日本代表戦の先発では長友佑都のみ)であることからも分かるように、トップ・オブ・トップの日本人選手となるとさすがに高卒でプロ入りした者がほとんどだが、裾野へと範囲を広げていくほどに大学サッカーの日本サッカー界に対する貢献度が見えてくる構図だ。

 下部カテゴリーで大卒選手が好まれるのは台所事情もある。単純に「安い」のだ。Jリーグは新人契約の年俸上限を「480万円」に設定しており、新人はたとえ実力があっても相対的に安いという経営上のメリットがある。ただ、しばしば誤解されているが、この新人契約の金額に下限は設定されていない。このため、生活ができないような金額で契約する選手も多くいる。彼らのほとんどは大卒だ。高卒にそんな契約を提示しても「じゃあ、大学に行きます」で話が終わってしまうが、大卒ならば夢と野心、サッカー愛のために受け入れる選手は多い(もちろん、「じゃあ就職します」という選手も少なくないが)。

 そうした契約から実際に這い上がってくる選手もいるのも確かだが、年俸に下限を設ける規制はそろそろ必要ではないか。プロ契約選手が5人でいいことになっているJ3はともかく、J2以上のカテゴリーについては一考の余地があるはずだ。次シーズンから各クラブへの分配金も大きく増えることになっているので、「金がないから無理」という言い訳もできなくなった。制度を改めるなら、このタイミングしかあるまい。Jリーグの価値自体を向上させ、より裾野を広げるチャンスとして前向きに捉えてもらいたい。「じゃあ、就職します」となった中に、Jリーグを支えるタレントが眠っていたかもしれないのだ。

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多くの才能が隠れている大学サッカー界

 その思いは開幕戦で先発した大卒ルーキーのリストを見ているとあらためて強くなる。全体に後方のポジションの選手が多いのは、DFに遅咲きの選手が多いことと無縁ではない。大学サッカー界は長らく遅咲きの、高校時代に見落とされていたタレントを次のステージに繋げる場として機能してきた。また数はそう多くないストライカーについて言うと、もう少し別の真実味が出てくる。大卒FWでJ1開幕戦で先発したのは合わせて6名(試合での登録がFWなだけで、センターFWでプレーしていない選手もいる)。その筆頭格が日本代表の小林悠(拓殖大→川崎F)であり、次点はFW永井謙佑(福岡大→FC東京)だろうか。そして江坂任(流通経済大→大宮)、富樫敬真(関東学院大→横浜FM)といった選手たちが続くのだが、彼らはいずれも大学サッカーのメジャーロードである関東・関西のブランド大学に在籍していた選手たちではない。そして永井を除くと、卒業時点では必ずしも大学サッカーのトップ・オブ・トップの選手だと思われていなかったことも共通点だ。大学サッカーのエリートFWがあまり大成していないという言い方もできるが(その理由については別に思うところもあるが)、それだけ眠れる資質を持った選手がいるという見方のほうが健全かもしれない。

 思えば、昨季のJリーグアウォーズにおいて大卒選手として2001年の藤田俊哉氏以来のMVPとなったMF中村憲剛(川崎F)もまた、大学時代は関東選抜にすら入っていない選手だった。たとえ周囲から評価されずとも、サッカーへの愛と情熱を糧にしながら心技体を磨き、思わぬ成長を遂げてくる選手がいる。ただ、そこに甘えてしまうのは、ちょっと違うようにも思えてならない。


川端暁彦

育成年代からJリーグまで取材するフリーランスの物書き。元『エル・ゴラッソ』編集長。専門メディアから一般メディアまで各種媒体へライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。座右の銘は、生誕地(のみ)を同じくする作家の小説から「責難は成事にあらず」。